第17話 捕縛者の罠

 俺はタイチと別れ作業に戻った。かなりの時間がかかっても1割も終わっていない。途中から子供達も手伝ってくれたがかなり時間がかかりそうだ。


「ひとまずお昼だし休憩しようか?」


「確かにそうだね」


 スズカと子供達は一緒に拠点の中心へと向かっていった。その先にはフウカとガルルが一緒に料理をしていた。ガルルがみんなの分の食器を準備し、フウカがスープをよそっていた。

 子供達は一列になり、今か今かと待ちわびている様だった。


「子供達、嬉しそうだね」


「俺たちのこと信用してくれたみたいで良かったよ」


「でも実際これからどうする? 」


「やっぱり俺はほっとけないと思う。 ある程度守りを固めたら一度自分の目で見てみたい」


「私も行くからね」


「危険すぎる。スズカはみんなとここにいてくれ」


「い、く、か、ら、ね! 」


 スズカは怒った口調で詰め寄ってきた。スズカにはここに残っていてもらいたい。だがスズカに押されてしまい承諾してしまった。


「なら誰かにここを守ってもらわないと……」


「それならピートとフウカに頼もう。あとはガイルとリタも子供が生まれたばかりだしここにいてもらおうよ」


 確かにピート達にはごともがいる。危険な目には合わせられない。そうなると一緒に行くのはゴクウとソーカ、あとは危険だからドリューとスイムか……


「そういえばタイチのやつ遅いな……」


「チエも1人にしてって言ってたし、また喧嘩してるんじゃないかな? 」


「そんなことはないと思う」


 さっきのタイチの様子ならまず間違いなく喧嘩はしないだろう。ならなぜ帰ってこない?


「まさか!? 」


「ソラ! どこ行くの!? 」


 嫌な予感がしあたりを走り回り探した。しかしどこにも見つからない。ゴクウ達にも協力してもらいながらタイチ達を探す。


「ソラさんこっち! 」


「ソーカ、何か見つけたのか!? 」


 ソーカの大声で全員が集まった。そこには争った形跡とかすかに血痕が残っていた。決定的なのはタイチの大剣が木に刺さったままの状態で落ちていたのだ。


「タイチ……」


「チエ……無事でいて……」


 スズカと一緒にタイチ達の無事を祈る。ここで立ち止まっていてもしょうがない。とりあえず辺りを隈なく探してみたがこれ以上の痕跡はどこにもなかった。


 ひとまず拠点へと戻ることにした。心配するスズカを励ましながら考える。焦って考えがまとまらない。

 タイチ達は捕まったのか?

 それならどこに連れていかれた?

 奴らの城まで連れていかれたのか? だとしたらどうやって助ける?


