第20話 スズカの過去
スズカはやっと許してくれた。ひたすら土下座は効果があったようだ。
「まぁやましい気持ちがなかったのなら、不可抗力って事で許したげる」
「あ、ありがとうございます」
やましい気持ちがないことはない。だけど黙っておこう。
「それよりも2人を探さないと」
「まさかこの穴に落ちてないよな……」
「それなら2人とも落ちて復活してるはずでしょ? とりあえずこの館を探索してみようよ」
スズカの言う通りだ。2人は心配だが2人とも魔法が使えるし、油断しなければそこそこやれるだろう。
まずは4人で館を調べることにした。全員でひと塊りになり敵や罠に備えながら進んだ。途中沢山の部屋があったが一階の部屋には特に何もなかった。
二階へと続く階段を使い、上へと登った。そこには大きなホールがあった。映画なんかで見るパーティが開催されそうな場所だが、見た目は廃墟とかしている。
「ソラ、なんか出そうだね」
「スズカはこういうのは平気? 」
「割と平気かな? それに今はソラもいるしね」
「僕たちもいるよ! 」
ドリューは元気よく叫んだ。ドリューの声がホール中に響き渡った。
すると、ドリューの声とは別のもっと大きな声がホールの奥から帰ってきた。奥の暗闇からうっすらと白いものがゆらゆらと浮いているのが見えた。よく見るとホールのいたるところに浮かんでいる。
「みんな気をつけろ! 」
「ドリュー、スイム離れちゃダメだよ! 」
白い何かは1つへと集まりだした。小さな何かは集まりに連れ、大きな物へと姿を変えていった。
見るからに大きな何かは蝶の形へと変わっていく。
「大きな蝶? 」
「油断しちゃダメだ、スズカ。何が起こるかわか……」
スズカに注意しようとした矢先、蝶は凄まじ光を放った。光の眩しさに思わず目を閉じてしまった。瞼の奥の暗闇でさえ照らす光に俺たちは飲み込まれてしまったのだ。
光のを浴びた先には白い世界が広がっていた。隣にいたはずのスズカやドリュー達の姿が見えない。
「スズカ、ドリュー、スイム、どこだ! 」
俺の声が白い空虚な世界に響き渡る。帰ってくるのは静寂のみだった。どうやらここには俺しかいないみたいだ。
(敵の攻撃か? だとしたらなんとかしてここから脱出しなければ)
俺はとにかくこの世界を走り回ってみた。しかしどこかにぶつかるわけでもなく、何かがあるわけでもなかった。
すると、どこからか女の子の笑い声が聞こえてきた。気がつくと目の前に小学生くらいの女の子がボールで遊んでいるのが見えてきた。
白いワンピースに銀色の長い髪の似合う女の子は1人楽しそうに遊んでいる。
「ねぇ君、ここはどこ? 」
…………
「君は誰? 」
…………女の子はこちらをみて怖がっている様子だった。
「大丈夫だよ」
しかし女の子は何も話そうとしない。よく見ると目線が俺向いていなかった。俺の後ろにある何かを見ているようだった。
俺は咄嗟に刀に手をかけ、振り返る。
するとそこには大人の女性が苛立った顔で立っていた。女性は前へと進みだした。俺はぶつかるかと思い身構えたが女性は俺の体を通り抜けていった。
(もしかして俺の姿が見えていない? )
女性は女の子へと怒鳴り始めた。
「全く、遊んでばかりいないで勉強しなさい! あなたは出来損ないなんだから人一倍努力しなさい! 」
「でも、ママ……」
「また言い訳するのかい、ならお仕置きだよ」
そういうと女性は女の子の腕を思いっきり引っ張った。女の子は痛がり泣き出した。
「おい、やめろ! 」
「痛いよ、ママ! ごめんなさい、いうこと聞くから許してください」
「今更謝ったって遅いよ! 今日一日倉庫にいなさい!」
「やめて!許して!」
俺の声は女性に届かず、女の子は女性とともに白いモヤの中へと姿を消していった。
(なんだったんだ……)
不思議に思うのも束の間、今度は中学生くらいの女子達のグループが見えた。グループは1人の女子を取り囲んでいるようだった。
「お前、まじでうざいよ! 先輩に色目使ってんじゃねーよ」
「私そんなことしてない」
「口答えすんのかよ、おいお前らやってしまえ」
「やめて! 離して!」
リーダー格の女の命令で1人女の子が取り押さえられた。取り押さえられた女性は腹を殴られたり蹴られたりしている。
「お前なんかこの世に必要ねーんだよ。だからお前の親もお前の方捨てたんだよ! 」
「私……」
女の子は泣き崩れた。こういうのは大嫌いだ。だが今の俺にはどうする事も出来なかった。
次第に殴るのに飽きたのか、女性達は先程の女の子を放置してその場から消え去った。
「私……必要ないのかな……この世に生まれて来なければよかったのかな……」
女性はそのままゆっくりと白い世界へと沈んでいった。何もしてあげれないもどかしさがなんとも言えなかった。
