第16話 慌ただしい日々
あれこれと考えを巡らせていると、暗闇の奥から明かりが近づいてきた。どうやら気づけば日が暮れていたようだ。
「ソラ、お前か? 」
「タイチ、今までどこいってたんだ? 」
「あいつらの後を誰か思ってこないかと思ってガイルと見回りしたきたんだ」
確かにその可能性もある。だがその心配をタイチが解決してくれた。
どうやら色々と焦ってしまっているようだ。ルシフェルの話では今すぐに何か起きることはないだろう。一度落ち着いてやるべきことを考えよう。
「そういえばタイチ、ガイル、みんなを見たらびっくりするぞ! 」
「みんな進化できたのか!? 」
「ああ! それにガイル、リタの変わりっぷりは驚くぞ?」
二人を連れて、みんなの場所へと戻る。すると子供達は安心しきって眠っていた。
「みんなおかえり! 」
「タイチ兄、ただいま! 」
「お前ゴクウ!? カッコいいな!」
「タイチお兄ちゃん、私は? 」
「ソーカも綺麗になってる! 」
タイチとゴクウとソーカは楽しそうに話していた。チエも加わり盛り上がっている。
「サスケとライラもカッコよくなってるね」
「ありがとうございます、スズカ様」
「スズカ姉さん、ありがとう」
スズカもサスケやライラの変わりように驚いているようだった。しかし1番驚いている人物がいた。
「リタ……」
「ガイル、私どうかな……?」
「とても綺麗だ……」
ガイルの一言にリタは顔を赤くした。初対面の時とは逆にガイルの方が一目惚れしてるかなようだった。
二人とも俯いて黙り込んでしまった。どうやら照れているようだ。
みんなの会話している光景を眺める。この幸せを壊しては行けない。
全員が寝静まった頃、俺は再度は一人になり、考えを巡らせる。さっきに比べて頭は冴え渡っていた。
(まずはここを要塞化して周りを囲おう。それから高台を作って空からにも備えよう。後はみんなの家だ。要塞といっても住み心地を悪くすれば安心して休むことは出来ない)
第一は要塞化を進めよう。漫画なんかでよく見るものならなんとか作れるだろう。問題は家だ。土を集めるのは時間がかかりすぎる。
木材なら大量にある。とにかく見よう見まねで作ってみよう。子供達にも手伝ってもらえばかなりのスピードで完成するだろう。
とにかく朝から作業を開始しよう。そう思いながら家へと帰る。家ではタイチがイビキをかいて寝ていた。
(俺もこれくらい気楽になれればなぁ)
ゆっくりとベットは横になり、目を閉じた。
翌朝、色々な事が起こっていた。
まず第一にルシフェルがいつのまにか居なくなっていたのだ。ルシフェルを最後に見た場所の近くの地面にメッセージが残っていた。
――ソラ様、みんなのことよろしくお願いします
どうやら待ちきれなくなり、夜のうちに出て行ってしまったらしい。
次に気がついたのはピート達の家からの眩しい光だ。もはや見慣れた光に胸を躍らせていた。
ピート達の子供が生まれたのだ。
「ピート、フウカおめでとう! 」
「可愛い男の子だね」
スズカも起きていたのか、光に気づいて来ていた。ピートとフウカの間には小学生くらいの男の子がいた。恥ずかしいのかフウカの後ろに隠れている。
(赤ちゃんではなく子供の姿で生まれてくるんだな……)
男の子はフード付きの青い毛皮で出来た服を身に纏っていた。少し内気な性格のように見えた。お母さんであるフウカかから離れようとしない。
「ピート、名前は決めてあるのか? 」
「フウカと一緒に決めてあるんだ! 」
「フウカ、どんな名前なの? 」
「この子の名前は、ガルル」
そう言いながらフウカはガルルをそっと抱きしめたい。ピートと優しく頭を撫でるとガルルは嬉しそうにしていた。
とても幸せそうな光景にスズカと2人で祝福した。
さらにめでたい事が起きていた。それはリタとガイルにも子供が出来ていたのだ。昨日の夜確かにガイルや様子がおかしかったがまさか子供が出来るとは……
(夜のうちに何があったんだ)
リタとガイルは以前までのもどかしい雰囲気ではなくラブラブなオーラをみにまとっていた。見るからに新婚夫婦そのものの幸せがストレートに伝わってくる。
「ガイル、リタ、良かったな」
「ありがとうございます、ソラ様」
「ソラ兄、この子の為にも私もっと頑張る」
めでたい事が立て続けに起こり、朝からとても幸せな気持ちになった。昨日の話がなければお祝いをして盛り上がっていたところだ。
(祝いたいけどまずは問題を解決してからだ)
朝から色々な事が起きたが、その事がより一層後押しをしてくれた。まずは昨日考えた通り家の周りを強化しよう。
