9 外じゃ“どんぱち”、始まっちゃったようよ……


登場人物

・ユウ・ミシマ:宙兵78期 卒業席次1番、船務科船務長補、22歳、男

・イツキ・ハヤミ:同席次4番、航宙科航宙長補、23歳、男

・ユウイチ・マシバ:同席次8番、技術科技術長補、21歳、男、ハッカー


・エリン・ソフィア・ルイゼ・エストリスセン:

 ミュローン帝国皇位継承権者、18歳、女、エリナス・ブラムの偽名を名乗る

・ガブリロ・ブラム:

 星系自治獲得運動組織"黒袖組"のシンパ、学生、26歳、男


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「困りますね、エリン…そのように迂闊なことを口にしてもらっては……」


 ミシマとエリンがその声に振り返ると、視線の先に銃を手にしてガブリロが立っていた。


「ガブリロ……」 ──エリナス、もとえエリンが困惑の表情を浮かべる。


「航宙軍の諸君、悪いがこの救命艇ボート接舷するつける先は、『オルレアンの乙女』号としてもらう」


 言って銃を持つ左手を振って見せる。その振る舞いの危なっかしさに内心ミシマはハラハラした。ここで暴発なんかして欲しくはない。



 丁度その時に操舵室からマシバが姿を現した。


「──ミシマさん、ロックの解除が……」 ガブリロに突き付けられた銃口に両の手を上げ、皆に視線を振る。「──って、コレ……どういうことです?」


「エリン・エストリスセンには我ら〝黒袖組〟にご協力頂く。航宙軍には断じて渡さん……‼」


 そういきり立つガブリロは銃口をエリンに向けた。


「貴女もご自分の立場というものを弁えて戴きたい!」

「そりゃいったい、どういう立場なんだい?」


 イツキの声だった。彼もキャビンの方へと移動してきて、この場のおかしな状況に固まることになってしまった。

 3人が3人ともキャビンに──万事休す、だ……。

 ミシマは内心で顔を覆った。



「皇女殿下だそうです……」「──マジか?」


 両手を上げているマシバが説明すると、やはり両手を上げたイツキが目を点にして彼女を見やる。彼女は黙ってガブリロを見返している。



「それで──我々はどうすればいいですか?」


 彼女に気圧された様に黙ってしまったガブリロに、ついにミシマが訊いた。彼はミシマに向き直ると必要以上に大きな声で言った。


「大桟橋のC-4に繋がれている高速ヨット、『オルレアンの乙女』号に接舷してつけてもらおう ──『同志』の宇宙船ふねだ!」


 そんな芝居がかるガブリロに、イツキの方は言いにくいことを口にするように言い返す。


「──そりゃ構わないけどね……外じゃ〝どんぱち〟、始まっちゃったみたいよ……」


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