落ちこぼれが送るごく平凡な学校生活〜楽に生きたい『神殺し』〜

初柴シュリ

プロローグ、或いは彼の前世






『……まだ我に勝とうとするか。小さき者よ』



頭上から降りかかる傲岸な言葉。立ち上がろうとすると節々から悲鳴が上がり、思わず力が抜けそうになる己の体を必死に叱咤する。


まだ、終われない。クソッタレな神の言葉にノーを突きつける為、口に溜まった血液混じりの唾を吐き出す。



「当たり前だろクソ神が。テメェの頭に風穴開けて、グチャグチャにするまで気が済まねぇンだわ。分かったならそのぶら下げたアホ面さっさと差し出せ」


『……どうやら未だ躾が足りぬ様だな。我が小指を一つ動かせば、素っ首をひと時で落とせると言うのに、随分と恐れがない様に見える』



確かに、奴が言う事は正しい。このクソ神によって生み出された、いわば被創造者とも言える俺達は、奴の意思一つで心の臓が麻痺してしまう。それはいわば、俺達人間を効率的に管理する為、奴らが仕掛けた安全装置の様なもの。


だが、それ故に奴は油断する。いつでも殺せるという余裕が、絶好の機会へと変貌する。



「ハッ──ならやってみろよ。生憎俺は諦めが悪い。テメェが死ぬか、俺が死ぬか。残されてんのはその二択だけだ!!」



手に愛銃リベレイターを握り締め、一気に駆け出す。今にも砕けそうな身体を魔術で強化し、弾倉に特殊な弾丸バレットを滑らせ、奴をしっかと見据える。


当然、小蝿の如く動き回る俺を苛立たしく思えば、奴は躊躇なく俺の動きを止めてくるだろう。人間の代用品など幾らでもいる。己の小さい都合で何百万と処分してきた奴らだ、今更一人や二人、死者が増えたところで何も変わらない。



『ならば望み通りにしてやろう──《死ね》』



奴の瞳が光り輝く。放たれた言霊の力が俺を縛り付け、生命活動を停止させようと力を発揮する。


何度も見た。幾度も目の当たりにした。大切な人が死に、知人が死に、そしてそれを何も出来ずに、俺は見て、見て、見て──膝を突きたくなるほどの苦しみを経て、そして怒りを覚えた。


脚へ。腕へ。首へ。まるで蛇の様に呪いが巻きつく。ゆっくりとした死を与える為に、俺を優しく抱擁する。


その因縁を断ち切る為に、こうして奴へと叛逆をしたのだ。だから、こんな程度じゃ──



「──終われる訳が、ねぇだろうが!!」



パキ、と呪いの鎖にヒビが入る。


脆い。俺達はこんなにも脆い物で命を繋がれていたのか。そんな怒りのまま腕を振るうと、鎖が完全に割れ落ちた。



「これがアイツらの想い、そして力の結晶だ!! 簡単に殺せると思ってんじゃねぇぞ!!」



。人を縛り付ける神の力は破れ、四肢は自由を取り戻した。そう、今こそ叛逆の時。



『何……?』



一切表情を見せなかった神が、初めて見せた驚きの色。そうだ、その顔をさらに歪ませるがいい。それが俺の昏い歓びを更に湧き立たせる。



「さあ──精々願いな。『なるべく苦しまず死ねますように』ってなァ!!」



カチャリ。右手のリベレイターが、静かな唸りを上げた。








◆◇◆◇◆







彼は神殺しに挑み、そしてそれを成した者として、皮肉にも仲間によって『神話』に記録される事になる。人を解放し、神の時代を終わらせた解放者リベレイターとして。


しかし、彼の人生はまだ終わっていなかった。神を弑逆した彼の命は死の世界へと巡る事は許されず、永劫に輪廻を刻まれる運命となり、幾星霜の時を経た人の世界へ──

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