第25話 奇跡の光

 ガノスがゆっくりと近づいてくる音がする。もうほとんど何も見えない。


「もういい、一度死ね。その後は俺の下で働くんだ」


 俺は死を覚悟した。その瞬間ガノスの歩みが止まった。


「ぐがあっ……貴様……」


「ソラは殺させない! 」


 俺は力を振り絞り目を開く。するとそこにはスズカがガノスの背後から刀を突き刺しているのが見えた。ガノスの背中からは大量の血が吹き出している。


「貴様、よくもやってくれたな! 」


「きゃっ! はな……して! 」


 ガノスはスズカを片手で掴み取り、俺めがけて投げ飛ばした。スズカの体が勢いよく飛んでくる。あれは何とかスズカの体を受け止めた。ガノスは突き刺さった刀に苦しんでいる。


「スズカ、守れなくてごめん……」


「私こそ……最後まで何もできなくてごめんね」


「スズカ、最後になるかも知れないからどうしても言いたいことがあるんだ」


「待って……最後なんて……」


 俺はスズカを見つめる。この世界に来てからずっと隣に居続けてくれた。スズカの頭をそっと撫でる。


「スズカ、頼りにならなくてごめん。スズカやみんなの事絶対に守るって決めたのに何もできなかった」


「ソラ! ソラはいつも私たちを守ってくれた。みんなソラが頑張ってるのは分かってる。だからこそみんなソラについてきたんだよ」


「それでも結局何もできなかった」


 突然俺の顔に衝撃が走る。パチンという音が小さくなる。スズカの小さな手のひらが俺の頬に触れる。


「私はいつもみんなの事を考えてくれてるソラが好き。だからこそ私はソラの為に頑張ってこられたの。だからソラ、諦めないで。私も頑張るから、二人一緒なら大丈夫」


「スズカ……」


 俺の中にあったはずの後悔や諦めがいつのまにか消えていく。スズカの言葉一つ一つが俺の心に響きわたる。スズカがパートナーで本当に良かった。


「スズカ、俺もいつもみんなの事を想ってるスズカが好きだ。だからこそ必ず守り抜く! 」


「私もソラと一緒にみんなを守りぬく! 」


 俺たちは力を振り絞り立つ上がった。

 すると突然、俺たちの光が輝き出した。


「これは一体……」


「ソラ、もしかして!? 」


「な、なんだこの光は!? 貴様ら一体……」


 光が俺たちの体を包み込む。優しくあたたかな光に包まれ、心が安らぐ。先程までの体の痛みがスッと抜けていく。


 ――あなた達の絆の深まりを検知しました。


 頭の中に声が響き渡る。


 ――おめでとうございます。レベルアップです。


 俺たちを包み込んでいた光が体の中へと入り込む。体の内から力が湧き出てくる。先程までの痛みや疲れは一切ない。


「貴様ら! 」


「今度こそ決着だ、ガノス! スズカ、行こう! 」


「任せて、ソラ! 」


 俺たちはガノスと再度対峙する。俺はガノスへと突撃する。今までとは比べ物にならないスピードだ。体が羽毛のように軽い。俺は勢いそのままにガノスを蹴り飛ばす。


「ぐぁっ、なんだそのスピードは!? 」


「これならやれる! 」


「私もいるよ! 」


 スズカは魔法陣を大量に発生させ、氷の弾丸を作り出す。スズカの合図とともに弾丸は勢いよくガノスへと飛んでいく。


「がぁぁぁ……はぁはぁ、貴様ら……」


「ガノス、これでお前もおしまいだ! 」


 俺は落ちていた刀を払い上げ構える。ガノスは頭に血が上っているのか、自慢の角で突進する構えを取っている。俺も真正面から受け止める覚悟を決める。


「ソラ……」


「大丈夫、信じて待っていてくれ」


「わかった。ソラ、信じてる」


 俺はガノスの突進に構える。ガノスは勢いよく地面を蹴り上げる。ガノスが地面を蹴るたびに地面がえぐれていく。ものすごいスピードだが今は怖くない。スズカが信じて待っている、それだけで力が溢れてくる。


「シネェェェェ! 」


「死ぬのはお前だけだ! 」


 ガノスが俺の間合いへと近づく。俺は瞬き一つせず間合いに入るその時を見極める。


(ここだ! )


 俺の間合いにガノスの角が入った瞬間、刀を振り下ろす。刀と角が勢いよくぶつかり合う。ガノスは俺を押し返そうとするが、俺は負けずに振り抜こうとする。


「こんな奴に俺様が!? 」


「今度こそ終わりだぁぁ! 」


 ガノスの角にヒビが入る。ビキビキという音とともにビビが広がり角が折れた。刀は勢いそのままにガノスめがけて振り抜く。

 刀はガノスの体を斬りつける。ガノスの体には斜めに切り傷がつき、血が吹き出す。


「こ、こんなことが……ゼ……ノ……サマ……」


 ガノスはゆっくりと倒れこむ。ガノスの周りには血の海が出来上がる、


「倒した……のか? 」


「ソラ、お疲れさま」


 スズカがこちらを見ている。俺はスズカへと駆け寄り、力の限り抱きしめる。


「ソ、ソラ!? どうしたの? 」


「守れたんだ、スズカのこと、みんなの事をちゃんと守れたんだ! 」


 スズカはそっと手を頭へと添えてくれる。


「ソラ、ありがとう」


 スズカの言葉が嬉しい。みんなを守れたことが嬉しい。これから先まだまだ問題だらけだ。だからこそこれからもみんなと頑張っていく。

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