Love medicine. 6
恵の様子が気になり、唯は階段をのぼる。
のぼりながら、先程聞いた霞の話を思い出していた。
『……今から十六年前、双子が生まれた。赤ん坊の名前はアイとメグム。見た目はどちらも変わらないほど可愛く、そっくりだった。しかしメグムはIQがずば抜けて良かった。その為、堅雪はメグムだけを溺愛した。
五歳のあるとき高熱にうなされ、メグムは死んでしまった。発狂するあの人はとんでもない事を考えた。見た目も変わらぬアイをメグムとして、死んだのはアイとして死亡届けに提出した。そしてアイをメグムとして育成を始めた。自分の理にかなわなければ暴力も振るった。私の言うことなど聞いてはもらえなかった。そしてあの子、アイは父の言うことを訊く子になっていた。
まだあの子が小学生に入る前、風邪を引き病院に見舞った時のあの態度、あの一言がとても子供の言う言葉じゃなかった。冷たい目。輝きを無くし、自己放棄してしまった愛はまるで竪雪の生きた人形だった。
今から三年前。夜中に家を抜け出し、堅雪に連れ戻されて帰ってきたあの子の、アイの言葉を聞いた。
『恍との約束を守る』
私はその言葉を手がかりに探した。そして三年。私は蘭の重い口を開けさせてあなたのことを知り、アイが本当の愛に戻る為、ここにバイトさせることにしたの。勿論、旦那には内緒で』
唯はおもたげに息を吐く。
「約束……か。あの子、一体何の約束したのかしら……まさか!」
脳裏に何かが走る。
唯は慌てて恍の部屋に行き、日記を手にした。
確かこれに……。
唯は思い出すようにページをめくり、見つけた。
「あった。…………そういう事だったのね」
それを手にすると部屋を後にした。
急がなくては、と小走りに廊下を歩く。
そんな時、祐介の部屋から話し声がした。
急いでいるとはいえ恵の様子も気になる。
ドアをそっと開けて、中をのぞいてみた。
ベッドに横たわる恵と、傍に座る祐介の姿が見える。
「この前は……ごめんなさい。やっぱり怒ってたんですね、光さんのことで私が取ったやり方に」
「……そんな事ないよ」
「いいんです。嘘付いてまで……優しくしないで」
「……嘘じゃないよ。文化祭の用意やら、風邪とかテストとかで忙しくて電話もかけられなくて。ゴメンね」
「それならこの前は何だったんですか? 何も話してくれなかったし、私はいいって言って晶さんと一緒に行って……もういいです」
「あれは弘明にばれないようにする為だよ。恵さんをあいつは知ってるから。……何も話さなかったのは、あいつが無茶な事しないか考えてて。ごめんなさい、恵さん」
恵は顔を背けた。
「とにかくもう少し眠るといいよ。こぶ作ったぐらいで本当に良かったよ。じゃあ」
「待って……」
恵は首を動かして振り返る。
「ん?」
「ごめんなさい祐介君。私、あのね、私」
「……もう忘れて。お休み、恵さん」
祐介が軽く頭を撫で、手で恵の目を覆った。
二人が重なり、そのまま時間が流れた。
祐介が離れながら手をどけた。
二人は見つめている。
「ゆ、祐介君……」
「おやすみ」
祐介はそう言い残して部屋を出ていった。
*
部屋を出た祐介を唯がニヤニヤしながら待っていた。
「恵の様子はどう?」
「か、母さん! 何してるの、こ、こんな所で」
「いやー、やるときはやるもんだねー。我が息子ながら関心関心」
「み、見てたの!」
「別に。暗くて何してるのかわかんなかったけど。何してんだかねー」
唯は少し真面目な顔で祐介をみている。
彼は顔を赤くしながら目を背けてしまう。
「祐介。自分の気持ちなんて、はっきり言わないと伝わらないよ」
「……わかってる」
祐介は顔を真っ赤にして唯の元から逃げていった。
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