第5話 リアル:問題の発覚

 深々とため息を落として、坂井は読み終えたばかりの原稿をぱさりとテーブルの上へ置いた。じっくりと、それはもう細心の注意を払って、気をつけて読んだつもりだ。二通の封筒の中にあった、二つの小説原稿は、結論を先に言うならまったく同じストーリーだった。いや、ふな子とかいう縣の知り合いが書いた方の原稿は作中作という形態を取っていて、一部は違うものになっているのが両者の差といえば差か。


「……どゆこと?」

「俺が聞きたい。」


 彼の不機嫌はどうやらこの謎のせいらしく、作者本人から事情を聞かされてはいないことを告げていた。こちらの事情もまた、戸惑った態度その他で十二分に伝わったことだろう。

「どっちかが盗作……て、ことだよねぇ?」

 言いにくい言葉だが、先輩の責務として先に口に上す。他の部員には内密にといって普段出入りのほとんどないこの店を指定してきた理由にも合点がいった。


「盗作とも限らないから呼んだんですよ。奇しくも両者ともに知っているわけで、俺の知る限り、両者ともそういうことをしそうにないんです。」

「まぁ……、確かに。」

 縣の知人の方は限りでないが、確かに鈴はそういう不正の出来るタイプとは思えなかった。自身の中の良心が確固としてある女性だ。なにより、ここまで同じ文言をそのままで使う方がどうかしている、その程度の良識は持ち合わせているだろうと思えた。こんなあからさまな、見え見えな、そのくらいに問題の箇所は同一だった。

 一文、二文が同じという程度ではない。根幹といえるトリックも、ストーリーも、舞台や登場人物の名前までがまったく同じ、作中作であるか、そのまんまの異世界舞台の作品であるかの違いしかなかった。

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