第15話 来訪者
ふと辺りを見渡すと、洞窟のようだった。 チエに話を聞くと先程まで居た部屋に大きな扉があったらしい。 しかしどうやっても開かないため諦めてダンジョンの外へと出たらしいらしい。
当初の予定も達成したし充分な成果だ。
来た時は遠足の付き添いみたいだったが、今ではアニメなんかで見る冒険者のパーティのようだった。
「ライラ、またみんなの分の服を作ってくれる? 」
「もちろん! ソラ兄さんたちの服ってどれも面白いもの! 」
「じゃ私はもっと強い武器を作る! 」
ライラはどうやら俺たちの服に興味を持ったらしい。この前もスズカやチエに服のことを色々と質問して構想を練っているらしい。
リタもみんなに意見を聞いて周り、必要なものや武器の改良などに勤しんでいる。
「ソラ兄、お腹すいたー、お肉食べたい」
「お肉はもうないかなぁ」
「なら俺と狩りの勝負をしないか、ゴクウ」
「いいね! 負けた方は皿洗いでどうだ、サスケ」
「乗った! 」
ゴクウとサスケは身体能力がモンスターの時と変わらない。 その能力は人型になっても変わらない。
「それじゃみんな、ウチへ帰ろうか」
「暴れ足りない……」
「チエ姉はだいぶ暴れてたよ」
「ゴクウ、黙りなさい」
チエがゴクウをにらめつけていた。このやり取りはタイチとの痴話喧嘩に似ていた。
(さすがタイチの子だな)
道中はモンスターに出会うことなく、スムースに帰宅することができた。
今回もダンジョンの核は壊さなかった。またあのダンジョンへ行くこともあるだろう。そう考えながら家とダンジョンを結ぶ道を思いつく。
(まだまだ先の話か……)
当初に比べれば仲間もだいぶ増えた。それに出来ることだって増えている。それでもまだまだやりたい事はたくさんある。まずは出来る事からやって行こう。
「ソラってたまにじっと黙り込んで何か考えてるよね」
「ソラ様、聞こえてないみたい」
サスケが俺の肩を叩いた事で、また黙り込んでいたことに気づく。あれこれ考え出すと自分の世界に入ってしまうのは俺の悪い癖だ。
みんなと他愛のない会話をしながら、家の近くまでたどり着く。最早見慣れた風景になってきた。
しかしどうも様子がおかしい。 出かけた時には無かった足跡や周りの枝などが沢山折れている。大勢の何かがここを通ったようだ。
「何か嫌な予感がする、チエ、みんな急いで帰ろう! 」
「急にどうしたの!? 」
「説明は後! 」
チエ達を急かし、急いで家へと帰る。家に近づくにつれ不安が高まる。
(家の方向に続いている……スズカ! )
全速力で家まで走る。周りの枝や葉が引っかかり所々血が出ていた。しかしそんなこと気にしている余裕はない。
大勢の何かがスズカ達に迫っている。
肺は悲鳴をあげ、心臓の音が頭まで響いている。足がいうことを聞かず何回も転びそうになる。
(頼む、みんな無事でいてくれ! )
やっと門が見えてきた。門の前には沢山のモンスターが集まっていた。
「お前ら、そこで何してる! 」
「誰だ! 」
勢いよく刀を抜き、モンスター達へ切り込んだが1匹のモンスターに受け止められた。モンスターは白い羽根を生やし、三又の槍を持っている。
「そこをどけ! 」
「あなたこそ、彼らを傷つけるのは許さない! 」
刀を槍に滑らせ相手の手を習う。すかざす槍を回転して刀を弾く。
(こいつ強い……)
相手は距離を取ろうとしているようだが、俺はぴったりとついて離れない。
(槍相手に離れると面倒だ……この前ケリをつける! )
相手に休む隙間を与えず斬りかかる。相手は押され気味になったのか強引に槍を振り回し、俺との間合いを取り空へと飛び上がった。
(今だっ! )
すかさず魔法を起動する。相手は地上にいる俺にしか注意が向いていない。奴の頭上からありったけの雷を落とす。
「待って、ソラ! 」
「ソラ兄、落ち着いて! 」
スズカとピートの声にとっさに反応し、雷の軌道を変える。雷は近くの木へと落ちた。
「スズカ、ピート、無事か! 」
「なんともないよ、この子達は大丈夫」
「こいつらは一体……」
「驚かせて申し訳ありません」
先程までのモンスターがゆっくりと地上へと降りてきた。
「私の名前はルシフェルと言います。 この子達は私が保護したモンスター達です」
「保護? 」
「はい、あいつらに強制労働させられていたみんなをマスターの命で助け出しました」
あいつら? 強制労働?
