その3 ROAD TO YOKOHAMA 1

 妹の菜々子が結婚式を挙げるのは、横浜の本牧にある小さな教会だという。


 彼女のフィアンセというのが家ごと熱心なカソリックの信者で、その勧めで婚約をした時に洗礼を受けたのだそうだ。


 式は丁度今から3日後、彼を守り通して無事に妹の花嫁姿を見届けさせ、そして横浜から船(飛行機かと思ったが、貨客船だそうだ。流石外人部隊だねぇ)でインドネシアまで行くのだそうだ。


工藤だって痩せても枯れても軍人の端くれだ。


一応拳銃は持っている。


(さっきのベレッタがそれだ)


 しかし、幾ら銃器の所持がなし崩しに自由になっているとはいえ、他国の軍人が主権国家である日本で銃撃戦なんぞ演じては国際問題になりかねん。


 そこで、一応ライセンスを持って、銃の所持を許されている俺のところに来たというわけだ。 


 加えて、犯人はどこの何物か分からないときている。


 さっきの狙撃でも明らかなように、敵さんは相当な品ぞろえでこっちを狙ってきているようだ。


 正体も分からない。


 これじゃどう守っていいのか分からん。


 仕方がない。


 とりあえず今晩は俺のねぐら、つまりは屋上のペントハウスに寝かせることにした。


 俺はねぐらに他人を滅多に、いや一度も入れたことがない。


 ましてや泊めるなどと言う行為に至っては完全に『ない』と断言できる。


 性格の問題?


 いや、そんなんじゃない。


 単に狭いから、それだけさ。


 しかし今回は四の五の言ってる暇はない。


 彼は今うろうろと外を歩き回る方が危険だ。


 こんな時、事務所とねぐらが同じ建物にあるというのは幸いだ。


 おまけに7階建てのビルの屋上と来ている。


 ここより高いビルはあるにはあるが、俺のねぐらは窓が一か所しかない。


 しかもそこは丁度去年の今頃、防弾ガラスにしたばかりだ。


 金はかかったが、無理して張り替えておいてよかったと、今になって思う。


俺と工藤は階段を上がって7階まで行き、屋上にあるねぐらに落ち着いた。


 もう一つ幸いだったのは、ついこの間約1週間分の食糧を買いだめしておいたことである。

 

 これで当分の間ここにこもりっきりになったとしても、敵さんから身を隠すことは可能だ。


 俺はいつものように風呂に湯を張った。


 そしてキッチンで簡単に食事の用意を・・・・と思ったら、奴がさっさと率先してやってくれた。


 流石に現役の軍人だ。


 俺なんかより、遥かに動作がてきぱきしている。


(戦いとは相手の二手三手先を読んで・・・・・といったのは、あれは某アニメの軍人だったか)


 などと、くだらないことを考えながら、俺は工藤が整えてくれた食事を食べ、酒を呑んだ。

 

(あ、ついでながら呑んだのは俺だけだ。工藤は煙草は喫うが酒は呑まない)


 ええ?

「久しぶりに昔馴染みに会ったのに、つもる話に花を咲かせたりしないのか」って?


 おあいにく様、


 今の彼は俺の依頼人。


 俺は彼に依頼された探偵、それだけさ。







 


 


 








 










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