第22話 作中:グレイの証言

 ローザとは遊びのつもりから始まったんです……あ、いや、いきなり何を言い出したんだか。戸惑いますね、この魔法は。

 本気だったかと聞かれると、それもちょっと困る。意地になっていただけかも知れません。彼女がああなってしまって少し冷静さが戻ると、途端に、熱病にでも浮かされていただけに感じられて、薄情と思われるかも知れないが、それが本当のところです。拍子抜けというか……何と言うんでしょうね、この感覚は。あるいはまだ混乱しているだけなのかも知れない、よく解らないんですよ、自分自身が。

 愛人だった女が非業の死を遂げたのだから、もう少し、こう、悲しくてもいいはずなのに、なんだろう、どちらかと言えば安堵しています。実感が湧かないのかも知れないな。

 あの時の彼女を警部も見たでしょう? まるで眠っているだけのようだったから、死んでしまったとは認識出来ないんですよ、未だに。そのくせ頭では解っているから、計算だけは回るんだ。彼女が死んで我が家は安泰になったんだ、とね。

 妻には言えませんが、あの魔法薬のお陰と言いますか、もし彼女が小説などでよく見る無残な死体に変貌していたのなら、私の反応も違っていたのかも知れません。


 私に動機があるかどうかが知りたいんですよね? 熱に浮かされていた当時は確かに、彼女の心が離れ始めているのではないかと焦りを覚えていましたし、そこから殺意にも似た覚悟が生まれ始めていたことも認めます。なにせ彼女は資産家だ、その財産は彼女以上に魅力的ではないですか。恋多き女性だったから、別れた後にはすぐ別の男が近付いて、その男のものになると考えると焦燥を覚えましたよ。

 彼女はおかしな女で、人間不信なくせに傍に奉仕的な人間が居ないと満足できないのですよ。あの姪のミスティという娘にしてもそうです、何かと恩を売って彼女に平伏するように仕向けていたんです。見たでしょう? どこか白々とした遺体発見後の我々を。心底悲しんでいるのはあの娘だけ、それはそうだ、洗脳状態なんですから。

 ローザも、姪を洗脳しようとして洗脳したわけではないでしょうが、ほら、一度洗脳を受けた者は暗示に掛かりやすいわけでしょう? 案外、あの娘が毒を飲ませたのではないかと私は疑っているんですけどね。たった一人残される血族ですからね。莫大な遺産はすべて彼女のものだ。それを言えばあの叔父という男も怪しいと思いませんか、保護者なんですし。


 ……どうもこの魔法は苦手だな、あけすけに何もかも吐露しすぎでしょう? まるで私が金の亡者のようじゃあないですか、そんなことはないんですよ? 誰かがローザを殺したんだ、その犯人を推測しようと思えばこんな嫌な事柄にも思いを馳せずには済まないんです。そうでしょう、警部さん?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る