第18話 機能テスト
武器を詰め込んだ車両二台で都市外郭の侵入可能なハッチのある地点まで向かう。途中で組織に連絡を入れ、一時間ほど見張りを退かすよう既に手を回してもらった。
ハッチには開けるのに中々骨が折れそうなごつい電子錠が据え付けられている。PCと接続するためのコネクタを伸ばしかけた手を止め、マリオは振り返った。
「こいつはどうだ?」
リリアが頷く。それと同時にロックの外れる音。明滅するランプの色はレッドからグリーンへ。取っ手を掴んでみると、蝶番が軋みをあげながらハッチの蓋が開いた。
「一瞬かよ」
「形無しだな。期待が膨らんできたじゃないか?」ヒューズが歯を剥いた。
「肝心のものを見てからだ。準備はいいな?」
リリア以外の全員が武器を掲げたのを見て、マリオは各人に持たせた端末に地図情報を送信した。
「つい先日手に入れたやつなんで構造に関しては問題ないと思うが、ガードの順回路まではカバーされてない。警戒を怠るなよ」
この辺りも構造が大分様変わりしていた。記憶ではこのハッチからは外壁に沿うように長い直線の通路が延びているだけのはずだったが、足を踏み入れてすぐ右に、ちょうど人間が通れそうなほどの横穴が大きく口を開けている。その奥から流れてくる濁った空気に顔中を撫でられ、入って早々不快な気分にさせられた。
先頭をマリオ、最後尾をアデルが受け持ち、小刻みに振動する通路をかたまって進む。
「鋼材の継ぎ目は踏むなよ。溶接が甘くて抜けることがあるからな。そういや、そのロボットの重量はどのくらいなんだ?」
「およそ30kg前後です」リリア本人が答えた。
「意外と軽いな。ラウラの半分くらいか?」
後頭部に鈍い痛み。通路に落ちた大きめのボルトが転がり、誰かの忍び笑いが起こった。
「ひとつ質問をよろしいでしょうか、マリオ様」
にこりともせずにリリアが言った。
「なんだよ? 見ての通り取り込んでるから手短に頼むぞ」
「なぜ、このように不法な侵入を? ガードに排除対象として認識されるのは当然だと思いますが」
その場にいた人間は全員が顔を見合わせる。代表してマリオが言った。「どこから入ろうがあいつらは攻撃してくる」
「状況を理解しました」
リリアが立ち止まって目を細める。視線の先には壁しかない。恐らくはその先にあるものを見ている。
「おい、何をやってる?」
「設定の変更処理を行いました。この施設の保護用AIはいずれも通信可能な状態でしたので、一時的にここにいる皆様を排除の対象外として認識するよう例外を追加しました」
沈黙。施設の駆動音がやけにやかましく響いた。
「……ガードを無害化したのか?」
「あくまで一時的な処置です。抜本的な変更を行うにはプログラムの改修が必要ですので、その場合は少しの時間が必要になります」
パーキンスが降参だと言いたげに肩をすくめた。
「レッドキャップ、こいつは本当だと思うか?」
「分からん。確かめる手段が無い」
「証拠をお見せします。いま、近くにいた一体に対して、こちらへ向かってくるよう指示を出しました」
リリアが奥を指差した。その先、長い円周上の通路の先から姿を現したドローンを見て全員が反射的に銃を構える。
「大丈夫です」
その言葉を証明するように、ドローンは攻撃態勢を取ることなくゆっくりと近づいてくる。その場の誰もがこんな挙動をするAIを見たのは初めてのことだった。
ローター音が大きくなるにつれ、心臓の鼓動も激しくなる。マリオは思わず自分の胸の部分を服の上から掻き毟った。
「ああ、くそ」
「怯えなくていいわ。向こうが武器を見せてから照準を合わせても間に合うのだから」アデルが諭すように言った。普段より一段易しげな声音が癪に障る。
「そりゃ、お前だけだ」
やがてドローンが目の前で止まった。その場でホバリングして緩やかに空中を上下している。他の面々が緊張から構えを解かない中、アデルだけが銃を下ろして近付き、下から後ろからしげしげとその様子を観察した。
「本当に、あなたが操ってるのね?」
笑顔で振り返ったアデル。リリアは簡潔に肯定した。
「はい」
マリオも意を決して近づいた。拳で何度か小突いてみる。それでも反応無し。確か──ドローンの制御プログラムには特権ユーザー用の機能がいくつも仕込まれていた。恐らくはそれを使ったに違いない。
用事は済んだとばかりにドローンが180度向きを変え、来たときと同じようにゆるゆると飛び去って行った。最後まで銃を構えていたのはパーキンスとホワイトの二人だった。
「本来であれば施設への入場ゲートを通過した時点で正式な来場者として認識されるはずなのですが、ただいまスキャンしたところゲート自体が欠損したことにより該当機能が利用できない状態となっているようです」
リリアが先導するように前に出た。
「中央制御室までこのまま進めます。現在の権限でアクセスできるデータベース内には、施設の破損に関して説明のつく情報が見当たりませんでした。申し訳ありませんが、道すがら、このような状態に陥った経緯についてお伺いしてもよろしいでしょうか?」
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