「ソラ、チエ達なら大丈夫」


「えっ」


 スズカが優しく抱きしめてくれた。なんだろう……心が落ち着くのが分かる。


「スズカ、ありがとう」


「落ち着いた? 」


「もう大丈夫」


 状況は何も変わらないが、スズカのおかげで気持ちは晴れた。俯いてても仕方ない。先ずは前を向こう。



 拠点へと戻るとサスケとライラが帰ってきていた。


「早いな、何かあったのか? 」


「ソラ様! 実は……」


 サスケ達は焦った様子だった。いつも冷静な2人には珍しい。


「実は森を抜けた先の平原にここと同じ様な木で囲まれた拠点がありました。中は闘技場の様で… …」


「どうしたの? 」


「実はそこでは神子とモンスター達が見世物の様に戦ったいました。神子達は死ぬまで永遠と戦わされていました」


「ひどい……」


 スズカの顔は青ざめている。俺は逆に怒りを抑えるので必死だった。


「もしかするとそこの奴らにタイチ達は捕まったのかもしれない」


「タイチさんが!? 」


「ライラ、タイチ達はそこにいなかった? 」


「いえ……でも何人かの集団で定期的にこの森に出向いている様でした。その集団と会ってしまったのかもしれません」


 おそらく間違いないだろう。その集団は偵察隊なのか、もしそうだとしたらこの拠点はすぐに見つかってしまうだろう。


「みんな、聞いてくれ」


「わかってる。タイチ達を助けに行くんでしょ? 」


「ああ、だけどここの守りも残さないと。サスケ、ライラ一緒に来てくれ」


「わかりました」


「それからドリューとスイムも来てくれるか? 」


「2人を連れて行くの? 」


 スズカは心配そうにこちらをみていた。2人は戦闘経験はない。心配するのも無理はない。


「2人の力が必要なんだ。2人ともやれるか? 」


「任せて! 」


 みんなを連れて急ぎ拠点へと向かう。この森も出るのは初めてのことだ。こんな形で出るとは思いもしなかった。


 サスケ達の案内に従って森の出口へとやってくる。あたりは一面の平原で障害は何もない。奥の方にはサスケ達が言った通り建物が建っていた。


「このままだと丸見えになってしまう。とりあえず夜までは様子を見よう」


「わかった」


 森の方へと一度戻り、夜まで身を隠す。拠点の方からは誰一人出てこない。さらには何の音も聞こえなかった。


(誰もいないわけはないよな……確実に罠だろう。だけど行くしかない)


 辺りが暗くなり平原に闇が訪れた。俺たちはゆっくりと拠点へと近づく。俺とスイム、サスケとドリュー、スズカとライラのチームに分かれて各々侵入を試みる。

 最悪誰かが捕まった場合は、拠点へと戻って助けを呼ぶ手はずだ。


「スイム、俺が捕まったらすぐに逃げるんだぞ。スイムの体なら隙間からうまく流れるだろう」


「わかった! すぐに助けを呼んでくればいいんだよね! 」


「いい子だよ、その通り」


 俺はスイムを撫でてあげた。プニプニのボディがぷるぷる揺れていた。スイムは俺の肩になり一緒に進んでいく。


 拠点の中に進むとそこには部屋などはなく、広い闘技場と周りの高台には観戦席みたいなものがあった。観戦席の下にはありの様なものが見える。


「ソラ、逃げて! 」


「チエ、無事か!? 」


 声の主はチエだった。檻の中に入れられ、手錠までされていた。さらに俺の中には沢山のモンスターが捕らえられていた。


「俺の闘技場によく来たな! 」


「誰だ! 」


「俺のテリトリーに入ってきて誰だとは無礼なやつだ」


 上の観戦席を見上げるとガイルよりも大きなオークが玉座のようなところに座っていた。


「まあ、おかげで楽しい余興ができるんだ。今日は許してやろう」


「お前達はなんなんだ! みんなを解放しろ!」


「お前にはこれから俺に従ってもらう。もちろん断ることは出来ないはずだ。なぜなら……」


 そういうと、手下のオーク達が現れた。どうやら周りを囲まれているみたいだ。

 ふと先ほどまで喋っていたオークの奥を見る。するとライラが磔にされていたのだ。


「ライラ! 」


「動くんじゃねぇ! こいつらがどうなってもいいのか! 」


 そういうとオークは鎖を引っ張り出した。鎖の先にはなんとスズカが首輪をつけられて捕まっていた。


「お前……何をしてるのかわかってるのか……?」


「ソラ……」


 オークはスズカに付いている鎖を引っ張りスズカを引き寄せる。さらにはスズカを大きな舌で舐め笑い声を上げている。


(あいつ……殺してやる……)


 俺は自分でも驚くほど自分の心が静かになっていくのがわかった。怒りは頂点なはずなのに頭は冴えわたっている。俺の中にある考えはひとつだけ。


 ――やつをコロス


 俺の殺気に気がついたのか、オーク達はビビっているようだった。


「う、うるさい! お前は黙ってこのオークキングであるゴング様に従えばいいんだ。さあこいつらと戦え! 」


 すると、奥の方の檻が開き、中から大量の狼が出てきた。俺はすかさず魔法を展開してあっという間に狼達を消し炭にした。なんの躊躇もなかった。


「お、おい、お前ら! 次はあいつだ! 」


「わ、わかりました! 」


 オーク達は焦ったように動き出す。

 俺は足に力を溜め、全速力でゴングの元へと突撃した。するとその突撃は何者かの攻撃によって止められた。


「邪魔をするんじゃねぇ」


「悪いなソラ、ここを通すわけにはいかないんだ」


「タイチ、お前……」


 そこには大剣を抱えたタイチが立っていた。先程邪魔したのはタイチだったのだ。無事なタイチを見て俺の怒りは一度収まった。


「よかった……」


「ソラ、悪いけどお前には死んでもらう」


「おい、何言ってるんだよ。もしかしてチエが捕まってるから仕方なく戦うのか? なら二人で協力すればいいだろう! 」


 タイチを説得するが聞く耳を持たない。タイチは何も言わなくなり無言で大剣を構え出した。

 俺はどうしたらいいんだ…… 

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