第18話 別れと出会い
タイチが真剣な目でこちらを睨みつけている。いつもの笑顔はそこにはない。その事実が本気であると証明していた。
「どうしてもやるしかないんだな」
「ああ」
「ならこっちも本気でやる。 スズカを助ける邪魔をするなら覚悟しろ」
俺はゆっくりと刀に手をかける。この世界で初めて出来た友達を前に本気で戦う決心をした。
二人ともタイミングを伺う。俺はタイチが瞬きをした瞬間に一気に距離を詰める。
タイチは一瞬反応が遅れ、後ろへと飛び退いた。
「甘い! 」
「くっ……」
後ろへ飛び退いたタイチめがけて、抜刀し切りかかる。刀はタイチの腹をかすめた。
すかさずタイチが大剣を振り下ろす。豪快な風を切る音が耳元に響き渡る。体のスレスレを大剣が通っていく。
「そんもの振り回してても当たらないぞ」
「だろうな、ならこれでどうだ! 」
タイチは大剣を地面に叩きつけた。轟音と共に地面の砂や足が勢いよく襲いかかってきた。すかさず避けようと横移動する。
「そこだ! 」
「んぐっ……」
タイチの横払いが俺の体に襲いかかる。咄嗟に鞘でガードしたがそのまま吹き飛ばされてしまった。かなりのダメージのせいか起き上がることが出来ない。
「そのまま寝ていろ、今楽にしてやる」
「どうしてこんなことを……」
「じゃあな、ソラ」
タイチは思いっきり俺の頭を蹴り飛ばした。そのまま俺は意識を失っていた。
誰かの叫び声が聞こえる。
「約束は……だろ! あい……解……」
「まだダメだ。 お前……はたらい……。 言うことを……あいつの命……」
「くそっ! 」
そこでまた意識が薄れていった。
(今のはタイチか……? やっぱり奴らに脅されて……)
今度は冷たい感触によって目が覚めた。体中に痛みがない。
「ソラさん!? よかった……」
「スイム、君が手当てしてくれたのか? 」
「はい! ごめんなさい、私隠れてることしか出来なくて……」
「そんなことないよ。 助けてくれてありがとう」
俺はスイムを撫でながら辺りの様子を見渡した。格子状のものの先に先程の闘技場が見える。どうやら檻の中に入れられてしまったようだ。
「そういえばスズカ達は? 」
「スズカさん達は別の檻に入れられました」
「そうか、サスケ達がいないところを見るとあいつらはまだ捕まっていないようだな」
「いえ、先程オーク達が慌しく叫んでいたので見つかるのも時間の問題かと……」
最悪の状態だ。全員が捕まってしまえば誰も助けを呼べない。ピート達なら心配で探しに来るだろうがこのままでは二の舞になってしまう。
「まずはここから脱出しよう」
「わかりました」
現状をもう一度整理する。
俺は今檻に閉じ込められている。足には丸い鉄球が付いている。同じ檻には誰もいない。
すると大きな足音が近づいてきた。槍を携えたオークが檻の前へとやってきた。
「お前、こっちへ来い! 」
「何の用だ」
「喋るんじゃない! お前はゴング様のおもちゃだ。おもちゃは黙ってろ」
そういうとオークは持っていた槍で俺を殴り倒した。武器も持たず周りに他に敵がいるかもわからない。とりあえず今は耐えるしかない。
「ソラさん、大丈夫? 」
「大丈夫だからスイムは隠れてるんだ」
スイムは形を変え俺の服の中に隠れている。たまに槍が当たっているようだが物理攻撃はスイムには聞かないようで少し安心した。
「まあいい、今からお前にはモンスターどもと戦ってもらう。もちろん死ぬまでな」
「お前らなんか全員倒してやるよ」
「粋がるのも今の内だぞ」
そう言いながらオークは高笑いしている。どうせまた卑怯なことを考えているんだろう。
俺はオークに引っ張られながら闘技場へと連れてこられた。闘技場にはすでに完全装備のオークが三体待ち構えていた。
さらに観戦席にはゴングが座っていた。ゴングは俺を見るや、立ち上がり叫び出す。
「侵入者よ、聞こえるか! 早く出てこい! さもなくばこいつは死ぬぞ」
「ソラ! 」
「お前は黙っていろ! 」
ゴングの横にいるスズカの鎖を思いっきり引っ張る。スズカは悲鳴もあげずグッと耐えてゴングを睨みつける。
「やはりお前はいいな、その顔が崩れるのが楽しみだ」
「あんたみたいなクズには屈しないよ」
「いつまで保つかな」
ゴングは手を挙げ振り下ろす。それを合図にオーク達は突っ込んできた。
おそらく侵入者はサスケ達だろう。サスケ達が出てくるまでこいつらは俺をいたぶるつもりだろう。
(サスケ達、逃げなかったのか……いやあいつなら何か勝算があるんだろう)
俺はサスケ達を信じる。オーク達の攻撃は単調でまるで連携が取れていない。スズカのことを考えると怒りが収まらない。頭の怒りを抑え冷静に耐える。
オーク達の攻撃を避け続けていると、ゴングはイラつき出したのか貧乏ゆすりし出した。
「一人相手に何をやっているんだ。お前ら潰されたいのか! 」
「も、申し訳ありません。今すぐに……」
「もういい! どけ、俺が直々に潰してやる! 」
そう言うとゴングは観戦席から飛び降りてきた。手には大きな棍棒を持っている。棍棒の先は黒ずんでいた。
「お前もこれで潰してやる! 」
「出来るかな? 」
「余裕ぶっているのも今の内だ! 」
