第4話 再び学校へ

「これで良し。昌彦、気を付けろよ」

「分かったよ。PCの電源は落とす。ルーターの電源も落とす。Lanケーブルは抜いておく」


 黒剣に言われた事を復唱する。そういえばリビングにあるPCはどうすればいいのだろうか。


「あっちも同時進行で初期化しておいた。後で誤魔化しておけよ。言い訳のセリフは『操作を間違えちゃった。アハ♡』が良いだろうな。ふふふ」


 母が料理のレシピを検索したり、撮った写真をupしたりしてるだけだから特に影響はないと思うのだけど、色々言い訳が面倒だと憂鬱ゆううつになる。


「ところで、これからどうするのさ。本当におとり作戦を実行するの?」

「ああ、そうだ。学校に戻ろう」


 玄関から外へ出る。

 自転車に二人乗りで学校へと向かうのだが、途中のコンビニへ立ち寄った。菓子パンと牛乳を買った黒剣は立ったままむしゃむしゃと食べている。僕はペットボトルのお茶だけにしておいた。


「腹は減らないのか?」

「食べる気にはならないよ」


 そう、食欲なんてない。平気で食べている黒剣の方が不思議だと思う。

 コンビニに自転車を止めたまま学校へ向かった。自転車が見つかると不味いらしい。学校へ着くと校門は閑散としていた。警察の車両は帰ってしまったようで人気は無かった。


 突然、黒剣は正門のゲートに向かって走っていき、それを簡単に飛び越えてしまった。たった1.5m程度なんだけど、その見事なフォームには感嘆してしまった。


「ボーっとするなよ。こっちに来い」


 黒剣に促されてゲートに掴まって乗り越える。何だか無様な感じがするが、黒剣の様なジャンプは自分には無理だ。

 やっとこさゲートを乗り越えた僕の手を掴み、黒剣は走り出した。


「もたもたするな。見つかるぞ」

「分かったよ」


 そのまま校舎の裏へ向かって走る。目指すは理科室だと思ったら、その横にあるプレハブの部室棟だった。そこに科学部の部室がある。黒剣は持っていた鍵で部室を扉を開けて中に入る。


「鍵?」

「気にするなって」


 いや、普通は気になるだろう。

 どうして部外者が鍵を持ってるんだ。


 黒剣は部室に備え付けてあるPCを触り始めた。それは既に起動済みで、モニターは自動で点灯した。監視カメラの映像が映し出される。


 マウスを操作し、監視カメラの映像を切り替える。警察の捜査は終わったようで、理科室は片付けられていた。


「お、お客さんがいる」

「誰?」

「槙田だ。それと刑事だな」


 本当だった。あの、槙田先生がいた。そして刑事らしきスーツ姿の男性が二名立っていた。年配と新人といった感じのコンビだった。


「ここじゃ音を拾えない。昌彦、行くぞ」

「行くって?」

「理科室だよ」


 黒剣に手を引かれ部室を後にする。そのまま廊下を通り理科室を伺う。中で話す声が聞こえてきた。


「だから、ここで何をしているのかって聞いている」

「学校は捜査の為、今日一杯は立ち入り禁止にしていただいたんだ」

「期待していた人物ではありませんね。どうしましょうか?」

「質問に答えろ。何をしている」


 どうやら、槙田先生が警察の質問をはぐらかしているようだ。おかげで本題に入る前に辿り着くことができたようだ。

 僕たちは教室後ろ側の出入口からそっと中を伺う。


「犯人は必ず犯行現場に帰ってくるってのは本当なんだな」

「何の事でしょうか?」


 槙田先生は相変わらずとぼけている。この状況、先生が思いっきり怪しいじゃないか。


「話を聞かせてもらいたい。今朝ここで人が死んでいた。その件についてだ」

「さあ。オジサンには興味がないので」

「若ければ興味があるのか」

「そうですね。若い男はそそりますね」

「そそるって、何がしたいんだ」

「そう貴方、貴方は合格です。まだまだピチピチしている。そっちのオジサンは不合格」

「意味不明だ」

「そう? 私にはよくわかる」


 槙田先生がパチンと指を鳴らす。

 すると、白いもやが二人の刑事を包みこんだ。


 白いもやは徐々に固まり、石膏像のようになる。そして二人は動かなくなった。


「オジサンは余計ですが、騒ぎになるよりはましでしょう。そこの二人出て来なさい」


 ドキッとした。槙田先生は僕たちの事に気づいてたんだ。


 僕は恐る恐る教室に入った。


 黒剣は?

 

 消えていた。


 僕は辺りをキョロキョロと見まわしたんだけど、彼女の姿は何処にも見当たらなかったんだ。

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