第4話 リアル:翌日の出来事

 坂井は急いでいた。授業が長引き、約束の時間より三十分も遅くなってしまって、時計とにらめっこで小走りになっていた。

 いつも会合場所にしている川端通りの喫茶店をわざわざ避けて、大学付近の別の店でと、後輩である縣の方から待ち合わせを申し入れられた時には何事かと思ったものだった。神主の息子で自身も多くは神職の方で忙しくしているその学生は、同時に優秀な探偵でもあった。霊能力に長け、見透かしたような言動を取ることも多い。

 その彼から折り入って話があると言われれば、何事が起きたのかと慌てるのも道理だろう。店のドアを開けると、奥まった席で難しい顔をして座る探偵の姿が見えた。


 彼が目を落とす先には、二通の大判封筒がテーブルの上に並べられていた。


「あれ? それ、すずにゃんから預かってる原稿じゃないか?」

 人の手を伝ううちに、彼の所まで辿り着いたのだろう。その程度は推測が出来る。問題は、もうひとつの封筒と、なぜ二通が曰くありげに並べられているか、この状況自体である。ものすご~く、嫌な予感だけはすでに察知出来ていた。

 後輩の縣恭介はといえば、いつも神社で被っている猫は外して不機嫌そうな面構えだ。腕組みのまま、むっつりと黙り込んでいる。こうまで露骨に態度が変わるとなかなか面白い。

「すずにゃんの原稿と……、そっちは?」

「俺の知人が書いた原稿。」


 嫌な予感が的中しそうな不機嫌な声が返ってきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る