第三話 彼女の正体

「あなた…」


彼女が驚愕で目を見開きながら呟く。


え?!何これ?!尋常じゃない威力なんですけど?!

俺の方が実は何倍も驚いてるんですけど?!


地球じゃ誰かと争うとかなかったから全力でぶっぱなした事なかったけど…殺傷力高過ぎ!!


完全に兵器!!地球にいたら絶対暗殺対象だわ~地球の魔法使いが滅ぶ理由わかったわ~、あはは


「無事でよかったです、危ないところでしたね」


無理やり笑顔を作り胸の内を悟られないように言う。


「…ええ、本当に…助かった、ありがとう。私の名前はルーメリア。この先にあるリールモント王国に住んでる。


それでショウ、聞きたい事は沢山あるんだけど、まずあなたどうやってここまで来たの?

リールモルト王国はこの森の中央付近にある事は広く知られてるけど、普通の人間は森全体にかかっている幻惑の魔術で許可ある者以外ここまで来れないし、そもそもこっち方角から人が來る事はないの、なのに…どうして?」


魔術?魔法じゃないのか?

それより俺はなんて説明しようか迷っていた。素直に言うべきか誤魔化すか。


この子は多分大丈夫!俺の直感がそう感じさせていた。俺の直感は当たり付きのアイスなら3回に一回は当たる精度だ。地味に凄くね?

なので素直に話すことにする。


「あールーメリアさん、突拍子もない話なんですが…」


「あなたには命を助けてもらった、固い話し方じゃなくていい、それにルーメリアでいい」


「わかった、じゃあルー」


「ルー?」


「ルーメリアって長いからいいかなって思ったんだけど馴れ馴れしかったかな?」


「…ううん、家族にしかそう呼ばれないからちょっと新鮮だった。ごめん続けて」


「じゃあ命の恩人の特権ってことで。それで続きなんだけどあんまり真実味がないと思うんだけど俺この世界じゃない世界の地球って言う所から来たんだ。


大学の帰りに、って大学っていうのは…学校ってこっちの世界にもある?」


「教養や、魔術、戦い方を教える所の事を指すなら」


「ま、まぁほぼ一緒だね、それは置いといてその学校の帰りに変な黒い渦を見つけて、気が付いたらこの森に飛ばされて、少し歩いていたらあのバカでかい狼に襲われてる所に救いの女神のルー様が来てくれたって訳」


「そう、別の世界から。いきなり災難だったのね」


「あれ?結構衝撃的な話だと思うんだけど?! てか何であっさり信じるんですか?! 純粋ですかピュアですか真っ白ですか?!いやよく見たら返り血で真っ赤でした!」


やべー返り血でかなり猟奇的な感じなのに、それさえ凌駕してしまう可憐さ、ルーが出るスプラッター物なら白米だって行けるねうん。そのそっけなさもおかずになりえる!


「驚いてない訳じゃない、内心凄く驚いてるけど冷静に考えるとショウが使った魔術、見たことも聞いた事もない。 詠唱もないし蒼い炎、大きな規模の魔術でもないのにあの威力、別の世界の魔術と言われた方が納得がいく、最初からあれで加勢してくれれば私も楽だったんだけど。 ショウは怯えて見せていたけど、あれはこの世界の魔物や人間の情報を少しでも得る為に私とあのブラッティーウルフを戦わせたの?冷静に戦いを観察してたし。臆病物を演じてた?」


めっちゃ深読して勘違いしてる?!実はただのビビりでアフォーなまぐれ勝ちなのに愚者の仮面をかぶった知恵者とか一番おいしいキャラに設定されちゃってるし!


しかも見抜いてやったぞとドヤ顔してるし!表情ないけど微妙にドヤってるの伝わる!あ、やばいルーのドヤ顔超可愛い。


「いや本当に怯えてたんだよ、異世界に転移させられていきなりあのデカさの狼でしょ? ビビらない方がおかしいでしょうよ 。まぐれで倒しちゃったけど助けて貰わなければ本当にヤバかったよ、ありがとう。」


「私はあのブラッティーウルフよりも強い【威圧】を使って今ショウの目の前居るのに全く動じてない、実力がなければそれこそ震えるだけじゃなく気絶するレベル。それに…ショウは今私の目を見て話してる。私に誤魔化しは通じない。」


【威圧】って何だし、意味は分かるけど全然威圧感ないし綺麗な真っ赤な目だしむしろ見惚れるんですが?

