その5 just married!
『ハコ乗り』なんて、大昔の暴走族じゃあるまいが、俺はウィンドのフレームから状態を乗り出し、ケツを窓枠に載せて銃を構えた。
ちら、と屋根の上に視線を送った。
工藤が立ち上がってサンルーフを開け、カメラを回している。
(大人しくしてりゃいいものを・・・・・)
俺は心の中で苦笑したが、まあ奴ならこのくらいはするだろうとも思っていた。
奴もちらりとこっちを見て、片目をつぶった。
待つ間もなく、風に乗って銃声が響いた。二連射だ。
一発は逸れ、残りの一発が俺の頬を掠めた。
ジョージはスピードを緩めた。
俺は気を逃さず、二連射する。
一発は向こうのフロントガラス、もう一発はライフルを構えた男の肩を射抜いた。
頑丈でも車は車だ。
コマのようにくるくるとスピンしながら、中央分離帯に激突して停車した。
どこかからパトカーのサイレンが聞えてくる。
『ジョージ!』
俺が叫ぶと、
『合点!』
奴が返し、ワゴン車はスピードをぐんと上げた。
どこか遠くからパトカーのサイレンが響いてくる。
ジョージは流石に名ドライバーだ。
サイレンの音さえも振り切ってそのまま出口を見つけて下道へと逃げた。
俺達はあっちこっちと逃げ回り、とうとう横浜は本牧までたどり着いた。
世の中には時として不思議なことがあるもんだが、今日など正にその典型だ。
あれっきりパトカーのサイレンも追ってこない。
しかしジョージの車はあの装甲車並みの4WDにぶつけられたお陰で、大破とまではいかないが、相当にいかれてしまっているのは確かだ。
彼は『これじゃギャラを倍増しして貰っても足らないくらいだ』などとぼやいていたが、久しぶりにすっ飛ばした爽快感があったのだろう。顔だけはむしろ笑っていた。
時刻は午前10:00ジャスト。
滑り込みセーフで間に合った。
場所は本牧山手の丘の上にある、小さな、それでいて格式のありそうな教会だった。
俺とジョージはともかく、まさか妹の結婚式に出席する工藤まで、ボロを着せるわけにもゆかない。
でもこういう時、ワンボックスカーは便利なものだ。
工藤は手早く車内で黒の礼服に着替え、教会へと入っていった。
俺もジョージは着ていた服の埃を落とし、それなりに整えて教会の入り口で待っていた。
流石に中には入れない。
いや、遠慮したという方が正解だろうな。
30分ほどして、式は滞りなく終わり、参列者が出てきたので、俺達も邪魔にならない場所で、立っていた。
花嫁の菜々子は真っ白なウエディングドレスに身を包んでおり、清楚で本当に美しい。
親族が並んでいる中に、工藤の姿もあった。
彼は妹との約束を守ったせいもあって、ほっとしたような顔をして、俺達と新郎新婦を代わる代わる見た。
二人は他の新婚夫婦がそうやるように、教会の前に止めてあった真っ白なスポーツカーに乗り込む。
そうして歓声の中、そのまま走り去った。
何でもこれから市内のホテルで披露宴が催されるのだという。
花嫁が走り去ると、工藤が俺たちのところに駆け寄ってきて、俺とジョージの手を握り、彼らしくもなく、顔中をくしゃくしゃにして、涙をこぼし、何度も礼の言葉を述べた。
『礼には及ばないよ』
俺は言い、
『ギャラの方は頼むぜ』と言い添えた。
披露宴はどうするのかと訊ねると、
『出たいところですが、次の任務があります。すぐに横浜港まで行かなくっちゃなりません』
彼はまた元の外人部隊の軍曹殿に戻っていた。
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