色々聞きたいことがある。
「ソラ……早すぎ……」
「ソラ様、ご無事ですか? 」
遅れてチエやサスケ達がやってきた。全員息を切らし疲れ果てている。無我夢中で走っている間にみんなを置き去りにしていたようだ。
「みんな疲れてるみたいだし続きは中に入ってからにしない? 」
「確かに」
全力疾走の後、すぐに戦闘したせいか余計に疲れてしまった。
「ソラ 」
「何、スズカ? 」
「おかえりなさい」
「ただいま、スズカ」
全員で門の中へと進み中へと入る。冷静になってみてみると20人くらいはいそうだ。広めに壁を作っておいてよかった。
「それで、あいつらってなんのことだ? 」
「そうですね……少し長くなりますが聞いてください」
そういうと、ルシフェルはゆっくりと話し始めた。
「あちらに見える山を越えた先にはここと同じく深い森があります。私たちはそこの森から逃げてきました」
「逃げてきたって誰から? 」
「あなた方と同じ神子からです。あいつらは突如現れ私のマスターや一緒にいた仲間に襲いかかってきました。奴らの仲間は多くどうしようもありませんでした。マスター共々私たちは捕まってしまいました。
他の神子か……大勢ということは最初のボーナスタイムでかなり仲間を増やしていたのだろう。
「モンスターはどのくらいいたんだ? 」
「数は分かりません。 そのくらい多くいました。 それにモンスターだけではありません。」
「もしかして、他の神子も一緒に襲ってきたの? 」
スズカがルシフェルに問いかける。
「はい。 しかしどの方も男の方ばかりでした。 今までお会いした神子達は全て男女のペアだったはずです」
(そうだったのか……確かに俺たちも男女のペアだ)
「ってことはパートナーがどこかに隠れていたのか? 」
「それが違うのです。 隠れているのではなく、奴らに捕らえられているようなのです。奴らはパートナーを人質にし神子やその仲間達を従えているようなのです」
「そうか、俺たちはパートナーから離れられない。それを利用されたってことか……」
「それだけではありません。マスターからお聞きしたのですがパートナーが死ぬと捕らえている残りの片方を殺すそうです。そうすればまた生き返る」
「なんてひどいことを……」
スズカが顔に手をやり、震えだす。俺はそっと背中をさすり、スズカを落ち着かせる。
「本当に酷いことです。しかし奴らやその仲間達は強く従うしかありません」
「お前がそういうなら相当強いんだな」
「はい、私のマスターもそれなりに強かったのですが負けてしまいました」
「それでお前たちはどうなったんだ? 」
「捕まった後、私たちは奴らの城作りを命令されました。 逆らえばマスター達を殺すと脅されて……」
「でも、マスター達は不死身でしょ? なら残酷だけど見捨てるって手も……」
「マスターを裏切ることは出来ません! それに……」
チエの質問に対してルシフェルは黙り込んでしまった。何やら言いにくいことがあるようだ。
「無理して言わなくても大丈夫だぞ」
「いえ、マスターの最後の言葉かも知れません。 必ず他の神子に伝えるようにと言われました」
「神子に? 」
「実はあなた方は不死身ではないのです」
どうゆうことだ!? 不死身ではない?
しかし神達は確かにルールは絶対だと言っていた。
「すみません、正確には2人の共通の記憶がない状態で死ぬと生き返らないということなのです」
「どうして……」
「マスターも偶然知ったようでした。 目の前で生き返った神子に話しかけた時、パートナーのことを全く覚えてないようでした。 そのままもう一度死ぬとそのまま死体が消えてなくなったそうです」
信じられない。だがこいつが嘘を言っているようにも見えない。
「マスターは自分達の命をかけて私達を逃がしてくれました。一緒に働いていたみんなを連れ、ここまで逃げてきたのです」
「そうだったのか……これは他人事じゃないな……」
「ただ今すぐには何か起きる心配は大丈夫だと思います。奴らは当分城作りに追われているようです」
不幸中の幸いだ。それならこちらも対応する準備が出来る。
「ソラ様、無理を承知でお願いがあります」
「もしかして、こいつらの面倒か? それなら気にするな。ただ守れるかは分からないが……」
「そのお言葉で十分です。私はマスター達を助けるためもう一度戻ります」
「待って、1人じゃ危ないよ」
スズカは心配そうにルシフェルを制止する。しかしルシフェルの決意は固いようだ。
「ルシフェル、これは俺たち神子の問題でもある。協力させてくれ」
「ですが……」
「大丈夫、俺たちだって簡単にはやられないさ」
俺はみんなへと目をやる。みんなは各々の自信満々な顔で返してくれた。
「分かりました。でしたら私が戻って偵察を行います。皆さんはそれまで準備をお願い致します」
「わかった。 ただ念のために聞きたい。 奴らの城はどのくらいで出来そうだ? 」
「そうですね……今はまだ資材集めのようです。完全に完成するまでは何年もかかるでしょう」
「なんだ、なら今から行けばいいんじゃない? 」
「すぐには行けないよ、チエ。ゴクウ達もまだ進化したばかりだし、それにこの子達のこともある。 まずはこちらも守りを固めてから考えよう」
「それもそうか……」
「それでは私は……」
「待った」
飛び立とうとするルシフェルを引き止めた。明らかに疲れ切っているこいつをそのまま行かせるわけにはいかない。
「今日くらいは休んで行け、それにこいつらも急にこんなところに置いていかれたら心配するだろう」
ルシフェルが連れてきたモンスターはどれも生まれたての子供のようだ。ルシフェルを信頼しているようだが俺たち神子のことは怖いみたいだ。それだけ奴らは酷いことをしたいたんだろう。
「何から何まで……ありがとうございます! 」
「それじゃみんなご飯にしようか! 」
俺はスズカにお願いし全員分の料理を作ってもらった。スズカは腕によりをかけて沢山の料理を作ってくれた。
初めは疑って食べなかった子達もスズカの作った料理の匂いにつられ食べ始めた。
次第に子供達の暗い顔が晴れていった。先程までの暗い空気は一変し、全員が笑っていた。
今はとりあえず疲れを癒してもらおう。
みんなと少し離れた場所に移動し一人で考え込む。
(まずは守りを固めないと……あとはこいつらが住める家も……それから鍛冶場や畑もグレードアップしないと……)
あれこれとやるべき事が頭の中を駆け巡っていた。
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