52 ……お土産ですか?
登場人物
・ビダル・クストディオ・ララ=ゴドィ:
扯旗山の私掠組合の首領、35歳、男、通称〝
・ギジェルモ・デル・オルモ:
ララ=ゴドィの片腕、〝策士〟兼〝相談役〟、31歳、男、実はハッカーもする
・ベッテ・ウルリーカ・セーデルブラード:
ララ=ゴドィの〝従卒〟、自称〝愛人〟、14歳、女、元ミュローン貴族らしい
・エリン・ソフィア・ルイゼ・エストリスセン:
ミュローン帝国皇位継承権者、18歳、女
・ユウ・ミシマ:
HMSカシハラ副長兼船務長、22歳、男、ミシマ財閥の〝三男坊〟
・キョウ・ミシマ:『ミシマ商会』副社長、30歳、男、ユウ・ミシマの次兄
・ハルキ・アヅマ:同副社長室長、57歳、男、キョウ・ミシマの懐刀
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6月16日 1905時
【格納庫内
皇女殿下との謁見から戻った〝
そんな〝
「……どうだった?」
ララ=ゴドィは目線だけ動かしてギジェルモを見遣り応えた。
「どうもこうも…… ありゃ確かに〝ミュローン〟だ ……
その言葉にギジェルモが軽く目を見開いて返すと、ララ=ゴドィは謁見の内容を
──こちらからの『私掠免許状』の要求を
ギジェルモは黙って聞いていた。
一通り話し終えたララ=ゴドィは、今度はギジェルモに訊き返す。
「そっちは?」
ギジェルモは両の肩を大きく竦めてみせた。それで侵入の不首尾を伝える。
「ダメだった…… あの
「…………」
そんな答えに、ララ=ゴドィはもうそれ以上何も言わない。
「ところで──」
ギジェルモが
「アイツは置いてきた」
ギジェルモの視線の動きに、ララ=ゴドィそう答えた。アイツとはララ=ゴドィの従卒の少女──ベッテ・ウルリーカ・セーデルブラードのことだ。
「……?」
ギジェルモはララ=ゴドィに向くと、その顔を覗き込んだ。「──〝人質〟、かね?」
「ま、そんなところだ」
ララ=ゴドィは面倒そうに言い、それから言い訳がましく付け加えた。「──それに、ここらで〝戻した〟方がアイツのためだろう……?」
「それは……」
それに何か言いかけたが、結局ギジェルモは空の酒杯に視線を移して薄く笑みを浮かべた。「──ま、そうだな……」
そんなギジェルモに構うでなく、ララ=ゴドィは席を立った。
「ともかく〝
「戻ったら直ぐに『
「それはオレがいこう」 ギジェルモもニヤリと応じた。「──大丈夫。酒はちゃんと抜いてくよ」
「さて……」 ララ=ゴドィは舌なめずりするように目を細めた。
それから独り言る。
「──面白くなってきやがった……」
6月16日 1930時
【カシハラ /指令公室】
これから夕食とのことだが、ララ=ゴドィは夕食の誘いを辞して
舷窓には
少女はそれを〝見下ろす〟ように目線で追っていたが、背後に皇女の気配を感じると振り返り、わずかに躊躇った末、
「心細いでしょうか?」 そんな少女に、エリンは優しく声を掛けた。
「──しばらくはわたしの〝客人〟ということで
「…………」 少女は恐縮したのか、それとも様子を覗っているのか、黙って返している。
エリンはそんな少女にお道化る様に笑って見せた。
「──わたしも、
しばしの沈黙があったが、結局ベッテは口を開いた。「──構わなくていいです。慣れてますから」
ちょっと〝はすっぱ〟に言い、
「──貴女も〝ミュローン〟と聞きました」
言ってエリンはテーブルに着くとベッテにも席を勧めた。
主のララ=ゴドィが去り際、〝連絡役〟に彼女を残していくと言い、こう加えた──「じつはコイツも貴種なのです。世が世なればミュローン貴族の〝姫君〟であらせられる」──と……。
ベッテは皇女の顔を見返すと、流れる様に粗相なく着席してみせた。
表情のないベッテのその様子に、エリンはそっと言う。
「意地が悪かったでしょうか?」
ベッテはあからさまに不機嫌な
「そう思うんなら、初めからやらなけりゃいい」
突き放すようにそう言って目線を上げられないところに、この娘の真摯さと幼い自己保身との〝せめぎ合い〟を見て取れるようで、エリンならずとも彼女の〝不快さ〟を追体験させられた気になる。
