第24話 真剣勝負
ガノスは眩い光に包まれていく。今までに何度も見てきた光景だ。しかし今までのワクワクはなく、全員が絶望していた。みんなの考えは同じだ。だが信じたくない。
絶望の光は見る見るうちに小さくなっていく。巨大なガノスの形はそこにはなく、俺たちとそんなに変わらない姿の人が立っていた。
「嘘だろ……」
「そんな……」
タイチとチエは自然と言葉を零していた。
「みんな、にげ……」
俺はみんなに向け逃げるように叫ぼうとした。その瞬間目の前にいたはずのタイチとチエの姿が消えた。それと同時に、黒い影のようなものが目の前を通り過ぎ、影の後を凄まじい突風が追いかけてきた。
突風に体をよろめかせ影を目で追う。するとガノスの進化した姿が目に入る。先程までの野蛮さはかけらもなく、むしろ知性に溢れた姿の青年になっていた。茶色のヒゲと腕にもミノタウルスの毛が生えている。頭には先程までと同じだ鋭いツノが生えていた。
「ぐっ……は、はなせ！ 」
「く、苦しい……」
「二人を放して！ 」
スズカは疲労困憊な体を何とか動かし、ガノスへと叫ぶ。ガノスはスズカの言葉を無視して両手で持っているタイチとチエを締めあげる。二人は耐えきれず悲鳴を上げている。
「放しなさい！ シロウ、援護！ 」
「任せて、カノン！ 」
シロウはありったけの補助魔法をカノンへとかけ、カノンは思いっきりガノスに殴りかかる。すでに魔法を出す余裕はないのだろう。
しかしガノスは突撃するカノンめがけてタイチとチエを放り投げる。二人はものすごいスピードで飛ばされてカノンや後ろにいたシロウを巻き込み吹き飛んだ、
「タイチ、チエ大丈夫か！？ 」
「カノン達も大丈夫！？ 」
俺やスズカの声はみんなには届かずにいた。どうやら衝撃で全員気絶してしまったようだ。
俺はスズカに目で合図した。
（何とか注意を引くから、スズカはみんなを連れて逃げろ！ ）
スズカは首を横に振る。その目には涙が見えた。満身創痍なスズカに無茶なお願いをしているのは分かっている。優しいスズカが俺を置いて逃げるなんて無理だろう。だけどこのままじゃ全滅だ。
「貴様ら、よもやこのまま逃げれるとでも？ せっかく進化出来たのだ。私の実験台になってくれないのか？ 」
「誰が実験台になるか！ お前は俺が切り刻んでやるよ」
「はっ！ お前はよく吠えるな。いいだろう、まずばお前から試させてもらうか」
俺は刀を握りしめて構える。ガノスは落ちていたタイチの大剣を軽々と片手で持ち上げ構える。
今度は奴の動きをしっかりと見る。パワーは確実に奴の方が上だろう。それならスピードで何とかするしかない。
「来ないならこっちから行くぞ」
「やってやる！ 」
ガノスは勢いよく突っ込んできた。その姿は暴牛の如く地面を蹴り上げ、俺は気圧された。しかし、ここで負けるわけにはいかない。
俺は刀をしっかりと握りしめて奴を迎え撃つ。奴の一振り一振りが俺の体をかすめる。その度に風圧で切り傷ができる。ガノスの乱撃は止まることを知らず、俺は必須に躱すので精一杯だった。
「オラオラ！ どうした、こんなものか！ 」
「くっ！ 」
必死に避け続けるがこのままでは拉致があかない。俺はガノスの縦振りを体を回転させながら避け、そのままの勢いで回転斬りをする。ガノスは咄嗟にしゃがみ込んで避ける。その間にガノスめがけて蹴りを繰り出す。
ガノスはバク転で回避してそのまま距離をとった。
「そうでなくてはな……いくぞ！ 」
「ふぅ……さぁ、こい！ 」
俺は息を整え再度ガノスと対峙する。奴に攻めさせてはダメだ。俺は奴へと斬りかかる。ガノスは大剣で刀を受け止め、弾き返す。すかざす大剣の横薙ぎが襲いかかる。姿勢を低くして、大剣の下をくぐりガノスの足を斬りつける。
体制を崩したガノスに刀を突き立てようとしたが、奴の蹴りをモロに食らってしまった。
「ぐっ…はぁはぁ……」
「中々やるな。だがまだまだだな」
「くそ！ 」
（スズカ、頼む。今のうちに！ ）
俺はスズカに目をやる。するとスズカはまだ動けずにいた。タイチ達も起きる気配がない。
（ダメだ……俺が奴を倒す！ ）
俺は言うことを聞かない体にムチを打ち立ち上がる。こうなったら残る手は１つしかない。先程と同じく直接体に電気を流し込む。しかし奴には隙など見当たらない。
（やっぱりこれしかないか……スズカ、ごめん）
俺は顔を両手で叩き気合を入れた。パァンという音が部屋全体へと響き渡る。
「くるか……受けてたつ！ 」
「必ずお前を倒す！ 」
俺はゆっくりと刀を鞘に納める。深呼吸をして力を抜く。そのままゆっくりと鞘へと電気を貯める。初めはパチパチと花火のような音を立てていたが次第に轟音へと成長していく。
俺はガノスを視界の中心に捉えて離さない。ガノスも俺のチャージか溜まるのを待ち正々堂々と受けるつもりだ。
「さぁ、かかってこい！ 」
「行くぞ！ 」
俺は叫ぶと同時に力の限り地面を蹴った。それと同時にガノスも走り出す。ガノスとの距離が縮まる。
（ここだ！）
ガノスの懐へと潜り込み一気に刀を振り抜く。絶対に当たる、そう確信していたが結果は違っていた。奴は大剣を捨て、さらに加速して突っ込んで来たのだ。
俺は予想外の動きに対してなすすべもなく奴の渾身のタックルをモロに受けてしまった。
吹き飛ばされ壁に勢いよく叩きつけられた。腹と背中は今までにないほどの痛みを感じ、口の中は鉄の味しかしない。
「貴様、俺もろとも死ぬ気だったな。いい覚悟だった。お前は俺の下に置いてやる」
「だれが……お……」
声を出そうとするたびに肺が悲鳴をあげる。代わりに出るものは鉄の味がする赤い血だけだ。俺は体を動かすのが精一杯だ。
（ダメだ……視界が霞んできた……スズカ、みんな守れなくてごめん……）
薄れゆく意識の中、ガノスが大剣を手に俺に近づいてくるのがわかった。
不死身だと分かっていても死ぬのは怖い。ましてやその先どうなるのか……それよりも俺の中ではみんなを守れなかった後悔だけが胸の中を巡っていた。
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