Auld lang syne. 2
働く彼女たちは、まるで告別式に参列しているかのような暗い表情をしている。
元気のない顔で接客してはいけないのは、彼女たちもわかっている。
わかっていながら、ため息を漏らしてしまう。
そんな時に限ってお客が来た。
「いらっしゃいませ」
対応した光は、来店した二人を店の奥へ案内した。
「晶さん、お客よ」
「光。ボク、パス! ……紅美か英美に行ってもらって」
カウンターにうつぶせながら晶は呟いた。
仕方なく紅美に目配せすると、いやいやながら頷いてくれた。
「わっかりましたー。オーダー聞いてきまーす」
紅美は晶の後ろ姿に舌をみせてから、一番奥のテーブルへ向かった。
*
「いらしゃいませ。オーダーはお決まりでしょうか?」
紅美は奥の席座る二人のお客を見た。
一人は自分より年上。
あるいは年下かもしれない。
長い髪をシャギーカットした感じのヘアースタイルに眼鏡をかけている。
その向かいに座るショートカットの子は、どことなくおどおどしていている。
どちらも見覚えがある気がした。
「そうね、何か暖かいものを。それでいて気持ちが落ち着く……ハーブティーなんかいいわね。後、トライフルお願いできます?」
「は、はい。お二人とも同じもので……」
「ええ。紅美さん」
眼鏡をかけるお客は、ろくにメニューも見ずに注文した。
連れの方は、俯いているだけで何も言わない。
変なお客だ。
*
「すみませーん、オーダーお願いしいまーす。ハーブティーにトライフル。二人分でーす」
カウンターに戻った紅美は光に伝えた。
「わかった。……どうしたの、紅美」
紅美は、首を傾げていた。
「連れのショートカットの子、私どこかで会った気がするんですけどー、思い出せなくて」
「ふーん。とにかく紅美は厨房へ行って、鈴さんにトライフル作ってきてもらって。今日は作ってないから大至急!」
紅美は返事をせずに奥の部屋へ入っていった。
奥の部屋のドアから厨房へ入ると、直人が鈴に仕事をさせていた。
「紅美、何しに来たの? サボりは減俸だよ」
背後から声がした。
紅美は慌てて振り返る。
唯が、ニコニコして立っていた。
『こういう時の唯さんは一番怖いから気をつけなさい』と、先輩の光が教えてくれたことを思い出す。
「ザボリじゃないですよー。ちゃんと仕事してます。英美先輩みたいにサボってません。鈴さんに、トライフルを作ってもらいたくて。お客さんの注文なんです」
「また? あんな地味なもの注文するなんて……よっぽど思い入れがあるのね。だいたいあれは大勢で食べるからおいしいんだけど。私が伝えておいてあげる。二人分なんでしょ」
「そう……です、はい」
鈴のもとへ向かった唯の背中をみながら、紅美は首を傾げたくなった。
「あれって地味かな、美味しかったのに」
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