体内の魔力的には普通の女の子なんだけどなぁ、何かしらの方法で強化してるんだろうけど。


「目?人の目を見て話すのは普通の事だろ?それにルーの目、あの月みたいに凄く綺麗じゃん」


「…ありがとう…嬉しい…本当に…」

ルーは絞り出したような声で言った。


ボッチかな?!ボッチは辛いもんね、目を見て話せるような友達いないのかな?俺も中学、高校の暗黒時代は辛かったからわかるよグスン。


「大袈裟だなぁ、そんなに綺麗なら言われ慣れてるだろうに」


頬を少し赤く染め、返り血がついた顔で俺を見上げて満面の笑みを見せるながら言う


「ううん、大袈裟じゃない…本当に嬉しい、ショウありがとう」


ハイ俺氏落ちた。この瞬間間違いなく落ちた。あの無表情からこれはズルイでしょーよ!一発KOだよお手上げだよ!


恋はするものじゃなくて落ちる物って言うけどあれマジなのな?!


「喜んでもらえて何よりでございます、それよりお嬢様、わたくしめはなんでもするとお約束しました、何をしたらよろしいでしょうか?」


動揺がばれないようにおどけて言った。こういうのってイケメンがやるやつなんだよなぁ、好きな子に気持ち悪いとか言われたら死ねるわー。


中学の時好きな子の財布が落ちててチャンスと渡しに行ったら凄い引きつった顔でありがとういわれたなー。次の日財布変わってたし。


わかってるよ左手に包帯巻いちゃうようなヤツに財布拾ってもらいたくないよねー。


「む、なんかさっきより距離を感じる。結局私が助けて貰ったから何か要求できるような立場ではないと思うんだけど。」

心なしか残念そうな顔だ。


「照れ隠しってやつですよ、それじゃあ何を言うつもりだったのかわからないけど簡単な事なら叶えさせてくれない?助けて貰ったのは事実だし」


「わかった。それじゃあ私も出来る範囲の事ならする。私も助けて貰ったから…もしかしてこの流れ狙ってたの?やっぱりショウは油断出来ない、別の意味でも」


「別の意味?ルーちょっと深読みしすぎじゃない?そんな大した男じゃないからね?」


「じゃあ今はそういう事にしておく。私の要求、というよりお願い…」


急にモジモジし始めて何やら言いにくそうに頬を赤く染めている。

何それ可愛い、お前は俺を殺す気か!


「ねぇショウ…ショウの血くれない?」


…………ええぇぇぇぇええええ?!物理的に殺す気?!返り血を浴びた顔で耳まで赤くしてなんちゅう猟奇的な事言うんだ!こえーよ!俺が好きになった子とんだサイコキラーだったよ!


「えっと…それって俺死んじゃうの?」


「何で?ちょっと血を吸わせてもらうだけで死ぬ訳じゃない」


「血を吸う?俺の?」


「うん、私ヴァンパイアだし」


「え?」


「え?」


「ちょっと待ってヴァンパイアって実在するの?」


「ショウの世界には居なかったの?リールモルト王国の国民の大半がヴァンパイア。常闇の森にあるヴァンパイアの王が納めるリールモルト王国は割と有名」


「空想上では存在したけど、俺のいた世界ではいなかったなぁ、流石異世界と今感動してます。それとここって常闇の森って名前なんだ」


「明けない夜と真っ赤な満月が支配する森、それがこの森。ヴァンパイアには居心地がいいの」


「ずっと夜って事?!マジでファンタジー!!やっぱり日の光に当たるとダメージ食らったりする?!ニンニクとか聖水が弱点?!」


「何故キラキラした目をしてるのかわからないけど、ヴァンパイア種も基本的に普通の人と一緒。 太陽の下でも普通に活動するし、ニンニク?聖水?なんでそんなのが弱点なの? そんなに弱点が多い種族って種族としてどうなの?」


「…俺の世界じゃそういう事になってたんだよ! じゃあなんでずっと夜の方が都合がいいの?」


「変わった世界。種族の固有スキルで夜だと能力が向上するからと聞いてる。 それでショウ…私のお願い聞いてくれる?」


少し甘えたような声を出し瞳を潤わせ、上目遣に俺を目をまっすぐ見つめて理性を殺しにくる。


あざとい、実にあざとい、もうこの子になら殺されても止む無し!可愛いは正義なのだ!


