第21話 囚われし少年少女

 スズカの手をしっかりと握る。スズカは力強く握り返してくれた。

 スズカが今までどんな思いをしてきたのか、正直分からない。でもこれからは違う。スズカだけじゃなく、タイチやチエ、それにみんな一緒だ。


「さぁ、2人を取り返そう! 」


「うん! 」


「そういえば2人とも無事か? 」


「うん、なんともないよ! 」


「私も大丈夫です」


 ドリューとスイムは無事なようだ。2人のおかげで俺とスズカは助かった。2人もタイチ達を助けたい気持ちが強く、とても張り切っていた。


(タイチ、チエ今助けに行くからな! )



 ホールを見渡すと所々床が軋んだり抜けていたりする。歩くたびにキシキシと音を立て今にも抜けそうな床をある。


「ここら辺は危ないな」


「2人とも気をつけてね? 」


「僕らは軽いから大丈夫だよ」


 確かにゆっくりと歩けば大丈夫だろう。それにここを通らなければ先に見える階段へはたどり着けない。


「みんな慎重にね。何が起こるか分からないから……」


「ソラ、2人が! 」


 スズカの声に反応して、後ろを振り向く。するとドリューとスイムは白い幕の様なものに覆われて姿が見えなくなっていた。


「2人とも無事か! 今出してやる! 」


「待って! これはたぶん……」


 白い幕は音を立てながら割れていく。上から段々と割れていくにつれ、ドリュー達の頭部が見え始めた。その姿は明らかに今までの姿と違う。進化したのだ。


 ドリューは背丈は子供だがヒゲをモジャモジャに生やしていた。見た目からはいわゆるドワーフと言った姿だ。

 スイムの方は女性の姿をしているがどこか水の様な透明感がある。むしろ体が水でできている様だった。


「2人とも、よかっ……うぉっ! 」


「きゃっ! 」


 2人に近づこうと歩み寄ると、床が大きな悲鳴をあげ崩れ出した。どうやら2人の姿が変わったため床が耐えきれなくなった様だ。

 4人は下の階へと落ちて行く。二階までの階段はかなりの段数があった。このまま落ちればかなりの高さだろう。


「やばいぞ! 」


「ソラ! もっとヤバいかも………床がない! 」


 下を見ると先程落ちかけた穴が広がっていた。どうやら運悪く先ほどの穴の真上だったらしい。

 真っ暗な闇の中に飲み込まれながらどうにか頭を回す。後どのくらい猶予があるのかわからない。


(だめだ、考えがまとまらない)


 みんなの方を見るとみんな焦っているようだ。しかしスイムだけは違っていた。スイムは俺がみていることに気付くとニコりと笑い返した。

 スイムは自身の体を液体へと変え、みんなを包み込む。スイムの体は少し冷たいが息ができないと言うことはない。むしろ心地よいくらいだ。


「みんな大丈夫? 」


「大丈夫だよ、ありがとねスイム」


「スイムありがとう! 」


「あっ、そこが見えてきたよ」


 ドリューは下を指差す。下にはゴツゴツとした岩肌が見える。どうやら館の地下深くに落ちたようだ。

 スイムの体のお陰で落下の衝撃はなかった。スライムの様に弾力性のある液体のため、ボヨンボヨンと弾んでいる。


「よ、酔いそう……」


「ソラ、吐かないでね」


「これ楽しい! 」


「ドリュー、あんまり暴れないで! そんなに暴れると……」


 ドリューがはしゃいだ衝撃でスイムは俺たちを放り出す形となってしまった。放り出された先で俺はスズカとドリューの下じきとなった。


「ご、ごめんなさい」


「いたた……ドリュー危ないから暴れちゃダメだよ? 」


「ドリュー、みんなにちゃんと謝りなさい」


「ごめんなさい……」


「大丈夫だよ。次からは気をつけようね? 」


「わかった! 」


「……みんな、とりあえずどいてくれないか? 」


 みんなは慌てた様子で俺の上から飛び退く。申し訳なさそうにこちらをみている。


(まあ、みんな無事なら良かったか)


