その6 エピローグ

 その後、ジョージの運転するワゴン車で、横浜港の第二埠頭まで送ってやった。


 三人ともその間、一言も口を聞かなかった。


 埠頭に入るには幾つかのゲートを潜る必要があるのだが、工藤が身分証を提示すると、警備員は何も言わずに通してくれた。


 降りる間際、彼は小切手帳のホルダーを出し、相場よりかなり多い額を書き込んで渡した。


『達者でな』


『元気で』


 俺たち二人はそれだけ言って、彼がタラップを上がるまで見送った。


 船に乗りこむ寸前、彼は俺達二人を見下ろし、直立不動の姿勢なり、敬礼をする。


 汽笛が鳴り、ゆっくりと桟橋を離れ、港を出ていくまで、俺達は見送った。


『なんとかって映画みたいだな。裕次郎が港でさ』


 ジョージがラッキーストライクを咥えながら俺に言った。


『あれはラブロマンスだ。見送ったのは浅丘ルリ子だぜ?それに今日は霧は出てない』


 カチン。


 ライターの音をさせて火を点ける。


 俺はシナモンスティックを取り出した。




 数日して、警察から俺の事務所に電話があった。


 あの日の事を遠回しに聴いてきたので、俺は『知らぬ存ぜぬ』


『依頼人との秘密は守らにゃならん』


 と言いとおした。


 向こうは『探偵免許を取り上げてやる』のヘチマのと、いつもの殺し文句を叫んだが、俺は気にもせずにそのまま受話器を置いた。


 あれから工藤からはなんの便りもこない。


 ただ、カンボディアとヴェトナムでまたもめ事が起こったというニュースは聞いたがね。


                                 終わり


*)この物語りはフィクションであり、登場人物その他全ては作者の想像の産物であります。


 


 






 





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時間通りに教会へ 冷門 風之助  @yamato2673nippon

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