3 わかったよ。至急、帰艦する
登場人物
・タカユキ・ツナミ:宙兵78期 卒業席次2番、戦術科戦術長補、22歳、男
・ユウ・ミシマ:同席次1番、船務科船務長補、22歳、男
・イツキ・ハヤミ:同席次4番、航宙科航宙長補、23歳、男
・ユウイチ・マシバ:同席次8番、技術科技術長補、21歳、男、ハッカー
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6月6日 0800時 【
宙港の警備隊基地を経由し、ようやく投錨中の練習艦カシハラに直通回線を繋ぐことができたユウ・ミシマ候補生准尉は、受話器越しに現況を交換していた。どうやら艦には正規クルーがいないらしく、通話の相手は同期次席のタカユキ・ツナミ准尉だった。
「じゃ、艦長以下全員がいないんだね?」
『──ああ。副長も各分隊長も皆不在、機関長も宙港との折衝で艦を下りてる……、幹部士官が丸ごと不在だ。こんなことってあるか? 普通──』
回線状態が悪く
受話器越しのタカユキの声音から、彼の不機嫌そうな
『──ともかく、状況が全く解らん。『
「火を入れるのかい? 候補生だけで?」
ミシマのその問いに一瞬躊躇うような間があった。無理もない。戦闘でもないのに指揮命令系統が喪失するなんてことは、そうそうあるもんじゃないだろう……。
『──ああ……──』
タカユキの声を聴きながらミシマは、候補生同期首席──
「その方がいいんだろうね」
『──だと思ってる……。ともかく、帰ってこい──』
機関の始動に同意した途端にタカユキの
「了解した。なるべく急いで帰艦するよ」
『──“至急”、だ。──このままじゃ暴動に巻き込まれるぞ──』
それに堅物でもある。しっかり言葉尻を訂正させられた。
「わかったよ。至急、帰艦する」
ミシマが受話器を戻すと、傍らで覗き込んでいたイツキ──イツキ・ハヤミ候補生准尉が訊いてきた。
「──何だって?」
軍人らしからぬロングヘアが軽薄な印象を与えてはいるが、こう見えて卒業席次は4番で頼りになる男である。その肩越しに、ユウイチ・マシバ候補生准尉の落ち着いた顔も見える。
「艦に戻ろう。主機に火が入ったらしい」
ミシマは二人に言った。
「状況は?」 もう一度マシバが確認してくる。ハーフリムのメガネに人口の陽の光が当たるとハイライトが入った。 「何か動きがありました?」
「わからない。でも、ともかく帰艦した方がいい。──カシハラは
「タカユキが⁉」
おかしそうに破顔したイツキが声を上げ、殊勝気に顔を曇らせるマシバと顔を見合わせる。
「そんな顔しちゃダメですよ……」
マシバは卒業席次の8番ながら技術科のトップで、イツキと共に
その時、三人は振動で地面が大きく揺れたのを感じた。自然と周囲に視線がいく。大通りを埋めるデモの人波に動揺が広がってゆくのが、嫌な感じだ。
「それが賢明かもしれないな……」
イツキが言った。その
「──確かにヤバいぜ、これは……」
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