「いいよ、ルーなら大歓迎!でも殺さないでね?」

おどけた感じで言う


「そんな事しない!ショウとはもっと話したい。ねぇショウ…首から吸っても…いい?」


「首?いいよ! というか俺もそうするつもりだったし」

ルーの顔が真っ赤なのはなんでだ? 首から吸うの恥ずかしいなら手でもいいのに。


「うん…じゃあ行くね…座って…」


「お、おう」

俺が地面に腰を下ろし、ルーが後ろに回って背後から首に向かってかぶりと噛みつき血を吸い始める


「あぁ…ショウの…凄いよぉ…あぁん…」

耳元でやめてくれ、こんな美少女に耳元で艶のある声で囁かれて俺の理性が崩壊寸前。


「…シュウの…おいしいよぉ…こんなの初めて…とても濃くて…やめられない…全部…吸いたい…」


「ルーさん?!俺死んじゃうよ?!」


ルーが名残惜しそうに顔を離した。 下唇に人差し指を当て満足そうな顔で舌なめずりしてから口を開く


「ねぇショウ…どうしたのぉ?何かいやらしい顔してるよぉ?」


そりゃ耳元であんな艶っぽい声聞かされそんな婀娜やかな顔見せられたら我慢できなくなるわ!

何とか耐えてる俺を誰か褒めてくれ!


「そ、そんな訳あるか!ルーそんな事言ってると押し倒してやらしい事するぞ!」


「ショウなら…私の目を見て綺麗って言ってくれたし…いいよ…」


「…マジ?」


「なんか体が熱いのぉ…頭もくらくらするぅ…何でかなぁ?」


ここで初めて迎えるチャンス?!異世界来て絶望からの絶頂とか落差凄すぎだろ!つかさっきからなんだよ別人かよ!


ん?だがちょっと待てよ?体が熱くて頭もくらくらする?これ魔力酔いしてね?


魔力は扱い方を間違えると酔っ払いみたいになる、戦いの最中からずっと体に魔力を行きわたらせてるし血液にも溶け込んでる、それを一気に体内に取り込んで酔ったのか!


このまま最後まですると絶対ルーが後悔して最悪嫌われるよなぁ。そうしたら俺死ねる。


「えいっ!ショウから来てくれないから私から行くもんねぇ~」


ルーが逆に押し倒して来た!

あー流れに身をまかせたいなーマジで…馬乗りになられながらため息をつく


「ルー?」


「なぁ~にぃ~?」

後ちょっとで唇に触れそうである。


「目、覚まそっか」

俺は魔力で作った威力のないただの水をルーに向かって当てる。 返り血が流れ落ち、服まで水浸しに………


いやいやいや!! これはまずいですよぉ! 白のワンピースが水を含み肌にペタリと密着………後は、わかるな??


「ん?ショウ?私…」

ルーの顔が一瞬で沸騰する。


「ち、違うの!私、なんだか体が熱くて冷静じゃなくて!あ、あんな事したくなんて! ショウが嫌とかじゃなくて…その…違うの頭が変で…」

顔を両手で覆いながら纏まりのない言葉を並べる。


「ショウ…私誰にでもあんな事するような女じゃない…だから…軽蔑しないで…」


馬乗りで俺の目を上からまっすぐ見つめる二つの赤い満月は濡れていた。

あぁわかった。この子嫌われるの怖いんだ。


何で俺にまで嫌われたくないのかはわからないけど、接し方がわからないからそっけないんだ。


抑揚があまりないのも感情があまり表に出ないのも自分を守る為。


自分を隠せば傷付かなくて済むから。 自分を出して拒絶されたら壊れてしまうかもしれないから…


俺と一緒じゃん…そう思ったら狂おしい程愛おしく感じた。起き上がって力一杯抱きしめながら囁く。


「大丈夫、気にしないし、ルーがそんな子じゃないのもわかってる。 原因は俺の血にもあるから気にする必要ないし。 それにさっきみたいなルーもなんていうか…違う魅力があって俺は…好きだよ。ってさっき出会ったばかりなんだけど…」

抱きしめながら頭を撫でる


「ほんと?今まで通り接してくれる?」


「勿論!もっとルーの事教えてよ!ルーの育った所も見てみたいし街を案内してくれる?それが俺からのお願い。」


「はい賜りましたショウ様。どこへでもお供させて頂きます」

体を離し、満面の笑みでおどけながら言った。


よかった、元気になったみたいだ!安心して視線を落とすと、柔肌がペトリと張り付き透けているけしからんものが目に入ってきた。


「…とりあえず…服乾かそうか…目に毒だわ…」


「え?」

ルーは濡れて透けたワンピースに気付き慌てて両手で胸を隠し、目が合いお互いにクスっと笑った。


それからは特に会話もなく服を魔術で乾かしていたが、月明かりに映える整った彼女の表情が出会った時より柔らかく感じたのは気のせいじゃないだろう。


何故なら彼女は…

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