第23話 赤眼の猛牛
駆けつけたスイムによって全員が回復する。チエとスズカは抱き合いながら互いに謝り合っている。タイチとヒカルは久しぶりの再会の嬉しさを噛み締めているようだ。
俺はドリューとともに周りを警戒していた。
「彼ら私たちのこと忘れてないかしら? 」
「でも、さっきの戦いは入り込む隙がなかったよ、カノン」
「そうなんだけどさぁ、なんか暴れたりない」
「カノン、お願いだから一人で突っ込まないでね。僕心配だよ……」
「あら、その時は守ってくれるんでしょ? 」
カノンはニコリと笑いシロウを見ている。シロウは顔を赤くして逸らした。
「あぁ、それでこいつらは誰なんだ? 」
「シロウとカノンだ。二人とも沢山の魔法が使えるんだよ」
「私はチエ! よろしくね、シロウ、カノン! 」
「こんなチビ、本当に大丈夫か? 」
「チビって言うな! 」
カノンはタイチめがけて殴りかかる。タイチは片手で軽々とカノンの頭を抑え込む。腕のリーチの差からカノンの拳はタイチには全く届かなかった。
「まぁいいや。それよりもソラ、この先にガノスって言うミノタウルスがいる。そいつがここを仕切ってるんだ」
「ならそいつを倒せば良いんだな」
「それがそう簡単にはいかない。あいつはとにかく強すぎるんだ」
「あら、私たちだってかなり強くなってるよ」
「スズカの言う通りだよ! ボクたちかなり強くなってるし、みんながいるんだもん」
チエはスズカに抱きつき、自信満々に笑った。確かに俺たちはこの世界に来てから沢山の冒険をしてきた。それに仲間だって沢山できた。守るべき命だってある。
「タイチ、俺たちなら大丈夫だ。スズカやチエ、それにシロウ達までいるんだ。負けっこないさ! 」
「だけどヒカル達は……」
「そこはドリュー達に任せよう! お前がいない間こいつ達がどれだけ成長したと思う。お前達を助けるって頑張ってたんだぞ」
「タイチ兄さんの妹には怪我ひとつさせないよ! 」
「私もヒカルさんとカケルさんを絶対守ります! 」
ドリューとスイムは笑顔で答えた。二人は本当に強くなった。二人の姿を見てタイチは安心してヒカル達を任せた。
「ああ! 二人とも頼んだぞ! 」
「「任せて! 」」
俺たちはドリュー達と別れて扉の前へと立つ。全員の顔に恐れはない。みんながいれば大丈夫だ。
俺たちは全員で扉を力の限り押した。キィィた言う錆びついた音と共に扉が徐々に開いていく。扉の先には大きな部屋が広がっている。大きな柱が何本もありマンガなどでよく見る玉座の間のようだ。
部屋の奥には大きな玉座にとてつもなく高いモンスターが座っている。
「やっと来たか……タイチお前もやはり裏切るか」
「妹は取り返した。お前らに従う理由はない! 」
「理由ならあるさ。今すぐお前らを殺し、捕まえてやる! 」
モンスターはゆっくりと立ち上がり、となりに立てかけてあった2つの斧を両手で握る。立ち上がったモンスターはゆうに5メートル以上はありそうだ。真っ赤な目に茶色と黒の毛皮を見にまとい、体全体が筋肉で覆われている。
「そう簡単にやられるか! みんな行くぞ! 」
タイチの掛け声で俺たちは一斉に臨戦態勢をとる。シロウは魔法陣を展開し俺たちの素早さと防御力を上げてくれた。体が羽のように軽く皮膚が石のように硬くなっているようだ。
「みんな、僕が癒すから恐れず戦って! 」
「私たちが援護するからみんな行って! 」
スズカは弓でガノスの真っ赤な目を狙い、カノンは魔法で援護する。轟音と共に様々な色の魔法が繰り出され、戦場を彩る。
「タイチ、チエ、行くぞ! 」
「いつも通りだね、了解」
「任せろ! 」
動かな速い俺とチエでガノスを撹乱する。その大きさからガノスはあまり素早くないように見える。俺たち二人はガノスの周りを囲んだら背中に登り攻撃を仕掛ける。
ガノスが大振りの一撃をスカした隙にタイチが渾身の一撃を加える。
タイチの攻撃でよろけた好きにスズカとカノンの魔法が突き刺さる。
「よし、このまま……」
「待って! ソラ、あれ! 」
