4 じゃあミュローンはテルマセクを占領する気なのかしら?


登場人物

・【私】メイリー・ジェンキンス:

  シング=ポラス自治大学の学生、19歳、女、革命政治家の娘


・"キム" キンバリー・コーウェル:

 テルマセク工科大学の学生、17歳、女、ハッカーの才能有

・アンナマリー・ムーフォゥ:

 メイリーの私設警護、26歳、褐色の肌のナイスバディ


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6月6日 0800時

第一軌道宇宙港テルマセク/ メイリーの下宿】 ──メイリー・ジェンキンス──


「じゃあミュローンは第一宇宙港の自由都市テルマセクを占領する気なのかしら?」


 その日の正午前だったか……。私──メイリー・ジェンキンスは、大学にほど近い下宿の自室で慌ただしく荷造りをしながら、同居人ルームメイトのキンバリー・コーウェルに訊いていた。


「わっかんないよ、そんなこと」


 屋根裏部屋ロフトへ立てかけた梯子から滑り降りてきた“キム”(キンバリーの愛称)は、わたしの顔を見返しながら言った。


「──そーいうことは、メイリーのお父さんからの情報の方が確実でしょ?」



 父の名が出てきたことで私は憂鬱な気分になる。

 偉大なる『クリュセの父』、自治権獲得運動の『闘士』──ミカエレ・ジェンキンスの愛娘であることは、私にとってもはや苦痛だ……。


 そんな私の心境を知ってか知らずか、メガネの下の彼女の童顔──彼女はまだ17歳だ──は、女の子らしい(…この場合は面倒くさそうな、という意味で)表情を浮かべるでもなく、小机の上にほうった端末PDAに意識を向けた。


 そこに映し出されていた画像やら電文テキストやらの情報を目で追って、それから溜息を吐いている。私にはよくわからないけれど、テルマセク当局の回線に侵入してるらしい。

 荷造りの片手間の小一時間で侵入したというのだから、すごいことなのだろう。彼女は端末を操作しながら、私に状況を説明してくれた。


「なんか警察回線ここも情報、更新アップデートされなくなってる……。これって…本格的な攻撃サイバーテロ…受けてるっぽい」


「ミュローンから?」


 私が問うと、彼女は片方の肩だけをすくめてみせた。



「──ともかく、港湾エリアみなとへ行きましょ」 私はスーツケースの把手を掴むとキムに言った。


「お父様はすぐにここを離れなさい、って言ってた……」



 廊下に出ると、すぐにアンナマリーの姿が目に入った。

 彼女は父が私に付けてくれている私設警護で、キュートな顔をしているけれど鋭い目が印象的な女性だった。

 私は彼女と目が合うと、小さく頷き合って階下へ降りた。


 下宿の玄関を出る時、下宿の女主人、マクマホンさんに声を掛ける。

 マクマホンさんはダイニングで公共放送のチャンネルを見ていた。緊急の特別番組はステーション各所で同時多発的に起こった暴動を報道していた。


 私が声を掛けると。マクマホンさんは途方に暮れた様子で言った。


「ああメイリー、ここを発つのね。早い方がいいわ」


「マクマホンさん……」


 短く交わした抱擁ハグの後、彼女のほっそりした身体のあまりの頼りなさに、私は訊いていた。


「これからどうしますか?」


 わからない、と彼女が首を振ったその時、振動でテーブルが動いた。これまで経験のない大きな振動……ひょっとしてこれは爆発かしら。


 怯えた彼女の目を見た次の瞬間には、私は言っていた。


「一緒に行きましょう。宇宙港みなとまで行けばクリュセまでの宇宙船ふねに乗せてもらえると思います」


 私の目を見て頷いたマクマホンさんは、立ち上がってダイニングを出ていった。アンナマリーとキムが頷いてくれている。


 いくらもしないうちに、マクマホンさんが手荷物だけを纏めて戻ってきた。



 私はこの時に決めていた。

 私は私の出来ることをしようと。

 何人かでも一緒に行動することで、心細い思いをしないですむかもしれない。

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