第22話 旧友との再戦
俺、スズカ、シロウ、カノンの4人で再度上を目指す。階段を上がり、先程落ちたホールを慎重に進む。ホールには大きな階段があり、さらに上へと続いていた。
「外から見る限り、次が最上階だよね? 」
「そうだよ、スズカ。いるとしたらこの階にあるはずだ」
「ミノタウルスって強いのかな? 」
「ゲームとかだと結構強い印象だけど……カノン、無茶だけはしないでね? 」
「しないわよ、バカ! シロウこそ足引っ張らないでよね!」
2人は相変わらずだ。暗い館に騒がしい声が響き渡る。
今まではこの騒がしい光景が当たり前だった。チエが攫われ、タイチと戦うことになって訳の分からない状況になってしまった。
(大丈夫、もう少しで日常を取り戻せるんだ)
俺は駆け足で階段を上がる。階段の先には大きな通路とその先に大きな扉が見える。前にダンジョンで見た扉によく似ていた。
「あ!って前に見たダンジョンにあったボス部屋の扉がだよね? 」
「あぁ、よく似ている」
「ダンジョンって何!? 」
「シロウ、落ち着けって! 」
シロウはダンジョンという単語に過敏に反応していた。テンションが上がっているのか俺の首を絞め問いただしてきた。
「落ち着きなさい、バカ! 」
「いてっ! ひどいよぉ、カノン……」
締めあげるシロウをカノンが思いっきり殴り飛ばした。シロウはその場に叩きつけられて泣きべそをかいている。スズカは呆れた様子でため息をついている。
「相変わらずだな、ソラ」
急な声に俺たちは即座に反応する。何度も聞いたことのある声だ。力強くだけどどこか優しい声の主は俺たちと扉の前に立ちはだかっていた。
「よぉ、さっきはよくもやってくれたな、タイチ」
「何しにきたんだよ、ソラ」
「あなた達を助けにきたんだよ」
「俺たちはこのままでいい。だから帰ってくれ」
「そういわけにはいかないの! 」
「なんだ、このチビは? 」
「チビって言ったか? ぶっ殺す! 」
カノンはタイチの一言に激昂していた。カノンの後ろには複数の魔法陣が展開された。
カノンが魔法を展開する前にタイチの後方から大量の水が飛んできた。
「この水はまさか!? 」
「久しぶりだね、ソラ、スズカ」
「「チエ! 」」
タイチの後ろからチエが姿を現した。俺とスズカは同時に声を上げた。チエは捕らえられていたその為にタイチは無理矢理従っていると思っていた。しかし現実は違う。
(ならタイチ達は何のために奴らに従うんだ……)
「チエ、どうして? 」
「スズカ、ごめんね」
「ソラ、今すぐ帰るんだ。そうすれば少なくとも今すぐどうこうなる訳じゃない。逃げないなら覚悟しろ」
タイチは大剣を掴み、こちらに威嚇してきた。チエも同じくこちらに拳を向けている。2人とも戦闘態勢だ。
「スズカ、2人とも喋る気はなさそうだ。どうする? 」
「決まってるよ。2人を倒してでも訳を聞く! 」
「それでこそスズカだよ。タイチ、チエ覚悟はいいか? 」
「こっちはとっくに覚悟済みだ。やっぱりお前らは言うこと聞かないよな……なら! 」
タイチは大剣を振り上げた。タイチの大剣に一瞬気を取られチエの姿を見失う。
「ふんっ! 」
「甘いよ、チエ」
気がつけばチエが俺のすぐ目の前にいた。すぐ横にはスズカがいる。チエの拳をスズカが止めてくれていた。
「やるね、スズカ」
「チエに教わったからね」
「じゃあこれはどう? 」
チエはくるりと回転し、スズカめがけて蹴りを繰り出す。スズカも全く同じ動きをしていた。習ったばかりなのにスズカはチエの動きについていっている。
「やっぱりスズカは運動神経抜群みたいだね」
「先生がいいからね」
「それはどうもっ! 」
スズカとチエはハイレベルな戦いをくれ広げていた。側から見れば格ゲーのような動きをしていた。
「こっちも始めようか! 」
「今度は負けないからな! 」
俺はゆっくりと鞘から刀を抜く。さっきは油断したが今度こそ全力でタイチを止める。そして何でこうなったか問いただす!
