11 何だよ、これ⁉ 俺は、言葉を失った。


登場人物

・【俺】タカユキ・ツナミ:

  宙兵78期 卒業席次2番、戦術科戦術長補、22歳、男


・コトミ・シンジョウ:同席次6番、船務科、23歳、女、ツナミの幼馴染み

・トウコ・クリハラ:同席次5番、戦術科砲雷長役、22歳、女、通称『氷姫』

・ヨウ・ミナミハラ:同席次17番、戦術科、24歳、男


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6月6日 1100時

【カシハラ/ CIC】 ──タカユキ・ツナミ──


「ツナミ准尉……ツナミ准尉……! ──タカユキ‼」


 自分が呼びつけられていることに気付くのに、少しかかった。

 声の主を求めて主管制の制御卓コンソールを振り見やると、コトミの、奥二重でしっかり者の性格がよく出ている顔が、心配そうにこっちを向いている。


 ──俺としたことが、少し意識が跳んでいたらしい……。



「な、何だ?」


「報告── 敵接舷戦闘支援機を排除、3機とも撃墜しました。帝国宇宙軍ミュローン小艇が退避していきます」


 コトミはすぐに航宙軍士官候補生の表情かおに戻り、状況を報告した。俺はすぐさま現実に引き戻してくれたことに感謝する。


「──小艇はいい…放って置け」



「戦術長! チャンネル99を‼」


 ──チャンネル99…? それはエデル・アデン星域全域をカバーする国営放送チャンネルだ……。


 俺は言われるままにCIC内の複合モニタの一つに目線をやった──。


『……先程、帝政連合政府より、第一人者フォルカー卿の名で非常事態宣言が発せられた模様です、繰り返します──』


 ──何だよ、これ⁉


 俺は事態の行方が全く読めないこの展開に、正直、笑いそうに……いや、実際は、言葉を失った。



 官製報道によれば、反体制ミュローン派による大規模な反乱の企てがすでに当局によって把握されており、先に逮捕されたアルヴィド皇太子も乱に連座しているという。

 銀河標準時の6月6日現在、星域全域で『国軍』の準軍事展開がなされており、星域内の全ての軍事・準軍事組織は『国軍』の指揮下に置かれることになると報じていた。これらの中には、当然、星系同盟航宙軍も例外なく含まれる。



本星系オオヤシマからは…… 艦隊本部からは何か云ってきてないか? ──領事館に出向かれた艦長の方はどうなんだ?」


「電波干渉による妨害と電波管制で、外部とは何も連絡が取れません……」



「砲雷長! 戦術科と船務科から何人か人選して、桟橋からの搭乗橋ボーディング・ブリッジの警備を増やしてくれ」


 俺は最悪の事態に備えて、直属の戦術科幹部のクリハラ准尉に指示を出す。


「──当局が陸兵を繰り出してカシハラ接収おさえにくるかもしれない」


「了解。……あたしが行った方がいいかな?」


「いや、砲雷長はCICに……ミナミハラ、行ってくれ」

「ん…、わかった」「了解」


 クリハラはコトミと視線を交わして制御卓コンソールに向き直り、戦術科員のミナミハラがCICを出て行った。クリハラが乗員名簿リストを開いて、対象者の個人情報端末パーコムを呼び出し始める。


 ──ともかく、本星系ほんごくか艦長らと連絡が取れるまで、カシハラは明け渡さない。


 俺はそう決意を新たにした。


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