第5話 僕と槙田先生
「鳴田か。もう一人いたと思ったが、黒剣か?」
「あ、はい。さっきまで傍にいたんですが、どこかへ行ってしまったようです」
槙田先生は
「今のやり取り、聞いていたのか?」
睨まれた。
いつも優しい槙田先生じゃないみたいだった。
「はい。でも、会話の内容はよくわかりませんでした。他に誰かいたようなんですけど……」
少しとぼけてみた。すると槙田先生の表情が緩んだ。
「気にしなくていい。鳴田。よく来てくれたね」
歓迎されている?
僕に何か用事があったのだろうか。槙田先生は微笑みながら近づいて来た。
「鳴田君。私は君に物凄く興味があるんだ。先生に協力してくれないかな?」
「出来るなら協力したいんですけど……」
僕は口ごもってしまう。
非協力的態度だと思ったが、それが本心だった。
先生の後ろにいる、白い色をした石膏像の様なものがどうしてできたのか知っているからだ。僕もああいう風にされてしまうのだろうか。
「心配する事は無いよ。君は貴重なんだ。だから大事にしたいと思っているよ」
え?
今、槙田先生は何て言ったんだ?
僕が貴重だって?
「ああ、驚いているね。君には何もしないよ」
「何もしないって、貴重って」
「そう、君は貴重なんだ。だから君の事を調べたい。その部分では黒剣と同じかもしれないね」
何を言ってるんだ。
僕を調べたい?
黒剣が僕に近づいた理由?
パニックになった。何も考えられないじゃないか。
「そう、彼女は君の事を色々調べていたんじゃないのか? PCとかいじらなかったか?」
確かにPCをいじられた。残念だったけど初期化されたんだ……。
「そうみたいだね。アイツはスパイなんだよ。防衛省の機密を盗むために君に近づいた。そして君を狙っている」
「スパイって?」
そうだ。僕の父が防衛省に勤務していることを知っていた。皆には内緒にしていたのに。でも、PCをいじくっていたのハッキングから守るためじゃなったのか?
「きっと、ハッキングされているとか言ってPCをいじくっていたんだろ? 何か仕込まれているよ」
仕込まれているって何が?
黒剣は僕のPCをハッキングから守ってくれたのだと思っていた。先生は逆だと言っている。どっちを信じたらいいんだろう。
僕には判断できなかった。
「大丈夫だ。君の事は私が守る。だから少し調査したいんだ」
段々、先生の言っている事が信頼できると思えてきた。僕の心を安心させる何かがある。
「じゃあ、今から僕と一緒に行こう。いいね、鳴田」
「はい。わかりました」
僕は頷いていた。
先生はにこやかに微笑んでいる。
「さあ行こう」
僕の手を引き歩き始めた。
先生の後ろにいた二体の石膏像の様なものも床から浮き上がってついてくる。
あれ? あの白いのはなんだったっけ。
何か重要な事だったように思うが、何も思い出せなくなっていた。
僕は先生に手を引かれ、駐車場へと向かう。そこにとめてあったピックアップの助手席に座った。白い石膏像の様なものは浮き上がって荷台に納まった。
その光景に僕は何も疑問を抱かなかった。
槙田先生は運転席に座って車を発進させた。
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