第19話 幻惑の館

 チエに大きな怪我はなさそうだ。捕まっていたせいか所々小さな怪我はあるが無事でよかった。


「チエ、大丈夫? 」


「チエさん、この薬飲んでください」


 スズカとスイムがチエの手当てをしている。2人に任せ他のみんなを見てこようと思った時、何かが胸に刺さっていることに気がついた。


(なんだ……チエが無事で良かったじゃないか。 タイチはどこかへ行ってしまったようだが助け出せばいい。まずはチエを……)


 その時あることに気がついた。タイチはもうここにはいない。少なくともこの周りには何もないのだ。近くにはもういないだろう。なのにチエがここにいる!

 俺は自分の疑問を解消させるため、みんなにバレないように魔法を発動させた。もちろん間違いの可能性もある。最小限に、気絶させる程度の電撃をチエに向かって放った。


「ソラ!? 何してるの! 」


「スズカ、スイムごめん、ただ俺の考えが正しければ……」


 電撃はチエに命中し、周りにいたスズカ達は衝撃で後ろへと弾かれていた。2人は俺に詰め寄り責めたてる。しかし俺はチエから目をそらさなかった。

 チエは感電し体が痙攣していた。


(俺の思い違いか……)


 そう思った瞬間、チエの周りの空間が歪み出した。歪みは大きく広がり次第にチエの体を覆い隠した。


「みんな、みろ!」


「何……」


「チエさん! 」


「あいつはチエじゃない! チエならタイチから離れることは出来ないはずだ! ここにタイチはもういないだろう、ならこいつは偽物だ! 」


「よく気づいたっすね」


 空間の歪みからチエとは違う男の声が聞こえてきた。歪みは次第に収まっていき、チエがいた場所にはインプのような悪魔の姿をしたモンスターが立っていた。


「お前も奴らの仲間か! 」


「もぁそんなもんっす。それより雑魚とはいえあのゴングを一瞬で仕留めるなんてやるっすね」


「タイチ達をどこへやった! 」


「チエをかえして! 」


 おれとスズカはモンスターへと詰め寄る。モンスターは飄々とした態度で俺たちを軽くあしらっているようだ。


「彼らはこの先の館に連れてったっす。助けたければ来ればいいっすよ」


「どうせ嘘だろう、お前を捕まえて本当の居場所をききだす」


 俺はスズカにアイコンタクトした。スズカは俺の考えを読み取ってくれたようだ。ゆっくりとやっとの間合いを縮めると同時にスズカと挟み込むように動く。

 相手は余裕そうにしている。よっぽど強さに自信があるのか?


「とりあえず無駄なことはやめようや、どうせお前らには俺は倒せないし俺はお前らと戦うつもりもない」


「そっちには無くてもこっちにはあるんだよ! 」


「まあそう熱くなるなって。どこにいるか教えてやっただろう? 」


「あんたの言うことは聞かない。こおれ! 」


 スズカは魔法で奴の足元を凍らせた。すかさず俺は奴へと飛びかかった。しかし俺の体は奴の体すり抜けてしまった。


「だから無駄って言ったのに、それじゃ館で待ってるぜ」


「くそっ! 」


 奴の体はみるみるうちに消えていった。どうやら奴の体自体が幻だったようだ。俺は結局何もできなかった。


「ソラ、落ち込んでても何も始まらないよ。助けに行くんでしょ」


「ああ、もちろんだ! だけどこの子達も守らないと……」


「それなら俺に任せてほしい。ライラ一緒にこの子達を拠点まで送り届けよう」


「わかったわ。スズカさんお気をつけて」


 サスケとライラにみんなを任せて館へ乗り込むことを決意した。


「私も連れてって」


「カノン、危ないよぉ」


「シロウは黙ってて! 私達その館で捕まったの。道案内できるし足元引っ張らないわ」


 そういう時カノンは火や水、そして風を起こした。どうやらカノンは様々な魔法が使えるようだ。


「それにシロウなら回復魔法や支援魔法が使えるから役に立つわ! 」


「僕も行くの……?」


「当たり前でしょ! 」


 カノンは強引にシロウを引っ張りこちらは連れてきた。シロウはなすすべもなく連行されていた。


「わかった。ただし危ないことは無しだ。君たちはまだ小さいんだから俺たちの言うことを聞くんだ」


「? あぁ何か勘違いしてるわね? 私達これでも大学生よ」


「えっ? そんなにチビなのに? 確かな胸は大きいけど……」


 途端に顔面と後頭部に強い衝撃が走った。スズカの回し蹴りとカノンの正拳突きが突き刺さったのだ。


「どう? チエ直伝の蹴りは。次は手加減しないからね? 」


「チビで悪かったわね、あと次胸のことに触れたらコロスからね」


 どうしてこう女性陣は毎回たくましいんだ。これじゃいつか本当に殺されそうだ。

 シロウにも笑われ、ドリューやスイムにも笑われてしまった。


「ソラさん、流石にそれは……」


「ソラ兄さんはデリカシーがないね! 」


「もう責めないでくれ、スイム、ドリュー……とりあえず奴らの館へ向かってみよう」


 気を取り直し、そして俺の無駄に減った体力も回復し奴らの館へと向かう。

 カノン達の案内のもと館を目指した。聞くところによると、館には沢山の本が置いてあり、そこで魔法を沢山覚えたそうだ。しかし本に夢中になってる間に奴らに捕まったらしい。


