出逢ったから… 2

 その後、わたしは泣いてしまいそうなのをずっと堪えて、駅までの道を歩いた。

 穏やかな風に揺れる竹の林の中を、まだたくさんの人で賑わっていた表通りを。

 すぐ隣を歩く彼との、肩と肩との距離を意識して──


 彼の歩幅が、速まったり、遅くなったり。わたしの歩幅が、大きくなったり、小さくなったり……。

 二人で探る歩調は、まだ微妙に合わなくて、それがぴったりとはならないことに、わたしは切なくなる。


 彼の声が聞こえる。いろいろなコト、胸がいっぱいになる。

 嬉し気にこたえる、ちょっと高くなってる、わたしの声。



 有名な、テレビや雑誌でも見たことのある〝あの〟橋を渡ったとき、その水辺と空の景色に心が動いたわたしが、駆け出して振り返るより先に、大慌てで彼が追い付いてわたしの肩を押さえる。


 ──ストップ!! 頼むから、ここでは振り返らないで!


 わたしは、それがどういうことなのか想像がついて、大真面目な彼の声がちょっと震えてたことが、ちょっと嬉しかった。

 ふとした表情、さりげない仕草……、もっと知りたいと思った。

 ほんとは、まだまだずっと話していたかったけれど、でも、もう時間がきてる……。



 それから駅までの往来の中、電車までのホームの上、お互いの言葉の数は少なくなって──。

 だって彼の声に、泣いてしまいそうだったから……。

 ただ彼と二人で歩いて、じんわりと、心地よい時間が流れて──

 同じ時間の流れの中で呼吸したこと、忘れないと、思うわたし。



 乗り換えの駅で、階段を彼の背中についていくとき、背の高さを意識する。

 手を引く彼の、握ってくれた手の温もりに、目頭が、ちょっと熱くなった。

 その顔を見られたくないわたしは、彼の後ろをついていく。



 電車の中で、シートの隣に座ってる彼の肩に、そっともたれかかってみた。

 目を閉じて、疲れて寝入るフリをして。

 重心のかけ具合が難しくて、それが少し、恥ずかしくて……。

 彼の肩がそっと動いて、収まりのいいように位置をずらしてくれる。

 薄目を開けて、彼の表情を見てみたくなったけど、それはやめておく。

 彼の顔を見たら、わたし笑いだして、それから、きっと泣いてしまう。



 そうやって時間はとまらず過ぎていって、わたしたちは彼の宿泊する旅館の最寄り駅に着いた。

 優しい声で起こしてくれた彼に、わたしは夢見心地なふうな顔をしてみせる。

 ちょっと照れた彼を、微笑んで見上げる。

 ここから旅館につくまでの短い間、笑うことに決めた。


 最後は、好きだって、彼が言ってくれた笑顔でいることに、わたしは決めた。


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