次に現れたのは私服姿の女性だ。薄々気が付いていたが間違いない。その女性は……スズカだった。今まで見てきたのは全部スズカだったのだろう。
小さな頃には笑顔で笑っていたのに今では無表情で目も死んでいるようだった。俺の知ってるスズカではない、暗く何もかも諦めているそんな顔だった。
(スズカ……)
よく見るとスズカの周りが赤く染まっている。赤い液体はスズカから流れ出ていた。
「これでやっと……」
「スズカ!」
スズカはゆっくりと崩れ落ちた。咄嗟に支えようとしたが触ることができない。
「私結局誰にも必要とされなかった……誰か1人くらい……ううん、もうどうだっていい。もし叶うなら、生まれ変われるなら誰もいない世界がいい」
スズカは赤く染まった手を空へと向けた。手から腕へと綺麗な赤色が肌を染めていく。
「あぁ、初めからこうしてれば良かったかなぁ……そうすれば誰も傷つかなかったのかな……」
これはスズカの過去だ。スズカの辛い思いや、無念が俺の中へと流れ込んでくる。そして何もしてあげられないことに悔しさがこみ上げる。
スズカは1人になることを望んでいた。それなのに俺は何も考えずこの世界のルールだからとスズカを連れ回した。
「スズカ、ごめん。俺……」
「1人になりたかった。誰もいなくなればいい。ソラ、私の前から消えて」
いつのまにかスズカが俺の後ろに立っている。
「1人になりたい。ソラ、私の願い叶えてくれるでしょ……」
「あぁ……そうだよな……」
俺はゆっくりと立ち上がり、スズカから離れる。スズカと離れさえすれば俺達は消える。スズカも望み通り1人になれるだろう。
(スズカ、今までごめん)
俺は走りだした。一刻も早く、スズカから離れないと。力の限り地面を蹴り続けた。
「ソ……起き……。 目……して」
ふと誰かに呼ばれているようなきがした。しかし地面を蹴るのをやめない。離れなければ……
「ソラ! 」
「スズカ!? 」
気がつくと目の前にスズカが立っていた。スズカはいつも通りの顔でこちらに近づいてくる。
「ソラ、違うの。確かに私は前の世界では誰にも必要とさされず誰にも愛されなかった。だからこそこの世界に来て初めて誰かに必要とされるんじゃないかって嬉しかった」
「嬉しかった……?」
「そうだよ、だって私がいないとソラが消えちゃうんだよ。私達は2人で1人、ルールだから仕方ないけどそれでも私にとっては誰かに必要とされると思うだけで嬉しかった」
「ルールだからじゃない!」俺の方こそルールに縛られたせいで危険な目に合わせたり不安にさせたりしてしまった。だけど……」
「ソラと一緒にいるって決めたのは私だから。それにソラといて楽しいよ? ピート達とも出会えたし、チエやタイチって言う友達もできた。前の世界では考えられないくらい幸せだよ」
「スズカ……」
「だからソラ、早くこんなとこ抜け出してみんなを助けに行こう。また皆で笑って過ごせるように! 」
「あぁ、そうだな! 」
俺とスズカはありったけの力を込め魔法を発動させる。魔法陣からは雷鳴が轟きあたりには吹雪が吹き荒れている。
俺たちはそれらを白い世界の空へと思いっきりぶつけた。
「こんなところで立ち止まってられるか! 」
「私達は友達を助けにいくんだ! 」
2人の魔法は勢いよく白い世界の天井へとぶつかる。すると天井には薄い膜のようなものが見えた。
「「いっけぇぇぇぇ」」
2人の前は空を突き抜けていった。突き抜けたところから薄い膜がバリバリと言うガラスが割れるような音とともに割れていった。
膜の向こうにはドリューとスイム、そしてその前に倒れこむ大きな蝶がいた。
「2人とも無事で良かった! 」
「ソラさん、スズカさん!」
「ドリュー、スイム! お前達が倒したのか!? 」
「このくらい楽勝だよ! 」
2人が倒した蝶はみるみるうちに霧散していった。2人が蝶を弱らしてくれたおかげであの世界から脱出できたのかもしれない。
「ソラ、あのね……」
「スズカ、これからも一緒にいてくれる? やっぱりスズカがいないとダメなんだ」
「私もソラと一緒にいたい」
俺はスズカとまた目あった。お互いの手は白い世界を脱出した時のまま繋いだ状態だった。
俺はこれからもスズカとずっと一緒だ。元の世界は関係ない。俺はスズカが必要だ。ルールとかではなく俺がスズカと一緒にいたいんだ。
「2人とも何かあったの?」
「ドリュー、2人と邪魔しちゃダメだよ」
2人の声が聞こえたせいか、俺とするとスズカは笑い出した。
(この幸せを絶対に守るんだ。だからタイチ達は絶対に取り戻す! )
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