出逢ってから 12

「結局紙人形一つだけ?」

「いいでしょお、別に」


 レジで勘定を済ませた二人は、そろそろ陽も和らいできた嵯峨野の、観光地の人の流れに視線をやる。


 人の流れの数は、少しは減っているのだろうか。


「…………」


 流れの中に戻ろうとタイミングを計るような宏枝は何かもの言いたげで、でも切り出せないふうに1、2歩、歩みを進める。良樹はちょっと軽口を言ってみたくなって、わざとらしく小首を傾げて言った。


「これは……花より団子、的な?」


 う……と、宏枝が顔を伏せる。

 歩調が遅くなって、それから止まる。そんな彼女を良樹が覗き込むと、つぃと目線を下げて小さく顔を背けた。



「ごめん……いまのはちょっとひどかったかも」


 さすがにこれはデリカシーに欠ける言葉だったかと、良樹はきまり悪そうに謝る。──内心ではもっとずっと後悔してる。


 ──うあー……失敗した……


 宏枝は黙ってリュックから先ほどの民芸店の包みを取り出す。くるりと良樹の方に向き直り、それを両の手で差し出す。


「──はい」

「え…」 受け取りしな、さらにきまりの悪い顔になる良樹。「オレに…?」


 うなづいた彼女の抑揚のない声。


「今日のお礼です……」

「……」 声が震えてしまった。「あ、ありがとう…」

「いーえ。……どーせ花より団子ですから」


 彼女は、ちょっと拗ねた顔してそっぽを向いてみせる。



「あ……あの……」


 これは……やり直したい──良樹は切実にそう思いながら、でもそんな宏枝の横顔に云う。


「──大切に……するよ」


 精一杯の素直な想いを伝える。

 その言葉に、宏枝は横目で良樹を見上げる。

 彼女の横顔が、ちょっと照れた、満足気な表情になる。

 良樹も照れて、こめかみを掻いた。 


「ん」


 いきなり、宏枝は逃げるように2、3歩駆け出した。くるりと良樹の方を振り向いて笑う。


「中里宏枝はお団子女子ですから──」 お道化た口調で、茶目っ気の混じった笑顔で、敬礼っぽく右手をかざしてみせる。「そろそろ、お団子の時間にしたいです!」


 自然、良樹も笑顔になって、それで思い至った。

 歩き詰めだったし、そろそろお茶の頃合いかな。


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