 俺は再度スイムにお礼を言い、周りを見渡してみる。あたりはどうやら洞窟の様に見える。

 かなり下に落ちてしまったせいか、上に上がるのは一苦労だ。まずは上に上がる方法を見つけなければ。


「そこにだれかいるの? 」


「だれだ!? 」


「お願い、ここから出して! 」


 声の主を探すとそこには牢屋に入れられた小さな男の子と女の子がいた。2人ともまだ小さい。


「今助ける! 2人とも離れてて」


「ソラ兄さん、ここは僕に任せて! 」


 するとドリューはしゃがみこみ両手を地面につけた。途端に、地面に魔法陣が広がり土の違った柱が牢屋へと勢いよく突き出した。突き出した土の柱は鉄製の牢屋を壊した。


「2人とも大丈夫? 」


「あ、ありがとうございます。何日もここに閉じ込められてしまって……」


「ヒカル、大丈夫? 」


「大丈夫だよ……カケルこそ大丈夫? 」


 どうやら男の子はカケル、女の子はヒカルという名前らしい。


「2人とも回復してあげるからこっちにおいで」


「ありがとう、お姉ちゃん」


「スイム、回復できるのか? 」


「うん、回復魔法を覚えたから、それに回復薬も今まで通り作れるよ」


 どうやらスイムは進化して回復魔法を覚えたみたいだ。スイムは魔法陣を展開すると薄緑色の光が放たれた。光に照らされた2人の怪我がみるみる内に綺麗になっていった。


「お姉さん、ありがとうございます! 」


「私はスイム、こっちのお姉ちゃんがスズカさん。それからあったがドリューとソラさんだよ」


「みんな、助けてくれてありがとう! 」


 2人はとても元気になった様だ。なぜこんなところに2人はいたのか、聞きたいことが山程ある。しかしここは敵の拠点だ。まずは脱出が優先だ。


「あらら、2人を解放されちゃいましたか? 」


「お前はさっきの!? 」


「さっきはどぉも。いやーせっかく上で待ってたのにこんな下まで来るなんて、あんた達もなかなか焦らしますね」


 先ほどと同じこちらをからかう様な口調で話しかけてくる。チエに化けていたモンスターだ。


「まぁ、あんた達が何しようが俺の担当じゃないんでどうでもいいっすけどね。でもここの主人は短気だからあんまり待たすと知らないっすよ」


「ここの主人はお前じゃないのか? 」


「そっすよ。ここの主人はミノタウロスっす。あいつをあんまり待たすとお仲間の首が飛んじゃうかもっすね」


「そんな事させてたまるか! 」


 俺は目の前のモンスターに刀を向ける。刀の先を目の前の敵に向け、勢いよく突進する。しかし、刀どころか俺もろとも体を突き抜けた。先程同様幻の様だ。


「そっちのお仲間もきたみたいだし、俺っちはここらでおいとましますよ。それじゃ頑張って」


「待て! 」


 モンスターはゆっくりと透明になっていき次第に消えていった。


(あいつは味方なのか、敵なのか? )


「おーい、みんな無事? 今ロープを下ろすからねー」


 穴の上からシロウの声が聞こえた。さらに後ろの方にはシノンもいる様だ。


「シロウか? 助かった。カノンも無事か? 」


「こっちは無事よ! そっちこそ大丈夫? 」


「大丈夫だよ、でも子供が2人いるの! 」


 シロウ達が下ろしたロープを伝い、みんなが穴から脱出した。なんとか無事全員が合流する事が出来た。


「まずは2人を外に連れ出そう。ドリュー、スイム、2人をお願いできるか? 」


「任せて! スイムいける? 」


「大丈夫だよ、ドリュー。さぁ2人とも一緒にここから脱出しましょう! 」


 ドリュー達にヒカル達を任せ、俺たちは上の階へと目指して進む。上の階ではミノタウロスとタイチ達がいるはずだ。

 必ず2人を取り返す。そう心に誓い、急ぎ足で駆け出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る