ゴングは大きな音を立てながら突っ込んできた。見た目通り動きは遅い。これならたやすく避けられる。
「甘いわ! 」
「なんだ!? 」
ゴゴゴという音ともに足場が崩れ出しよろけた。どうやらゴングの魔法により足場を崩されてしまった。
「死ねぇぇぇ」
「ソラ様! 」
死を覚悟した瞬間、ゴングの後方から何かが飛んできた。俺の刀だ。
さらには飛んできた小刀が俺の足と鉄球の間の鎖を壊した。
「ナイスタイミングだ! 」
「今更遅い! 」
俺はすかさず魔法を発動し鞘と刀に電気を貯める。貯めた電気が眩い光を放つ。
「ありゃあああああ! 」
「ソラ様、いっけぇぇぇ! 」
俺は貯めた電気を一気に放出すると同時に刀を思いっきり振り切った。
放たれた刀はゴングの棍棒を真っ二つにした。
「俺様の武器が! お前こんなことしてどうなるか分かってるのか!? 」
「どうなるんだ? 」
「お前たちその女を殺せ! 」
ゴングは観戦席にいるオークたちに命令し、スズカを殺そうとしている。
「出来るかな? 」
「何を言って……」
スズカの方を見るとサスケとライラが保護していた。すでにサスケの手によって助け出されていたのだ。
しかし多勢に無勢、何か手を考えなければ……
「スズカ様、ライラ、飛んでください! 」
「えっ……」
「スズカ様失礼します! 」
「きゃっ! 」
サスケはスズカを抱え、観戦席を飛び降りる。ライラもサスケに続き飛び降りる。かなりの高さがあるが全員無事のようだ。
「貴様ら、そんなに俺に殺されたいのか! 」
「檻の中にのみんなは既に助け出した。あとはお前だけだ! 」
「そんなものまた捕まえればいい! まずは舐めた真似してくれたのかお前からだ! 」
ゴングはサスケに狙いを定めたようだ。先程切った棍棒も手に持ち構えている。
「やはり単純だな。 今だ! 」
「なんだ!? 」
サスケの掛け声と共に、地鳴りが響き渡る。地面全体が揺れているようだ。
地鳴りがはどんどん大きくなり、周りの建造物がミシミシと悲鳴をあげ始めた。
「お前何をした! 」
「俺じゃないさ」
「僕だよ! 」
「ドリュー!」
地鳴りの正体はドリューが地面を掘り地盤を弱くしたせいだ。そのせいで建物の重さに地面が耐えれなくなったようだ。
建物はみるみる崩れていき上にいたオーク達は次々と潰れていった。
「あとはお前だけだな」
「ぐぅぅ……
「みんな、あとは俺に任せてくれ」
俺は刀を構えて、ゴングの前へと進む。今まで抑えていた怒りを解放する。
静かに……冷静に……目的は1つ……やつを斬る!
「お前なんかにやられるかぁぁぁぁ! 」
「お前は何があろうと許さない」
俺はゆっくりと刀を様へとしまう。先程同様鞘に電気を貯める。先程よりももっと多く、もっと集中させ、もっとだ。
黒い鞘が白くなっていく。真っ白な刀が光り輝いている。
ゴングは刀の眩しさに耐えきれず、顔を覆い隠した。
その瞬間、刀を抜き振り切る。その勢いに乗り一瞬の閃光のようにゴングの体を通り抜ける。
「なんだ、何も起きな……」
「じゃあなゴング」
「何を言って……」
途端にゴングの上半身と下半身が離れる。ゴングはまだ何か喋り続けている。自分が切られていることにまだ頭が追いついていないらしい。
「こ、こんなやつら……に……」
「死んで詫びろ」
刀についた血を払い、刀へとしまう。と、同時にゴングは倒れこみ二度と動かなくなった。
「スズカ、守れなくてごめん」
「ううん、ソラならどうにかしてくれるって信じてた」
「ライラもすまない」
「私こそスズカ姉さんを守れなくてごめんなさい」
「みんな無事だったんだから、まずはそのことを喜びましょう。ドリュー作戦通り、よくやったな」
「ありがとう、サスケさん! 」
みんなのおかげで何とか危機を乗り越えた。
「皆さん! この回復薬を飲んでください! 」
「そういえば服の中に隠れてたんだったなスイム」
「忘れてると思ってました。 あんなに激しく動くなんて……」
スイムには悪いことをしてしまった。
スイムはみんなに回復薬を作る。回復薬を飲むとみるみるうちに傷が治っていく。
「すごいな、ありがとうスイム」
「どういたしまして! それよりサスケさん、助けた人たちは? 」
「あっちの方にいるよ、チエ様も無事だ。でもタイチ様はどこにもいなかった」
まずは助けた人たちを保護しよう。みんなで助けた人たちの元へと向かう。
ほとんどがモンスターだが、1組の神子がいた。
男の方はガリ勉というイメージが強かった。緑の髪に、おどおどした態度、明らかに運動よりも勉強が得意な感じだ。
女の子の方は中学生くらいか、とても身長が低い。しかし一部が明らかにでかい。ピンクの長い髪をポニーテールにし束ねている。
「君たち大丈夫? 」
「大丈夫です、僕はシロウと言います。こちらはカノンです」
「私はスズカ、こっちはソラだよ」
「よろしく、それよりもう1人神子がいなかったか? 」
「もう1人のお姉さんはあったで眠っています」
俺たちはすぐにチエの元へと駆け出す。
チエはゆっくりと起き上がりこちらを見て笑った。
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