復讐を止める系ヒロイン

中本 優花

『死んだ○○は望まない』

「主人公! 復讐なんてしても死んだ妹は望まないわ!」


 俺は遂に宿敵を追い詰めた。

 俺の妹を殺した宿敵を……

 あと、この銃の引き金を引けば殺せる。

 復讐の旅もここで終わりだ。


「うるせぇ! お前になにが分かる!」

「分からないわ! でも少なくとも私は殺されても誰かに復讐なんて望まない!」

「綺麗事だ!」


 それじゃあ妹は報われない。

 だから俺はここで……


「貴方はロー○ンのからあげクンを横から一つ取られたくらいで怒る人なの? 想い人に人生を棒に振って欲しいの!?」

「それとこれとは訳が違う!」

「そうね! からあげクンは人の命より重いもの!」


 くそっ……正論だ。

 否定出来ねぇ……でも……それでも!


「ただ殺されただけよ! 怒るほどのことじゃないでしょ!」

「いや、待て。どうしたらそんな発想になるんだ? 普通は殺されたら怒るだろ」

「怒らないわよ! 少なくとも私は!」

「それじゃあ俺はお前を殺す。それでもか?」

「むしろ殺して!」

「ちょっとお前は頭おかしいだろ! 一度病院に行ってこい」

「嫌よ! お金がもったいない!」


 まったく……

 調子が狂う。こんな女に構ってないでさっさと殺して復讐の旅を……


「これであいつも……」

「だから復讐はやめて!」

「なんだよ! お前には関係ないだろ!」

「そりゃあなた。目の前で横入りされて殺人犯そうとしてる人がいたら誰だって止めるでしょ!」

「まぁ……それもそうだな」

「だから私は止めるの!」

「いや、殺人と横入りを同列に扱うなよ!」

「同じ犯罪じゃない!」

「これはあれだな。価値観が違いすぎる」


 そもそもだ。

 俺は妹のために復讐するんじゃない。

 自己満足のためにやるんだ。


「もう妹の思いとかいい! 俺が殺したいから殺す!」

「なんで殺したいの?」

「そりゃスカッとしたいからだ。俺はこいつにムカムカするんだよ!」

「つまりオナニーじゃない! オナニーの度に殺人をしてたら人類が滅んでしまうわ!」

「いや、この返しはちょっと予想外だわ」


 しかし彼女の理論も一理ある。

 復讐は自己満足だ。だがオナニーも自己満足であるのは間違いない。

 つまり復讐=自己満足=オナニー。

 復讐=オナニーという数式が成り立つ。

 たしかにオナるためだけに殺されたら被害者としても溜まったもんじゃないわけだ。

 しかし俺はすげぇこいつにイラッときてる。

 その感情を解消しなきゃ気が済まねぇ!


「あなたの気持ちも分かるわ。でもあなたはコーラの炭酸が抜けてるとイラつくじゃない!」

「だからなんだよ!」

「その時のイライラと同じ方法で解消出来ないの? それとも貴方はコーラの炭酸が抜けてただけでイライラしてストレス発散するために人を殺すような人なの?」

「つまり……俺のやってたのは無駄だったのか?」


 いや、待て。

 おかしいだろ。コーラの炭酸が抜けてたイライラと妹を殺されたイライラ。

 それが同列のわけがねぇ。

 こいつの価値観が間違いなくおかしいんだ。


「復讐なんてやめなさい!」


 ようやく理解した。

 そもそも復讐肯定派と否定派は大きく価値観が違い過ぎる。


「ていうかマジな話していい?」

「今までマジじゃなかったのかと俺は聞きたい」

「復讐したら、そいつと同じだと思うんですよ」

「まぁそうだな。基本的には同じになってもいいから殺したいって想いが強いから復讐になるわけですし。ソースは俺」

「なるほどね。もしかして私達は死に対しての価値観が違い過ぎて永遠に相互理解出来ないんじゃないかしら?」

「そうだよ!!」

「でも結局あれよね。死後の世界なんて誰も知らないから想い云々は馬鹿馬鹿しいよね。もしかしたら死後の世界は食う寝るヤるの世界で『はやく死ねばよかった』とか言ってるかもしれませんし」

「たしかに」

「逆にそんな世界に嫌いな人間送り込むのって誰も得しないと思うんですよ。むしろ殺された妹さんからしたらガチギレ案件かなと」


 そんなこと考えたこともなかった。

 でも、あくまで仮説だ。

 しかし否定する材料もないわけで……


「結局、復讐の正解って?」

「え、そんなの殺されたくらいで死ぬ妹さんを恨むのが一番正解では? そもそもナイフで刺したくらいで死ぬ側に問題あるかと」

「そうきたかぁ……」

「一番の悪は容易く死んだ人間。筋肉が足りない」

「筋肉でどうにかなるのか?」

「なる。筋肉最強」

「まじか。筋肉すげぇわ」


 気付いたら俺は銃を下ろしていた。

 なんていうか復讐に正しい自信が持てなくなっていた。俺はなんのためにしてたのか。

 自己満足のためだとしたら、欲求を満たすために殺人なんて馬鹿げてる。

 妹の為とは言っても妹がそれを望むのかというのが難しい問題。


「復讐をするのは死者本人と会話して、殺しを望む時だけに限るわ。そもそも復讐なんてする労力があるなら蘇らせる努力をした方が有意義ね」

「結局、復讐って正しいのか……」

「悪だと私は思うわよ。人殺しに善と悪もない。でもイラッとするのも事実。だから一発ぶん殴るくらいで終わらせるくらいが良いのよ」


 俺はなにが正しいのか分からなくなっていた。どうするのが一番なのかと……


「結局あれなのよ。一番辛いのは殺された人間じゃない。残された人。だから常に私達は死なないように努力する。それでも死んだらその時は『わりぃミスった(笑) 来世でまた会おうぜ』って笑いましょ」

「そうだな」


 死を永遠の別れと捉えるか。

 それとも来世で会えると考えるか。

 結局、一番大事なのはそこかもしれないな。


 もしかしたら俺達は死を重く受け止めなのかもしれない。

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復讐を止める系ヒロイン 中本 優花 @Aliceperopero

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