第21話 新たな時代
80 不十分です
帝都惑星〈ベイアトリス〉──。
その静止衛星軌道に位置する宙港と地表とは
〝
〝
その際には一つの
豪奢な造りの帝室専用
「
その声の響きに何か感じるものがあったのか、エリンはすぐには反応をしなかった。そんな皇女に辛抱強く待つメイリーがもう一度声を掛けようと口を開く前になって、エリンは
「──やっと呼んでもらえるようになったのに……もう〝エリン〟と呼んでもらえないのですね……」
寂し気なものとなった瞳でそう言う皇女にメイリーは黙って肯いて、それから〝暇乞い〟を願い出た。
──クリュセに戻り、父である首相を説得したい、と……。
メイリーの父〈クリュセ〉自治惑星政府の首相ミカエレ・ジェンキンスは、『星系同盟』構成国の指導者の中でもタカ派の急先鋒として知られていた。
今回の〝事変〟に関してもそもそもの事の始まりから帝政連合政府と対立を深めており、事が起こってからは〈オオヤシマ〉の〝対『
そんな父──〝偉大なる『クリュセの父』〟にして〝自治権獲得運動の『闘士』〟には〝裏の顔〟があった……。
その父の〝裏の顔〟に、今度こそメイリーは逃げずに向き合うことにしたのだった。
メイリーの表情の中に固い決意を読み取り、エリンは彼女を快く送り出すことにした。
本当のことを言えば── いま少し〝友人〟として傍らにいて欲しかった。帝位に就くその
〝あの人〟が傍にいることが許されないのならば、せめて〝友人〟たちは自分の傍らにいて然るべきではないのか……。
──身勝手な自分……。それは〝
そんな想いを諦めて、エリンは彼女に笑顔を向けた。
そう思うことで、エリンは〝戦友〟を笑顔で送り出すことに決めた……。
メイリー・ジェンキンスは、
メイリーがエリンと再開を果たすのは、長い
7月21日 1100時
【ベイアトリス軌道エレベータ宙港/
「宙佐……」
帝室専用
「──帝都における報道の方ですが、体制はどうなっていますか?」
出し抜けにそう訊かれ、キールストラは皇女附武官の真意を慮るように、彼女の整った幼さの残る顔立ち──日系女性の顔は皆そうだ──を見返した。
皇女に随行する面々の中で、武官とはいえ
単刀直入なその物言いは、
「軍務省と王室附きの報道官を用意しています」
「不十分です」 シホ・アマハは、その回答をあっさりと切り捨てた。
「…………」
これにはさすがにキールストラは継ぐべき言葉を探したが、結局は表情を変えず次のように言い放った。「──理解はします……が、私は
この件で不備を指摘されたところで、キールストラとしてはどうするつもりもない。どの道この状況の中で、前線の軍人である彼に何が出来るというのか。
後は神妙な面持ちで黙殺することにしたキールストラだったのだが、アマハの方は先回りして話を進めていく。それでキールストラは内心で彼女を見直すことになった。
「──皇女殿下の『御言葉』を頂いております。各省と帝都行政長官の報道官、それに公安と『
そんなアマハの澄ました顔の奥からは、マシュー・バートレット──フリーランスのジャーナリストを名乗る男──が、被った帽子のつばを軽く持ち上げてきていた。
──なるほど……。
彼女の立場は〝武官〟ということだったが、どうやらこういった
キールストラは、このとき初めてシホ・アマハに興味を持ったのだった。
「どうもこれは
キールストラ宙佐は一つ頷いて、やはり表情は変えずに幕僚の一人を呼び立てた。「──ファン・ダウン宙尉!」
「はい」 宙佐の背後に控えた二人の幕僚の中、年少の女性の方が応答した。
「
「──かしこまりました」
帝国軍人らしからぬ嫋やかな受け答えをしたファン・ダウン宙尉は、アマハに向き直ると微笑みと共に頷いてみせた。
そうこうすると皇女エリンが控えの間より現れた。皇女はアマハの姿を求め視線を巡らした後、視線が合ったアマハが頷いたのを受けて帝室専用
アマハら随行の者もまた
7月21日 1110時
【ベイアトリス軌道エレベータ
新たに
──それ程にファン・ダウンは優秀であり、その人柄にも信頼を置くことができた。アマハは自らの後事を託すのに十分だと判断した。
そして
事務方向きの事についてはファン・ダウン宙尉に任すことが出来ると、そうアマハが言うのであれば任すことが出来る。だが〈カシハラ〉の命運は託せなかった。──
シホ・アマハは〝
彼女がララ=ゴドィの船──〝宙賊船〟〈ラドゥーン〉の着岸する
* * *
帝政連合政府の『第一人者』フォルカー卿は、〝
その『第一人者』が擁立を画策していたトシュテン・エイナルは、その『政府宮殿』から退去するフォルカー卿との同行を拒否している。──彼は自らの運命を受け入れたかのように、『
7月21日 1225時
【ベイアトリス軌道エレベータ 基底部/
そこには『帝都』より迎えに上がってきた〈近衛兵〉がおり、それを〈トリスタ〉の宙兵隊が壁となって阻むという事態が生じていた。
「──どうしたことか?」 皇女に同行する宙兵隊少佐カルノーが声をあげる。
皇女の随行の中で、最初にその違和感に気付いたのはベッテ・ウルリーカだった。
彼女は皇女の正式な随員の立場にはなかったが、〝
男は〈近衛兵〉と〈宙兵〉とが睨み合う前方からではなく、今し方通ってきた貴賓室のある後方から、静かに皇女ら一行へと近付いて来た。
その出で立ちは
ただその顔に
「──おい、お前……⁉」
鋭く
「──
このような場合の対処として〝自ら応えてはならない〟ということは知っていたはずなのに、エリンは応えてしまっていた。
「何でしょうか?」
男は腰のホルスタに手を伸ばしつつ、真っ直ぐに皇女の方へと近付いていく。
「──エリン……っ!」 ベッテは叫んだ。
──ちッ……‼
初動が遅れたことを悔やみながらも、
──が、オーサが左手で銃の遊底を掴み右手のナイフで男の銃を持つ手の〝健〟を切断しようという瞬間には、
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