第8話 リアル:データの共有(その2)

「もうひとつ問題なのは、この作品に元ネタがあるのかどうかだな。」

 曲がりなり、コンテストに参加しようという作品のことだから、元ネタなどあってはそれこそ大問題であり、だからこそこうして二人の男が膝突き合わせてうんうん唸ってもいるわけであるが。

「例えば、どこかの誰かが書いたウェブ作品を参照して……なんて?」

「さすがにそれはないでしょう、二重に盗作だなんて洒落にもならないし、二人の実力ならまるで同じ作品が並ぶなんて状況にはなりませんよ。」

「それこそウェブ上じゃゴロゴロしてる案件なんだけど、そうだよな、ここまで書ける人間がわざわざやるわけない、か。」

 それをわざわざやっているトコロに謎が存在する。


「我々の知らないところで二人は知り合ってるんでしょうけど、それはウェブ上と、他に思い当たるところはないですか?」

 ここまでそっくりな原稿が存在する以上、二人に面識があることは疑いようがない。あるいは、面識がなくとも同じ原稿が作成されるには第三者の介在が要る。

「うーん、閃いたから書いてみた、みたいなニュアンスは仄めかしてたけどなぁ。」

「鈴さんはこれ、コンテストに出すってはっきり言ったんですか? 俺は、そこが引っかかっていて、ふな子さんは提出先を言わずに渡してきたんです。それも初めてのことでした。」

 とにかく読んでくれと、急かすように押しつけて未だにそれきりなのが引っかかってもいた。いつもなら、翌日には感想を聞かせてくれと尋ねてくるのに、それもないままだ。


「……憶測でしか語れないけど、二人が知り合いである前提での推理はギリギリ成り立つ、かなぁ。」

 苦虫を潰したような顔つきで坂井は述べ、縣も深刻そうに頷いた。

「ふな子さん、極度の人見知りですからね。だから何も言わず俺に託したのか……」

「トラブルメーカーめ、」

 嫌味のひと言を縣は訊かないフリで聞き流した。

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