第3話 リアル:某喫茶店つづき

「えっとね、これが原稿の写しなの。本稿はウェブサイト上でアップすることになるんだけど、その前にちょっと皆の感想とかも聞いてみたいなーって思って。」

 鈴はテーブル脇に置かれた物入れのカゴから自身のバッグを取り、中から大判の封筒を引っ張り出すと、その流れのまま身近に居た者に手渡した。彼女から原稿を受け取った者もまた、別の誰かにバトンタッチで受け渡し、そうして次々と人の手に渡って最後は坂井の元に辿り着いた。

「珍しいねぇ、発表前の原稿を見せてくれるなんて。こういうのが手間でウェブ仲間としかツルまないのかと思ってたよ。」

「ま、ま、今回はちょっとね、色々とあるのよ。」

 これまた珍しく言葉を濁し、彼女はとにかく早く読んでくれとせかした。


「すずにゃんは才色兼備だなぁ~、美人でスポーツ万能で、おまけに小説まで書くのか~、」

 周囲の、特に男連中は絶賛している。女性陣は沈黙を守っていた。

 彼女は決して、女性に嫌われるタイプの女ではない、よくある男にだけは愛想がいいというタイプの女ではなかったが、いわゆる八方美人の誹りは免れないという面が多少はあった。お調子乗りというヤツだ。余計な世話もよく焼くことから、敬遠する同性の知人も多かった。

「じゃ、テキトーに回し読みしたら感想は個別で、あたしのトコに送ってくれたら嬉しいなーって思いますっ。よろしく、ヨロシク。」

 この後すぐにバイトのシフトだとかで、彼女はそのまま慌ただしく店を出ていった。原稿の入った封書をひとつ残して。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る