出逢ったから…

出逢ったから… 1

 奥嵯峨の入口の手作りのケーキと淹れたてのコーヒーが看板の小さなカフェの席で、宏枝が胸の前で両のこぶしを握って云い募っている。


「だって、そう言われちゃったら、もう信じるしかないじゃないですか」


 良樹はというと、くくっと肩を震わせて笑いを堪えている。

 それで宏枝も表情を緩める。


「それでこの話には続きがあって──」


 ラテに口をつけつつ話す彼女に、良樹は時間が経つのを忘れて見惚れている。

 時計を確認はしていないが、そろそろ駅に向かった方がいい時間かも知れない。でも、もう少し話していたい、そう思った。



「──宮崎くんって、デートは初めてですか?」


 出し抜けに、その問いは発せられた。良樹は思わず見返す。

 彼女は、窓の外を見やっている。少しはにかんで、やわらかな横顔。


「わたしは初めてでした」


 つぶやくような、吐息のような。

 むちゃくちゃドギマギとさせられ、良樹は声が出せない。

 少し間ができて、彼女は赤くなって、良樹に向き直るとかしこまった。


「初めてのデートの人が、宮崎くんでよかったです」


 ほんの少し高くなったトーンで、彼女はそう言ってにっこり笑う。


「僕も……中里が最初で、よかった」


 もう照れてしまっていた良樹は、そう言うのが精一杯だった。

 言われた方の宏枝も、包むように両の手に取ったカップに顔を伏せ、俯いてしまう。

 また間が出来る前に、良樹は切り出した。


「もしよかったら……東京で──」


 彼女が上目で反応する。


「また会ってくれないかな……」


 目を伏せて、肩をすぼめるように、少しの間固まる彼女。それからこくりと小さく頷いた。

 伏せられた彼女の表情には気付かず、良樹は心の中で小さくガッツポーズする。


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