Love medicine. 3

 二階の唯達の住居スペース。

 キッチンのテーブルに向かい合うよう唯、霞、蘭、そして愛の四人が座っている。

 今日、霞と蘭が来た理由は、彼女らが創刊した雑誌、『Änderung 』の初刊を届けにきたため。

 この雑誌には美浜市の小さなものから大きなもの、いろいろな変化を載せている。

 コンセプトは、『想い出を作る雑誌』らしい。

 その中でこの店、『PEACH BROWNIE』が載せられているのは言うまでもなかった。

 だが、霞には別の要件があるのは唯にもわかっていた。

 湯気の立ちのぼる紅茶の入ったカップがそれぞれの前に置かれている。

 唯は手にし、一口啜った。


「唯さん、あなたに預けて正解だったわ。ありがとう」


 霞は上機嫌で言うが、唯は無愛想に振る舞っていた。

 何が『アイがまた笑ってくれるようになったんです』だ。

 子供を育てる親がしっかりしてないから子供がモラル無し、協調性ゼロ、物事の加減や人の間での生き方を等、偏った風に覚えてしまったんだ。

 溢れ返る情報に流され、または深海深く閉じこもったかのどちらかなんだ。

 世の中は絶えずしてもとの水にあらず。

 時代とは不変ならざるもの。

 変化し続けている。

 しかし人はますます孤立、孤独になり今を維持しようとしがみつく。

 なくしてはいけないものをなくすから、こんな世の中になったんだよ……と言ってやりたかったが何かしっくりこない。


 ……アイって誰?

 愛のことなんだろうか……。


 唯はチラッと愛の方を見た。

 彼女は俯き黙している。

 仕方なく蘭に視線を移すと、サングラスをかけていて表情は見えない。


「生前、姉さんが世話になった人だし、蘭に頼まれたから。それに……」


 唯は愛を見ながら続けた。


「親の言いなりに育てられた子にどんな未来が待っているのか、同じ親として心配だったからですよ」


 吐き捨てるように言った。

 霞は口に手をあてようとしたが止め、そのまま俯いた。

 そのとき愛が唯を見つめた。

 その瞳は『母を虐めないで、責めないで』と言っているように唯には思えた。


「愛、もう仕事に行きなさい。私も後から行くから」


 紅茶を飲みながら唯は愛に、バイトへ戻るよう促した。

 これから話すことに彼女はいない方がいい、と思ったからだ。


 愛は席を立ち、一礼して部屋から出ていった。

 娘の出ていく後ろ姿を、霞はぼんやりと見つめ続けた。

 蘭はようやくサングラスを外し、唯を見た。

 ムッとした顔で唯は彼女を睨み付けている。

 相変わらず子供っぽいとこがあるんだから。

 六つ年下相手だと、そう見られても仕方ないか……。


「さて、霞さん。どうして私のところに愛を預けたのか、本当のことを話してもらえませんか?」


 真顔で言う唯。

 彼女の手には、委員会から送りつけられてくる手紙を持っていた。

 それには『朧月堅雪』と名がある。

 霞は一度は首を振るものの、彼女表情に観念して重々しい口を開いた。

 

「……は、はい……あの子の本当の名前はアイなんです。メグムはその、死んだ妹の名なんです」

「妹? 何でそんなこと……それと一体どんな関係があるのよ」

「それは」


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