「シロウがもう少し読みたいっていったせいで捕まったんだわ」


「カノンだって次から次へと本を取り出してだじゃないか!」


「黙りなさい! そもそもあれだけ魔法があったのになんであんたは攻撃魔法を1つも覚えてないのよ!」


「よ、読めなかったんだからしょうがないじゃないか……」


 2人痴話喧嘩を聞いてると、タイチ達のことを思い出す。あの時なぜタイチは一緒にチエを助けず俺を襲ってきたのだろう。2人なら何とかなったかもしれない。

 それにあの真剣な目はタイチの本気だった。よっぽどの何かがあったのだろう。


「タイチのことだ。何か訳があるはずだ」


「ソラ、大丈夫だよ。今度こそ2人を助けよう! 」


「ありがとうスズカ。 スズカも無理はしないでね」


「わかってる。でもまた助けてくれるんでしょう? 」


 スズカはいたずらっぽく俺に語りかける。


「あぁ、スズカは命に変えても必ず守るよ」


「忘れたの? 私達の命は無限だよ? 」


「それでも君を傷つけさせない。何があろうと守り抜く」


「なら私もソラを守るよ」


 スズカと俺は笑いあった。スズカと一緒ならこの先何があっても大丈夫だ。何の根拠もないけど今自然とそう感じたのだ。




 しばらく歩くと大きな黒い館が見えてきた。一言で言うと幽霊屋敷といった感じだった。チエがいたら大暴れしていただろう。


「みんな、どうせ俺たちが来ることはバレてる。なら正面突破で行こう」


「任せて! 」


「僕も頑張るよ! 」


「なら初めは私の魔法で吹っ飛ばしてやるわ! 」


 カノンは魔法を発動し自身の前に大きな炎の弾を大量に作り出した。炎達はカノンの周りをぐるぐると勢いよく回り始める。


「さぁ、いっけぇぇぇ! 」


「あぶなっ! 」


 炎の何個かは俺の頭をかすめ、勢いよく館の扉へと突撃していった。炎が扉に当たるたびに大きな爆発が起こりみるみるうちに崩れ去っていった。

 爆発が収まると同時に俺たちは館へと突撃した。中は外同様に暗い通路が続いていた。


「静かだね……」


「スズカ、油断しちゃダメだ」


「か、か、カノン! あれっ! 」


「落ち着きなさい、シロウ! 」


 慌てふためくシロウが指差す方向には沢山の骸骨が飾られていた。


「こいつら動かないよね? 」


「ソラ、それはフラグ……」


 スズカの言う通りだった。骸骨達はカタカタと音をたてながら動き始めたのだ。


「やだぁぁぁ」


「シロウ待ちなさい!」


「2人とも離れちゃダメ! 」


「しょうがない! スズカ、彼らを追いかけよう」


 混乱したシロウを追いかけるカノンと、それを追いかける俺たち、2人は意外に足が速くなかなか追いつかない。


「ドリュー、スイム大丈夫か? 」


「うん、それよりもここ変だよ、ソラ兄さん」


「変ってどうしたのドリュー? 」


「スズカさん、私達結果走ってるけど通路が終わらないの」


 スイムの言う通りだ。結構走っているが館の端まではそんなにないはずだ。それにもかかわらず橋が見える気がしない。それに2人との距離も縮まらない。


「みんな、止まれ! 」


「何っ、きゃ! 」


 俺はスズカの腕を引っ張り体を引き寄せた。スズカの足元には床が抜け、断崖絶壁か広がっていた。もう少しすれば確実に落下して死んでいただろう。


「あ、ありがとう」


「ここは館なんだよな? なのに何でこんな崖が……それにいつのまにか2人もいなくなってる」


「そうだね……」


 俺は周囲を見渡してみた。さっきまでは確かに前を走っていた2人はいつのまにかいなくなっている。この先注意して進まなければならないだろう。

 ふとドリューとスイムがこちらを見ていることに気がついた。


「ソラ兄さん、そこは……」


「へっ?」


 ドリューが指差す方を見ると俺はスズカの胸を揉んでいた。程よい大きさの柔らかな胸だ。


「ソラ……」


「ごめん! 咄嗟だったから……ごめん!」


「ソラさんそれはまずいよ……」


 咄嗟に手を離したがすでに遅かった。チエ直伝の蹴りは俺の腹にめり込んでそのまま吹き飛ばされた。


「あぶねっ! 落ちるぅぅ」


「ソラ兄さん! 」


 すんでのところでドリューに助けてもらい九死に一生を得たのだった。

 スズカは顔を赤くしこちらを睨みつけていた。俺は心からの謝罪をするとともに、先程の感触は一生忘れないと心に誓ったのであった。

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