第20話 作中:イザベラの証言
あの女は最初、私の顧客でした。私は魔法薬の委託販売をやっていますの。ほら、今だって同じ化粧品を使っていますのよ。小じわもたるみも、肌のくすみも何もないでしょう? 警部も奥様にお一ついかがです?
あの女の変死に関して、薬の副作用を疑っていらっしゃるのかも知れませんけど、それは断じてありませんわ。まず魔法院の認可が下りませんもの。それは厳しい審査基準をパスして販売されることになった最新の魔法薬ですわ、絶対の信頼を置いていただけると信じております。
利用者は今月で十万人に到達するのですもの、おかしなものなはずがありませんわ。成分も製法も非常に高度な術が使われておりますし、魔法効果もすべてしかるべき研究所にて解析されているんです、何も心配などあるわけがない、そう思われません? ですからあの女の怪死と、この化粧品とは何の因果関係も御座いません。
……あの女、神経質でプライドばかり高くって、評判は悪いんですわ、社交界でも。本人は知らなかったと思いますけれど。相当恨まれていますのよ、使用人達にしても酷く理不尽な解雇でしたでしょう? 路頭に迷って自殺した者まで居たという噂ですわ。そんな酷い女なのに……主人は欺されているのですわ、後妻として入り込んだ当初から、あの女はそういう生業の詐欺女なのです。何人もの人間に恨まれていて、この館に今居る者よりも外部をお探しになった方が早いと思いますわよ?
誰かは存じませんけど、よくぞ殺してくれたと言ったところですわね、正直なところを申し上げれば。あの薬が覆い隠しているので見えませんけれど、さぞかし醜い死に顔をしているはずですわよ、一週間後が楽しみですわね。
……あの薬の利点であり、お客様から頂く苦情の第一位でもあるのですけど、効果が切れるには時間の経過を待つより御座いませんの。悪戯で解かれてしまっても困りますでしょう? それがパーティー会場だとなおさら!
まぁ、そのせいで警部もほとほとお困りなのはご同情申し上げますわ、捜査は待ってくださいませんものね。
一週間後、薬の作用が消えねば死体の解析も出来ないんですってね、厄介な副作用が出てしまいましたわねぇ、困りましたわぁ。わたくしも、上に報告しておきますわねぇ。おほほほ。あの女はお気の毒でしたけど、わたくし、今夜は久しぶりに気分良く眠れそうですわ、ほほほ。
化粧品名をお聞きになりたい? マジック・テクスチャですわ、ほんと、今でしたらわたくし気分が最高なんですもの、お安くさせて頂きますわよ? 副作用はなし、単純に視覚効果に作用して肌の映像補正を行うだけですもの、体型などへの変化は起きませんの。ですから皆様、他の魔法グッズもこぞってお買い求めくださいますわ、ちょっとした美容ブームが起きていますのよ? ご存じありませんこと? 奥様にぜひ、……え? 奥様はいらっしゃらない? 独身? あら……、それは、あら……。
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