第3話 自宅で✖✖✖

「これからどうする?」

「そうだな。貴様の部屋はどうだ。PC持ってるんだろ」

「あるけど、安物だよ」

「構わんさ」


 黒剣は相変わらず笑っている。不敵な笑みという奴だろうか。

 僕は自転車に跨り、黒剣は荷台に腰かける。


 そのまま自転車をこいで自宅へと戻った。


 自宅に戻ったが、当然誰も居ない。僕は鍵を開けドアを開ける。二階にある自分の部屋へと黒剣を案内した。


「へぇ~。結構片付いてるじゃないか。ベッドの下漁ってもイイか?」

「ダ、ダメだよ。お断りだ」

「分かりやすい反応だ。私はその反応が見たかったんだ。ははは」

「からかわないでくれよ」

「嫌だね。ふふ」

「本当に漁る気なのか?」

「クククッ。その慌てっぷりがたまんないよ」


 完全に遊ばれている。

 でも、黒剣は肝心な場所を漁ることはしなかった。


「勿論、ネットにはつながっているよな。USBケーブルはあるか?」


 僕は黒剣の言葉に頷いた。

 机に入っていたケーブルを取り出し黒剣に渡した。


「いい心がけだ。PC使うぞ」


 黒剣は机に上にあるデスクトップの電源を入れた。


「パスワード」

「NARITAMASAHIKO。全部大文字」

「OK。潔いぞ」


 ウインドウズが立ち上がった。

 黒剣は、モニターに表示された壁紙を見て僕を睨む。


「貴様、こんな趣味だったのか?」


 しまった。

 壁紙には二次元の、ロリ系魔法少女をセットしていたんだ。


「違う。それはとあるゲームのプレゼントで……」

「エロゲな」


 何故知っている。

 タイトルも入っていないのに……。

 知っているなら黒剣も同罪じゃないか。


「貴様、私が同罪だと思っていただろう?」


 何故分かったんだ。


「これは、全てのエンディングをクリアした際に貰える5種の壁紙の中の一枚。知っているのは私がその“エロゲ”をクリアしたからだと疑っているな?」


 図星だった。


「ふふふ。この事は黙っててやる」


 黒剣は笑いながら、ものすごい勢いでキーボードを叩き始めた。

 そしてぼそりと呟く。


「このPC……やはりそうか」

「どうしたのさ」

「虫がな、害虫がわんさか湧いて出た」

「え?」


 びっくりした。セキュリティソフトは更新している筈なのに何故?


「貴様、父親は防衛省勤務なのだろう。セキュリティには気を遣え」

「ちゃんとセキュリティソフトは使ってる」


「プロがそんな程度で阻止できると思ってるのか? Wi-Fiは使うな。使っていない時はルーターの電源を落とせ、Lanケーブルも抜いておけ」

「そんな面倒な事出来ないよ」

「ならPCは使うな」

「そんな無茶な?」


 黒剣はキーボードを叩きながら僕を睨む。


「ああ、面倒だ。初期化するぞ」

「やめて。僕の宝物が!」

「実行」


 黒剣がエンターキーを押した。

 この瞬間、僕の貴重なコレクションが消去されていく。


 終わった。


 僕はベッドに腰かけ黒剣を見つめている。黒剣も画面を眺めているだけで、作業終了までまだ時間がかかりそうだ。


 PC上では何やら進捗状況が表示されている。まだ50%台で当分終わりそうにない。僕は、黒剣に質問した。


「あの時、何があったの?」

「あの時って?」

「黒剣が倒れた時の事さ」

「ああ」


 黒剣はニヤニヤ笑っていた。相変わらず何を考えているのか分からなかった。


 黒剣は左手で自分の右腕を掴み引っ張った。彼女の右腕が肘の部分から外れた。


 千切れた?


 一瞬僕は自分の目を疑った。でも、それは義手だとわかった。非常に精工な造りだと思った。


 黒剣の二の腕から離れた右手が動く。外れていても動いているのが不思議だった。


「それは義手なの?」

「ああそうさ。お前さんを驚かせてやろうと思ったんだよ。突然倒れて見せたのさ。義手の手首を使って脈を取るだろうからな。見てわかるだろう。脈なんてないんだ、これには」


 全くこの娘は意地が悪い。

 僕をからかって喜んでいるんだから。


「だから逃げたの?」

「ああ、救急車が来ると困るんだ。色々と」

「特別性なんだよね」

「ああ」


 黒剣はニヤニヤ笑いながら右手の義手を元に戻す。右手を握ったり開いたりして、その感触を確かめているようだった。


「事件の事、詳しいの?」


 僕の質問に、黒剣はかぶりを振る。


「何も確証がない」


 それはそうだ。高校生の分際で、何か分かっている方がおかしい。でも、黒剣は何か自信があるような表情をしていた。


「手掛かりはあるんでしょ」

「ああ」


 やっぱりそうだ。

 黒剣は何か掴んでいる。


「どうするの?」

「囮でも使うかな?」

「囮?」

「ああ、そうだな。昌彦まさひこ。一つ頼まれてくれるか?」


 心臓がドクンと鳴った。

 黒剣は、

 まさか、

 僕を囮に使うつもりなのか?


 僕は目を見開いて黒剣を見つめた。

 黒剣は笑いながら頷いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る