第5話

冷たい床の上で、顔のヒリヒリする痛みの中、痛くて起き上がることもできず、その中で僕は母親が死んだ悲しみと、父親への憎悪を募らせていた。


こいつがいなければ、母親は死なずに済んだのに、


こいつがいなければ…!!


そう思いながら、徐々に意識が遠のいていく中、耳元で低いささやくような声が聞こえた。




「父親を殺したいか。」




誰だろう。空耳だろうか。




「父親を殺したいかと聞いている」




よくわからない声の主に対して、僕はいぶかしげに思いながらも、先に言葉が出た。




「こ…殺したい。」




「お前の願いを聞き入れた。」




一体なんだろう、と思いながらも、

僕はそのまま動けない状態で眠ってしまった。


翌朝朝日が部屋に差し込んできて、

リビングで目を覚ました。


母親は冷たく横たわっている。

やはり、心臓が止まっているようだった。


僕の頬からとめどなく涙が溢れた。


優しかった母親との思い出が色々と蘇ってくる。




テストの成績を褒めて貰ったり、一緒に買い物に行ってくれたり、休みの日に一緒にテーマパークに行ったり…




冷たくなった母親の隣で、僕は泣きながら、物思いに沈んでいた。




僕はそのままそこに数時間はいただろうか。




時計を見たら正午過ぎになっていたが、平日にも関わらず父親がまだ起きる気配がない。


普段何も言わず勝手に出勤していたが、それにしては何かおかしいと思い、父親の部屋の前のドアまで移動したが、寝息すら聞こえない。




僕は、意を決してドアを開けた。




すると、ベッド際のあたりに、父親があおむけで倒れていた。




心臓は止まっていた。




昨日確かに、父親を殺したいということは、まどろんでいく中で呟いた気がするが、だからと言って本当に死んでしまうとは思わなかった。


その後、警察の調べで、僕は質疑を受けたが、外傷も毒物なども検出されなかったので、父親は急性の心臓疾患による病死とされ、母親は心労がたたったという結論となった。




両親を亡くした数日後、僕はもぬけの殻になったような状態で今通っている早生大学合格の知らせを受け


母親が密かに貯めていた学費一年分ほどの資金だけを頼りに、進学することにした。

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