Walkin' girl in the rain. 4

 溶けていくように雲は流れ、気持ちのいい青空が街に広がっている。

 

「祐介君、雨って好きですか?」


 隣を歩く恵はたずねた。

 祐介はしばらく考え、彼女の顔を見て答えた。


「やっぱり晴れの方が好きかな。……嫌なこと思い出しちゃうから」


 祐介の脳裏に三年前のことが蘇る。

 中学一年の夏頃から、周囲で不幸なことが続いた。

 聖美は部活の練習中に怪我をしてしまい、大会出場が駄目になってしまった。

 知見の父親は酒が入ると暴力を母に振るい、母は娘にやつ当たった。知見は心を閉ざし、親に対していい子を演じるようになっていく。

 弥生先輩の身にも降り懸かった。彼女の親友、月城神名が白血病に倒れた。

 母親が失踪していた鈴と亜矢の父親が、任務中に大怪我に見舞われた。

 美香は、彼女の誕生日に彼氏が事故死した。

 何故か決まって、彼女達の涙のように雨が降っていた。

 最後に祐介を襲った不幸も、雨の日だった。


「いまも覚えている。あの日は、いつになく元気がなくて、何かあったのか聞いてもなにも答えてくれなかった。前みたいにあまり寄ってこなくなってたし、笑わなくなってた。そんな妹が言ったんだ。店の名前を『BROWNIE」から『PEACH BROWNIE』に変えてほしいって。女の子が素敵になれるようにって」


 彼の言葉を聞いて、迂闊だったと恵は下唇を噛んだ。

 彼の双子の妹、恍が亡くなったことを恵もみんなから聞いて知っている。

 恵が救われたのは、同じ過ちを彼が繰り返さなかったからだ。


「私も、前は嫌いだったけど、いまは好きになれそうです」


 恵は祐介に笑みを浮かべた

 彼の前ではしゃいで見せる。

 彼女なりの精一杯の謝罪だった。


「恵さん」

「はい? 何ですか祐介君」


 振り返り様、彼を見た。


「な、何でも……ないです」

「うん?」


 交差点近くの信号の所に来た時だった。

 はしゃぐ恵は足が縺れてしまい、車道へ── 


「あぶない!」

「えっ」


 ハッとなって振り返る。

 光という光、音という音が飛び込んできた瞬間、何も見えなくなり、聞こえなくなった。


 ほんの一瞬だった。


 恵はゆっくりと目を開けると光という光、音という落ちが帰ってきた。

 祐介に抱きしめていた。


「祐介くん、わたし……」

「危ないよ、恵さん」


 彼は小さな声で言うと、手の力を強めた。

 その時、鼓動の高鳴りが重なるのを感じた。

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