Love medicine. 5

 恵は祐介と陽一に運ばれ奥の部屋へと消えていった。


「うちの大切な子に何してくれるのですか! 営業妨害も甚だしいわね」


 唯は強い口調で目の前の男性を睨み付けた。

 亜矢も美香も聖美も知見も神名、弥生、鈴、晶、英美、光、愛達ブラウニーも怖い目をしている。


「誰なんだコイツは」

「どんなお客さんであれ、店で暴力なんて良くないですね」


 亜矢と美香はつま先に力を入れる。


「いい大人のする事と違います」

「こういう輩がいるから世の中、良くならないのよね」


 神名と弥生は息を吸い込む。

 流石に二十四の瞳に睨まれては大の男とはいえ、だじろぐ他なかった。


「まてよ、おっさん。どこいくんや」


 その声に驚き振り向くと、秀二が両腕をひろげて出口を塞ぐように立っていた。


「暴力を奮っておいて逃げようというんですか」


 唯はカウンターに両腕を付き、身を乗り出すよに男を見た。

 微笑みを絶やさず余裕のある表情をしている。


「私はしらん! それよりも私は市教育委員会の朧月堅雪だ」


 懐から名刺を取り、唯に差し出す。

 唯ははふ~んといった顔で一瞥してから、朧月堅雪をみた。


「神名、警察呼んで」

「いいんですか?」

 

 神名は唯に確かめる。


「理由はどうあれ、店で暴れるというのは普通ではないから。それに恵が怪我をさせられてる」

「わかりました」


 神名は奥の部屋へ入っていく。


「おい、私がなにをしたというのだ。私はメグムの父親だ! 父親が娘を叱りつけて何処が悪いというのだ」

「親ならなおさら、そんなことしていいわけないじゃない」

「親は子供の人形じゃない」


 堅雪の反論を掻き消すように聖美、知見は言い返す。


「大人ってすぐ大義名分振りかざす。とくに男の愚痴はみっともないって知らないの?」

「虐待は肉体的、精神的に子供を傷付けるんだから!」

「……許せない」


 晶、英美、光は睨みながら続けて言った。


「はやく警察来ないかな。 ちなみに私の親父は刑事だからね」


 鈴はにやけて言うが、冗談ではなかった。

 堅雪は何も言い返せなかった。

 しかしこのままでは自分の地位が危うい。

 そこで、懐に手を入れ一枚の紙切れを見せつけた。


「近年、学生達のモラルの低下、容姿、行為の異常さなど街並みで見かけるものは目に余るものがある。そこで各学校、及び街中で学生が登下校時に立ち寄る場所、その出入りに対し、規制するよう度々勧告を求めてきた。にもかかわらずこの店は何の改善も見られず、また無視してきた。遺憾に思い、本日私が出向いてきたのだ」


 眼鏡をかけ直し、唯を見下すように睨み付ける。

 唯はついに来たかという表情をして見せ、背後に立つ愛を見た。


「アイ、あなたここが好き?」


 しばらく愛は唯を見つめていたが軽く頷いた。


「はい」

「それならあなたに任せる。……はいはい、みんなに仕事戻った戻った。お客さん達を心配かけないことが大切よ」


 パンパンと手を叩きながらみんなを仕事に戻らせた。

 その最中、唯は愛の肩に手を置き、『二階に一席空いてるからそこを使いなさい。後で行くから』と呟いた。


 奥の部屋から直人が霞を連れてカウンターへ顔を出した。

 そのまま愛とともにフロアへ行く。


「堅雪さんもどうぞ」


 直人は声をかけ、三人を階段の方へと案内した。

 奥の部屋から顔を出し、一部始終を見ていた蘭は息を吐く。


「あら、大変なことになったわね。……いいの? あの子一人に任せちゃって」

 

 唯は蘭に気づき、首を縦に振る。


「ええ……」

「まさか旦那の方も来るとは。うちの旦那に連絡しておくね」

「蘭に任せる」


 蘭は奥の部屋に引っ込んだ。


 カウンターに残った光、晶、英美の三人は不安げに唯を見つめていた。

 気が気でならない。

 恵は倒れるし、お偉いさんが店をどうにかしようとやってきた。

 それが愛の父親。

 おまけに険悪な雰囲気。

 心配するなという方が無理である。

 唯はそんな彼女達の頭を優しく撫で、抱きしめた。


「三人とも、ここを頼むわね。そんな顔しないの。お客さんが見てるわよ」


 笑って言うと、奥へと消えていった。

 彼女達はお互いを見つめ合い仕事に戻った。


『私達はブラウニーなんだから……』


 店内は一応もとの雰囲気に戻った。

 その中でただ一人、秀二はポツンと入口近くに取り残されていた。


「あのー、オレは?」


 秀二は一人無視されその場にまだ立っていた。

 晶は『まだいたの?』と言う顔で彼を見た。

 彼はすごすごと店を出ていった。


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