The proof is in the pudding.
Forlorn Lunaris. 1
暗闇に咲く一輪の開花。
満月。
窓から覗くその月を見つめ、少女は過去を思い出す。
三年前。
今と同じ丸い月が闇を照らしていた。
小さく輝く星の光は掻き消されそこには月しかなかった。
『星を見てるの?』
その人は私に声をかけてきた。
真夜中の川岸で人に会うとは思わなかったが、月明かりに照らされたその人はとても綺麗な顔をしていた。
とかく話をするでもなし、約束していたわけでもなし、互いに知らない者同志並んで星を見上げている姿は異様かもしれない。
『よく来るの?』
彼女の問いに軽く頷いた。
微笑む彼女の瞳は寂しさを秘めているみたいに思えた。
自分に似てた気がする。
川のせせらぎ、風の音、虫の声、遠くに見える街明かり……。
闇の住人の自分達には時の流れ、時間という物を感じなかった。交わす言葉を待たなくても何故か互いの心は一つに解け合えた。
言葉では表せない不思議な時間。
月の持つ不思議な力なのかもしれない。
別れ際、約束を交わした……。
「……約束は……」
約束は人を縛るものではなく、互いを結びつけることの出来る大切な絆。
しかしその約束が何なのか思い出せない。
だから彼女は自分の部屋を出ていった。
まるで、満月に導かれているかのごとく……。
*
授業で使った図書の本を、恵の友人の高千穂由香、広小路春香に手伝ってもらい運んでいるときのこと。
「何で私があんなカビ臭いとこに行かなきゃいけないってーの!」
由香は辺りに響くような声でぼやいた。
「まあまあ、テスト前になると勉強する場所としてお世話になりますし」
「私はテストも嫌い! ましてや勉強なんて馬鹿のする事よ。私は頭脳明晰、容姿端麗、才色兼備の三拍子そろったプリティーな女子高生なんだから!」
騒ぐ由香を諫めようとした春香だが、逆に丸め込まれたような感じになった。
そんな二人に気にしないで恵は前を歩いていた。
手には抱えきれない程の大量の本を持って。
お陰で足下は見えなかった。
そして階段を降りようとした時、踏み誤った恵はそのまま落ちるように倒れていった。
「あっ!」
「ち、チクリン!」
慌てた二人は急いで駆け寄ろうとした。
その時、下から上がってきていた子が先に恵に駆け寄り抱き留めていた。
辺りには散乱した本が無造作に散らばっている。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
恵は慌ててその子から離れて顔を見た。
一瞬目が大きく開いたと思ったが、その子は口元を緩ませ笑みを漏らした。
恵と同じショートカットだが、背は彼女より高い。
春香と由香は散らばった本を拾い集め、恵の側に寄った。
「それじゃ私は……」
恵にそう言い残し、彼女はどこか歩いていってしまった。
「チクリン、大丈夫か?」
「うん」
「怪我がなくて本当によかったです」
そう言いながら二人は笑みを浮かべた。
*
天ノ宮女子高等学校、図書室
凛として静寂な室内、恵は脚立に足をかけて本の整理をしていく。
両手には抱えきれない程の本を持ち、一つずつ本棚に返していた。
「大切な昼休みだっていうのに、どうしてこんなカビ臭い所に来なきゃいけないのよ!」
側にいる友人の由香が吐き捨てるように言った。
「まあまあ、怒らない怒らない。本は知識の宝庫、文明の語り部ですよ、由香さん」
春香は近くにあった分厚い事典を取り出し、中を開いて彼女に見せてあげた。
怯む由香。
彼女は本、特に文字の洪水のごとく文章羅列を目にするのが嫌いなだけだった。
足下で騒ぐそんな二人をよそに、恵はいそいそと本を元あった場所へと返している。
本を取っては棚に戻しの単調な仕事の繰り返し作業。
そんな図書委員の仕事をしながらさっきの出来事を思い返していた。
……助けてくれたあの子は誰だったんだろう。
本を全て棚に戻し終え、恵は脚立から降りた。
春香と由香はニコニコ顔で待っていた。
「さあ、遊びに行こ! チクリン」
「今日は何をしますか?」
二人は恵の手を引き外へ連れ出そうとした。
「だから今日は図書当番だって……」
恵はため息混じりで当番のことを二人にそっと話した。
由香がすねたのは言うまでもない。
「ところで……さっきのあの人……誰なのか知りません?」
図書カードを整理しながら恵は、カウンターの前で立ち見している二人に訊ねる。
遊びに行けない由香はふてくされて漫画に夢中になり、話すら聞いてくれない。
が、春香はそれに答えてくれた。
「隣の五組の子で、確か……難しい漢字の子なんだけど……ちょっとど忘れしちゃいまして。由香さんわかります?」
「さっきのヤツの名前? 確かメグム。そんな名前だった。無口で暗いヤツって話だけど、気になるの? チクリン」
笑いながら由香は答えた。
どうしてそんな事を聞くのか不思議に感じ、二人は彼女の顔をしげしげと見つめる。
何か考え込んでる見たいな複雑な顔をしていた。
*
その日、唯の元に一本の電話がかかってきた。
相手の声には覚えがある。
「その子がどうしたのよ……えっ! 頼むって、ちょっ……FAX?」
一方的に言うだけ言って相手は電話を切ってしまった。
叩き付けるように受話器を置き、腕を組んで一体どういう事なのか考えてみようとすると、床に落ちている一枚の紙が目に入った。
「これね……朧月さん」
拾い上げて一応目を通す彼女。
思わず小さくため息をもらした。
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