起きてきたタイチとチエ、それにスズカに昨日考えた計画を説明した。
「要塞化か……確かにこの壁だけでは心配だしな」
「私も賛成、うまく出来るかわからないけどやってみよう」
タイチとスズカはすぐに納得してくれた。
「でも、要塞化って時間がかかるんじゃない? 早くルシフェル達を助けに行かないと……」
「チエの心配も分かるよ。 でもまずはここで寝ている子達を守らないと」
チエも渋々だが納得してくれた。
以前溜め込んだ木材を利用してまずは壁の強化を図った。見様見真似な分見た目は悪いが強度はそれなりにあるだろう。しかしガイルやゴクウ達にも手伝ってもらったが一箇所を強化するだけでかなりの時間がかかってしまった。
(このペースだと一ヶ月くらいはかかりそうだ)
しかしやるしかない。黙々と作業を行い要塞化を進める。 それと同時にある事を進める。
「サスケ、ライラ、ちょっといい? 」
「ソラ様、何がご用ですか? 」
「二人にお願いしたい事があるんだ。昨日の感じだとかなりの数の敵がいるだろう。だからこっちも仲間を増やしたいんだ」
「仲間と言いますとモンスターを増やすのですか? 」
「いや違う。この周辺でまだ捕まっていない神子達を探して昨日の話を伝えて欲しいんだ。中には手伝ってくれる神子があるかもしれない」
「なるほど、それなら私たちに任せて」
「ありがとう、ライラ。だけどこれはかなり危険なお願いだ。2人とも危ないと思ったらすぐに戻ってきてくれ」
「わかりました、では早速行って参ります」
そういうとサスケ達はすぐに準備を始め出発した。望みは薄いかもしれないが打てる手は打っておきたい。
2人を見送り、今度はドリューとスイムの元へと向かう。
「2人ともちょっといいか? 」
「なあに? 」
「2人には沢山の鉱石を集めてきて欲しいんだ。これから武器や防具が沢山必要になるかもしれない」
「わかった、僕に任せて! 」
ドリューは爪を研ぎながら自信満々な様子で答えてくれた。しかし2人きりでは危険だろう。
「ゴクウ、ソーカ、ちょうど良かった」
「ソラ兄さん、どうしたの」
「俺たちに何か用? 」
またソーカに注意されているゴクウを見つけ話しかける。
「2人にはドリュー達の護衛をお願いしたいんだ」
「なんだ、そんな事ならお安い御用だよ」
「私がしっかりと見張ります! 」
2人も進化をして大分頼もしくなった。ドリュー達を見送り、再度壁の強化へと赴く。するとそこではタイチとチエが喧嘩をしていた。
いつもの痴話喧嘩ではない。
「タイチはルシフェルが心配じゃないの? 」
「心配だけどまずはソラの言う通り、ここの守りを固めるのが先だろ! 」
「でもその間に何かあったら……それに他の神子達だった心配だし! 」
チエの言うことも正しい。そのためか隣で見ているスズカもどうすれば良いか分からず見守っていた。
「じゃお前には何か考えがあるのか? 」
「そんなのないけど、ボクは……」
「考えがないならわがまま言うなよ」
「わがままって……ボクはただ……タイチのバカ! 」
そういうと、チエはタイチを思いっきり蹴り飛ばした。タイチは漫画のように後ろへと飛んで行った。
チエはそのまま何処かへと走っていった。
「スズカ、チエのことお願い」
「任せて」
チエのことをスズカにお願いし、タイチの介抱をした。タイチの頑丈な体のおかげか、それほど外傷はない。
「さっきのはお前が悪いよ」
「ああ、わかってるよ。あいつは人一倍優しすぎるんだ。 俺が無理にでも言わないと無茶するからな」
「チエのことが心配か? 」
「そりゃそうだ。パートナーだからな」
「それだけの理由か? 」
真剣な顔でタイチに問いかける。
「俺には昔妹がいてな。気は強かったんだから体が弱くて寝たきりだったんだ。かなり重い病気だった。お金も大分かかるから俺も何か手伝うために一日中バイトしてさ……」
「もしかして妹さんは……」
「いや、なんとか手術を受けて命は助かった。でも大変な手術を乗り越えのに第一声がお兄ちゃん無理しないでって言われたんだ。あいつは自分よりも俺のことを心配してたんだ」
「優しい子なんだな」
「あぁ、あいつにチエが似ていてな……人に優しい分自分の事を考えてない様に思えて心配なんだ」
タイチはとても真剣に話してくれた。俺もタイチの言葉をしっかりと聞く。2人には2人の考えがあるんだ。これまで一方的に言っていたんだと反省した。
「俺あいつに謝ってくるよ」
「あぁ、頑張れよ」
タイチを見送り、俺は作業はと戻っていった。
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