Trifle tea. 3

 ポットの湯が沸く。

 亜矢はティーカップとポット、クリーマーに注ぎ、温める。


「クリーマーなんて何に使うのよ。注文はハーブティーでしょ!」

「美香はうるさいなー。あたいはミルクティーが飲みたいの! 美香はハーブティーでも作ってろ」


 舌を出してからかう彼女に頭に来た美香は、近くにあった銀のトレーで頭を叩いた。


「な、何しやがんだお! ひぃた噛んじゃったじゃない! 痛っ」

「ザマーみなさい! 天罰よ!」


 美香は口を押さえて痛がる亜矢を冷たい目で見ながら、ハーブティーを作りはじめた。



                   *



 一番奥のテーブルに、祐介と少女は向き合って座っていた。

 ただ、少女の目は悲哀に満ちていた。


「お待たせ、祐介君。ハーブティー二つ」


 美香は微笑んでテーブルにカップを並べた。

 湯気と共に良い香りが立ち上ってくる。


「すみません水保さん。面倒かけます」

「いいのよ、全然気にしなくて。約一名を除いてだけど」


 カウンターの方から、ミルクティーで咽せるのが聞こえた。


「それよりも……あの子は誰なの? ひょっとして彼女?」


 彼に近寄り、耳元で美香が囁く。

 祐介は顔を赤くして否定した。


「ち、違います! この子は……そう言えばまだ名前、聞いてなかったよね。君のは名前は?」


 祐介と美香は俯く少女を見つめた時だった。


「竹林 恵。天ノ宮高校、一年四組。九月一日生まれの十五歳。血液型はA型」


 読み上げる声がした瞬間、少女は慌てて席を転げるように逃げ出した。

 追いかけるまでもなく、店の片隅にうずくまる。

 震える身体、明らかに普通ではない。

 美香と祐介、みんなが見ている前で少女は動揺し、目を閉じ、耳を塞ぐ。


「神名さん……」


 祐介が少女に近づこうと席を立ったとき、神名の姿に気がついた。

 手には手帳らしきものをもっている。


「ん? 何か悪い事でもした……かな?」


 状況がわかっていない彼女は、蹲る少女を見て、思わず首を傾げた。

 祐介と美香は少女を落ち着かせ、椅子に座らせた。

 神名達も慌てて近寄るも、祐介が彼女を宥めたので、見ているしかできなかった。


「ごめんなさい。……床に落ちてたから、その……」


 神名は頭を下げて少女に謝り、生徒手帳を彼女に返した。

 俯いたままの少女はそれを取ろうともせず、ただ震えていた。


「いいもの見っけ!」


 呆然と立ちつくしているみんなをよそに、亜矢はミルクティーと、冷蔵庫の中から見つけたガラスボールに入ったスイーツを抱えてやって来た。

 テーブルの真ん中にガラスボール起き、小皿とスプーンをそれぞれ並べていく。


「亜矢、何してんのよ」

「なにって、大勢で食べるならトライフルに限る! ティーパーティーとでもしゃれ込もうぜ! そのつもりだったじゃないか」


 ノー天気で場違いなんだから。

 美香は呆れ、鈴は頭を抱え込んでしまう。

 みんなが呆れているのをよそに亜矢は少女の隣に座る。

 大きなスプーンで小皿に取り分け、少女の前に差し出した。


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