タイチとの間合いを取る。タイチの一撃は確かに重いがこっちの方がスピードがある。前みたいな奇襲に気をつければ早々当たらない。
タイチもそれが分かっているからか無闇に攻撃しない。
(ならこうだっ! )
タイチの周りに魔法陣を展開する。魔法陣から魔法陣へ電気の糸が繋がっていく。
「へぇ、電気の檻って訳か。こんなもんで俺を止めれると? 」
「そう思うなら触ってみるといいさ」
「触る必要なんかないさ」
タイチはゆっくりとしゃがみこみ地面に手を置く。手を置いたところから魔法陣が展開された。
「魔法か!? 」
「そうだよ、焼き尽くせ! 」
魔法陣から大きな炎が現れ見る見るうちに獣の姿へと変わっていく。炎の獣は俺が作った電気の檻を飲み込み巨大になっていく。
獣はこちらを睨むと勢いよく襲いかかってきた。
俺は素早く刀を納刀し鞘に電気を貯める。バチバチと唸る刀を勢いよく振り抜いた。振り抜いた刀は獣を一刀両断して斬り伏せた。
「その隙を待っていたんだ」
炎に隠れながらタイチは接近していた。すでにタイチは大剣を振りかぶっていた。
「どこに隙があるって? そりゃ! 」
俺は刀を振り抜いた勢いそのままに体を浮かせ回転した。回転の勢いそのままにタイチを蹴飛ばす。
タイチは大剣を振りかぶっていたせいか防御出来ずにモロに食らってしまった。
「がっ……くそっ! 」
「降参しろ」
俺はすぐにタイチへと駆け寄り刀を首元へと向ける。前の戦いとは逆の立場になっている。
「そう簡単にやられるか! 」
「まだ抵抗するのか! 」
タイチは大量の炎を出し、俺やスズカもろとも炎で飲み込もうとした。
「スズカ、頼む! 」
「任せて! 」
スズカは前面に氷の壁を作り炎を遮った。スズカの氷は次々と溶けていくが瞬時に作り直す。
溶けた氷は水蒸気となり辺り一面を霧で覆い隠してしまった。
(これじゃ何も見えない……)
「ソラ、どこ? 」
「スズカ! 声を出しちゃダメだ! 」
すると霧の向こうから勢いよく大剣が飛び出してきた。大剣の腹がへとぶつかり衝撃で飛ばされてしまった。
「ぐっ……またか……」
「ソラ、だいじょう……きゃ! 」
「スズカ、動かないでね」
「ソラ、もう降参しろ。さもないとお前たちを殺さなくてはならなくなる」
そういうとチエに捕まっているスズカめがけて大剣の先を向ける。タイチの目が本気であると訴えかける。
その瞬間俺の中で何かが弾けた。
「タイチ……それだけは流石のお前でも許さない」
「許さないってこの状況でどうする……なんだ!? 」
俺は言うことを聞かない自分の体を無理やり動かし起き上がる。俺の周りには沢山の雷が唸り、空間全体を支配した。自分でもコントロールできてるか怪しい。
「タイチ、チエ覚悟しろ」
「チエ! お前は離れていろ! 」
俺は空間全体に広がる雷を全て鞘へと集中させる。刀を鞘へしまい抜刀の構えを取る。鞘は高音を放ちながら白く光る。タイチも大剣を構え、迎え撃ち構えだ。
俺は目を瞑って音に集中する。チエとスズカの叫び声、刀の唸る音、タイチの息遣い、全てに耳を傾ける。
刹那、タイチが唾を飲み込んだのを合図に俺は勢いよく飛び出す。と、同時に刀を勢いよく抜く。
抜いた刀は空間を切り、空中に白く輝く線を描かながらタイチへと向かっていく。タイチは咄嗟に大剣を構えたが全然間に合わない。
(タイチ、ごめん……)
「お兄ちゃん! 」
「っ!?」
大声に反応し、俺は勢いよく振り抜いた刀の軌道をギリギリのところで修正する。無理やり軌道を変えたせいで俺は体制を崩してしまった。
転がりながら声の主を見ると、そこにはヒカルの姿があった。
「ヒカル!? お前どうしてここに……そんなことより無事で良かった!」
「お兄ちゃんってまさか? 」
「ソラお兄ちゃん、この人は正真正銘の私の兄です」
「ヒカルがタイチの妹? 」
スズカがチエに問いただす。チエはスズカの拘束をとか答える。
「捕まった後、あいつらにタイチの妹のことがバレて従わなければ妹を殺すって脅されて……あいつにはあの子しかいないから、絶対守らなきゃいけないって……」
「そういうことかぁ……」
俺はゆっくりと起き上がりタイチ達へと近づく。タイチとヒカルば抱き合いながら泣いている。
「タイチ、お前が戦う理由はこの子だったんだな」
「あぁ、すまないソラ。こいつはたった1人の家族なんだ。俺が絶対に守らなきゃいけなかったんだ」
「それが分かればもう十分だよ。やっぱりお前が何の理由もなしに俺たちを殺そうとするはずないよな」
俺は座り込むタイチに手を差し出した。タイチは俺の手をしっかりと掴み、起き上がる。
起き上がったタイチの顔はいつも通りの笑顔が戻っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます