第8話 魔法使いとの対決

 黒剣は拳銃を抜き構えていた。

 その落ち着いた姿勢はとても素人には見えなかった。


「さすがにやりますね。腕を遠隔操作して外にいると思わせるとは」

「褒めても無駄だ。お前は排除する」


 パンパンパン!


 警告も無しに銃弾を放つ黒剣。

 しかし、銃弾は槇田先生の手前で停止している。そして地面に落ちてしまった。


「物騒な人ですね。自衛隊のサイボーグ部隊はそんなに好戦的なんですかな?」

「貴様には関係ない」


 パンパン!


 再び射撃する黒剣。しかし、今回も弾丸は空中に制止した。

 これは魔法なのだろうか。


 サイボーグ部隊?

 槙田先生は確かにそう言った。


 黒剣はサイボーグって事なのか?


 黒剣は拳銃を放り投げ、一気に距離を詰めた。そして右回し蹴りを浴びせる。何かの障壁に阻まれ、黒剣の脚はヒットしない。しかし、その障壁ごと槙田先生を吹き飛ばした。

 10m位後方に飛ばされた槙田先生は苦笑いをしていた。


「さすがは化け物。この膂力りょりょくは半端ないですねぇ」

「お前に言われる筋合いはない」


 槙田先生は両掌から次々と火球を放った。黒剣はそれをかわしつつ再び蹴りを入れた。今度も槙田先生は10m程すっ飛ばされた。


「強いな。私は無駄な戦いを好まない。ここは引いてくれないかな。彼は調査が済んだ後、無事に送り届ける」

「出来ない相談だ」


 今度は、槙田先生の右腕からいかづちがほとばしった。しかし、その雷は黒剣を捉えられなかった。


 今度は、黒剣が日本刀!?を抜いて切りかかる。

 何処から持ち出したのか確認できなかったのだが、それは確かに日本刀だった。


 槙田先生は、黒剣の鋭い打ち込みをかわしもせずに受ける。

 例の障壁をも切り裂いているのだろうか、先生の額にうっすらと赤い筋が見えた。少しだけ皮膚を切っていたようだ。


「やりますね。肌を切られたのは初めてだ」


 槙田先生は額の傷を手で触り、切られていることを確認する。


「そろそろ本気を!?」


 そう言いかけて先生は口ごもった。黒剣の両腕がなくなっていたのに気づいたみたいだ。


「黒剣。貴様腕はどうした?」

「さあ?」


 黒剣は笑っている。しかし、僕は見ていた。黒剣の両腕が先生の足首を掴むその瞬間を。


「逃げるぞ」


 黒剣は僕を肩に担いで走り出した。

 僕はうあああああっと叫んでいたと思う。

 

 両足を掴まれた槙田先生はその場でスッ転んでしまった。

 黒剣は僕を抱えたままジャンプして、道路わきの川へと飛び込んだ。その時、上空から一直線に落ちてくる光球が見えた。それは槇田先生を直撃したのだと思う。


「息を止めろ」


 そう言って黒剣は僕にのしかかって来た。そして水中に沈められた。それにも関わらずかなりの衝撃を感じた。

 しばらくして水中から解放された。そこで、水が冷たかった事に気づいた。物凄く寒い。

 黒剣と一緒に反対側の河原へと上がった。

 向こう岸では道路が大きく陥没していた。そして、周囲には火災が発生していた。


 あの光球は何だったのだろうか。


「レールガンだよ」

「レールガン?」

「上空10000mのガンシップからの射撃さ」

「えーっと。マジですか」

「マジ」

「物凄い大仰なんだけど」

「だな」

「そんな物が必要だったって事?」

「そういう事」


 よく分からないんだけど、槙田先生を相手にするって、そういう強力な兵器が必要だったんだ。


「ところで、黒剣はサイボーグなの」

「どう思う?」

「分かんないよ」

「確かめてみるか?」

「え?」


 その瞬間、僕は黒剣に押し倒されていた。そして唇を奪われた。

 こんなずぶ濡れで、そして非常事態のど真ん中でのファーストキスだった。緊張して雰囲気も何もあったものじゃなかった。


 直ぐに自衛隊のヘリが飛んできて、僕たちは回収された。


 翌日の新聞では、あの現場は隕石の落下だとされていた。死者やけが人は無かったと報道されていた。

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