チエの指差す方を見る。そこには何事もなかったかのようにガノスが立っていた。
「なんだ……この程度か。正直がっかりだ」
「ダメージ無しかよ……」
「いや、ダメージはありそうだけどそもそも頑丈すぎる。このままじゃ俺たちの体力が保つかどうか……」
「それでも諦めちゃダメ。ボク達が負けたらどうするの! 」
チエの言う通りだ。俺たちが負ければ帰りを待っているみんながこいつの奴隷になってしまう。俺たちだって死ぬまでこき使われるだろう。そんなのは絶対ダメだ。
「みんな、このまま奴を攻撃し続けよう。こうなったら根比べだ! 」
「おう! 」
俺たちは再度ガノスへと立ち向っていった。俺の刀やチエの水の刃、タイチの重い一撃が何度もガノスへ突き刺さる。その隙にスズカやカノンの魔法も命中している。
「ええぃ、虫ケラどもがうっとおしい! 」
ガノスの巨大な斧の一撃はまだ当たらないが、一撃が重くさらにとてつもない衝撃波を生み出す。俺やチエほ何度も衝撃波を喰らうがシロウの回復のおかげで何とか保っていた。
「このままじゃこっちが保たない。ソラ、チエ頼みがある。俺が注意を引くからその間に……」
「タイチ危ない! 」
「うわっ! ……くそ、二人とも頼んだぞ! 」
タイチはガノスめがけて飛び出した。俺とチエはタイチ達に任せよ集中する。
タイチはガノスと重い一撃をギリギリのところで避け続ける。シロウの魔法のおかげで何とか持ちこたえていた。
遠くからスズカ達も援護するが魔法の使いすぎからかかなり消耗している。
「スズカ、カノン、最後のもう一踏ん張りだ! 頼む! 」
「任せて、タイチ! カノン行くよ! 」
「わかったわ、スズカ! 」
スズカはありったけの力を振り絞り鋭い氷の槍を作り出す。槍は辺りの空気すら凍らせるほどの冷気を放っていた。カノンはその槍を風の魔法を使いガノスめがけて勢いよく打ち出した。
「これでもくらいなさい! 」
「凍って! 」
「グァァァァァ」
槍はガノスへと突き刺さり、刺さった箇所から見る見るうちに凍り出す。
「いまだ! 」
タイチは勢いよく飛び出した、一気にガノスの体を駆け上る。するとガノスの頭めがけて大剣を突き刺す。
ガノスはすんでのところで大剣を回避したが、肩に大剣が深く突き刺さる。ガノスの鮮血が辺り一面に飛び散った。
「貴様ら、よくも! 絶対殺してやる! 」
「うわっ! 」
ガノスは肩に乗っていたタイチを掴み、力の限り握り潰そうとしていた。
「ぐぁぁぁ……ソラ、チエ、頼んだ! 」
「任せて、これでもくらいなさい! 」
チエはありったけの水を勢いよくガノスめがけて放つ。水流の勢いに押されてガノスはタイチを放してしまった。
「これで終わりだ、ガノス! 」
「クソォォォ」
俺はありったけの雷をガノスめがけて落とす。雷の白光と轟音が部屋全体を覆い尽くす。
雷はタイチが刺した大剣に落ち、ガノスの体に伝わる。チエの水に濡れたせいでガノスの体を全体へと雷は伝わり、ガノス自体が光っていた。
「こ、こんな……やつら……に……」
「やったのか……? 」
ガノスはゆっくり膝をつき、そのまま動かなくなってしまった。俺たちは満身創痍の中、ガノスの動きが完全に止まったことを確認した。
「やった! 倒したんだ! 」
「シロウうるさい! はぁ……疲れたぁ」
「お疲れ様、カノン。ソラ大丈夫? 」
「大丈夫だよ、スズカ。それにしてもタイチのおかげだな! 」
「まあな! 掴まれた時はもうダメかと思ったぜ」
「ボクがいてよかったでしょ? 」
「あぁ、ありがとな、チエ」
そういうとタイチはチエを抱きしめた。チエは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
俺たちは顔を見合わせニヤニヤする。
チエがこちらに気づいたのかタイチを引き離そうと暴れ出す。
俺たちは勝ったんだ! ……誰もがそう思っていた。ガノスの体が光に包まれるまでは……
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