第8話 変化する日曜日
色々あったなあ、と。まどろみの中でぼんやりと思った。心配したり羨んだり、苦しんだり戦ったり、怪しんだり笑ったりの一週間だった。少なくとも、そう思うし、思いたい。
無事に昨日見つけ出したサイコロを、積雲は振ったのだろう、今日は朝から太陽が照りつけている。カーテン越しに日の光を感じながら、名残惜しいが布団を出た。
早くに起きないとご飯たべちゃうわよー、なんてのたまう母さんの声が聞こえてくる。食卓に向かうと、何故か
「ったくもー、起きるの遅いなあ、そんなだと入試の日にも寝過ごすぞ?」
「寝過ごすはずないだろ」
にこやかに母さんが作ったであろうサラダを食卓に並べる姿は、何の違和感もない。違和感が無い。何してるんだ凪。フリーズした俺の思考に気づいたのか、凪はニヤッと維持悪く笑う。
「俺より頭のいい
「塾に行けよ」
「冷たいなあ梨夢、この時間から塾が空いていると思うのか?」
そんなに理解したい問題があったのか。だからって俺の家に来るなよ。
「つーかこのジャガイモ、めっちゃ美味いっスね!」
「そう? よかったらお土産に持って帰ってね!」
「ありがとうございます!」
自然に食事が始まっている。俺を待てよせめて……そして凪は遠慮しろ。ジャガイモ、じゃなくてポテトサラダと言え。突っ立ったままでは何も始まらないので、座って俺も朝食を食った。
言葉に嘘は無かったらしく、凪は食後に数学のワークの問題を取り出した。相似と合同と比と、何やらかんやら大変な応用問題を二人で必死に解くこと三十分。何とか模範解答と一致した解答を嬉しそうに見て、凪は帰っていった。
「あら、凪くん帰っちゃったの?」
「そりゃ、この時期は勉強しなきゃだし」
「この一週間、梨夢は遊んでばっかりだったじゃないの」
母さんは微妙に不服そうに口をとがらせる……ヤバい、退散するとしよう。ぐうの音も出ないし。
「じゃあ俺、勉強してくるから」
宣言して急いで自室に駆け上がる。どこの家庭でもそうだとは思うが、母は怒ると怖いのだ。
しかし、まあ。椅子に腰かけて改めて思う。一週間、本当に色々あった。
この短い、一週間という中で少しだけ、自分という存在を肯定できるようになった気がする。自分はこうなのだから、他人を羨んでも仕方ないと。羨んで羨んで羨んで、羨み続けて、そう思えるようになった、ような。
それは神様だって完全じゃなく、人間に歩み寄るための制限を持っていたり。羨み続けている幼馴染みに、実は自分が羨まれていたり。そんなことが、あったからだと、思う。
変わることは難しくとも肯定することは難しくとも、できないわけじゃない。肯定することができるようになったことで、自分は変われるんじゃないかと。なりたい自分に、諦めずなろうとできるんじゃないか。
人は、自分では気づかなくとも寂しがり屋で、誰でも少しは秘密があって。そして、それでも誰かと笑いあいたくて。自分も漏れなくそんな人間で、それはとても素晴らしいことなのだと思う。仲間はずれなんかじゃなく、みんなそんな風に悩んで考えているんだろう。
「……やるか」
こんなこと考えていないで受験勉強に精をださなければ。願わくば積雲や秋和と一緒に高校に通えるように、シャーペンを握り直した。
おわり
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