第3話

父を殺したことをなぜ、知っているのか、僕はパニック状態になった。


「せ、せ、せ、先生…僕は…あの…」


「落ち着いて。別に、そのことを咎めたり、貴方を罪人として警察に引き渡したりするつもりはないけれど、今後、私に協力してもらう以上、この話は必ずしておかないといけなくなるの。」


先生の話により、僕は多少の落ち着きを取り戻した。けれども、「父が死んだ事件」はそもそも警察の取り調べでも絶対に僕が原因だということが分かるはずがないし、そもそも証拠が出てこない話だ。


たとえ事件現場に出くわしたとしても、分かる筈がないことを、なぜこの人は知っているのだろう。


父は実際死んだ時、警察の調べもあったが、心臓疾患による病死という扱いになった。


「私が、貴方の過去を言い当てることができるのは、普通の人と違う力があるからなの…けれど、貴方も普通の人と違う力がないかしら。」


この人には、何もかも見透かされていると思った。と、同時に、この人なら自分のありのままを話しても、受け入れて貰えることができる、という一種の安心感を持った。


僕は、松井先生に、自分が誰にも言えなかった、過去を話す決心をした。


僕がずっと授業で遠目で追っていた、松井先生なら、たとえ僕がこの過去を話したことによって、僕が不利益を被っても構わない。


もし、この問答が、僕を警察に突き出すための罠であっても構わない、と僕は思い、口を開き始めた。

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