「そうですね。ごめんなさい」 エリンは素直に謝った。
その上でエリンは切り出した。
「──お友だちには、なれませんか?」 と……。
ベッテはその言葉にいよいよ激昂した。
「あ、あのさ……っ‼」 勢いよく席を蹴って身を乗り出す。「わたし、海賊よ!」
「はい……」 エリンはその言葉を正面から受けて頷いた。
「──泣く子も黙る〝
ベッテは腕を振り回し、自らの立場を主張してエリンの
エリンは動ずることなく、視線を真っ直ぐに返して言った。
「〝
ベッテは、自分が女として未だ成熟しておらず、ララ=ゴドィの眼中に入っていないということを理解はしている。当然、幼女趣味のないララ=ゴドィとの間に、そういう関係はない。
「え⁉ あぁぅ……」 言葉に詰まったベッテは、アワアワと胸元で両の手動かして、エリンと同じように赤らめた顔になると、ストンと腰を下ろした。「──だって、ずっと手元に置いてるってことは……〝そうしたい〟って、そう思ってるからだよね……」
だから〝嘘は言ってない〟、そう言いたげな瞳が切なげに揺れている。
「…………」
そんな瞳を見たエリンは何と応えてよいかわからず、それでも何とか言葉を紡ぎ出して言った。「あの、それは……貴女のことが、とても大事なんだと思います」
「うん……」 それでどうにか納得したふうなベッテは、おずおずとエリンに言った。
「あ、あのさ…… あんたがララ=ゴドィの友達なら……、わたしにとっても友達、だから……」
そう言うベッテに、エリンは笑顔になって思った。
──かわいい……妹ってこういう感じなのかしら。
丁度夕食が運ばれてきたところで、配膳のワゴンを押して入ってきたアマハに、エリンはたった今友人となった少女を改めて紹介した。
6月18日 1000時
【〝
「──例の〝
〝
「──『宙賊館』が『外事課』を介して〝取引〟の追認を求めてきたそうです」
結局、6月6日の政変に伴い回廊の要衝を
〝安楽椅子探偵〟よろしく後方に構えている余裕がなくなる前に、キョウ・ミシマは側近のアヅマだけを伴い、物語の核心となりつつある〝航宙軍からの離脱艦〟と〝帝国皇位継承権を保有する娘〟の今後を見定めるため、『宙賊航路』の〝
キョウは、店先に吊るされた編み込み紐の玉のペンダントを、幾つか手に取って見比べていた。
「……お土産ですか?」 アヅマは遠慮がちに訊いた。
「ああ……二人の娘にね── これと、これを貰おうか」 キョウは真剣な面持ちでペンダントを二つ選ぶと店の主を向く。「……これは、口に入れても大丈夫かな?」
店主が頷いて返すとキョウは満足げに顔を綻ばせ、懐から現金を引っ張り出した。
「もっと〝落ち着いた店〟で選ばれたらよいでしょうに」
露店から離れてからアヅマがそう言うと、キョウはニコニコとした
「
アズマはとりあえず肯く。自分がこの十年で育てたこのミシマ家の次兄の〝こういった感性〟はどうにも理解し難く、これは彼
二人は車──
「それで──どんな条件を示してみせた? ……
ミシマ商会の〝外事課〟という非公式部署を掌握するハルキ・アヅマ副社長室長は、
聞き終えたキョウ・ミシマは、握った拳を
「ふぅむ…… 『宙賊航路』の使用料の徴収権と〝
──正直、そこまで踏み込んだ〝取引〟は想定していなかった。
「ユウ様も中々の〝
そうアヅマが感心したふうにそう言うのが聴こえた。──
そのアヅマの言に、キョウは
「いや、ユウは
キョウは指導する学生のレポートが〝良い出来ながら評価対象外〟であるのに困っている若手講師、というような
「──
キョウの記憶の中の弟が、怒ったように顔を上げ、その真っ直ぐな目でこちらを向いたように思った。何故だか、口元が綻んでしまった。
「若君らしい、ですか……」
アヅマにそう訊かれ、キョウは韜晦するような横顔になって応えた。
「ロマンチストだからね、弟は…… 4人の兄妹の中では一番〝夢を語る〟存在だった」
それから表情を消し、低く呟くよう静かに訊いた。
「──アヅマ…… 〝ミュローン二十一家〟のうち、ベイアトリス ──エストリスセンの側には一体いくつ付くかな?」
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