第14話 それぞれの戦い

 休憩を終え、さらに奥へと進み出す。先ほどの部屋を隈なく探してみたが何も落ちてはいなかった。


 ゴクウが進化したことで当初の予定を少し変えることにした。ゴクウには戦闘を控えてもらい、代わりにチエを加えた。

 本当はみんなに頑張ってもらいたかったがチエが暴れたいと言い、駄々をこねたのだ。


(今回の目的、忘れてないよな)


 一抹の不安を感じたがしょうがない。


「じゃあ、みんなボクについてきて! 」


 コウモリがいた部屋を抜けるとそこにはまた通路が続いていた。少し歩いたが特に部屋のようなものはなかった。隠し扉がないか壁も調べながら進んだが特に何もなかった。

 さらに奥へと進めると階段が現れた。


(次の階層か……)


 やっぱり広くなっているみたいだ。RPGだと、下へ行けば敵も強く筈だ。それにお宝も!


 チエは恐れることなく階段を降りていく。カツンカツンとチエの靴音が響く。

 チエの足には蹴り技用に作った防具がつけられている。

 そのせいか、重そうに見えがそこはリタ製だ。俺の刀と同じ、軽い金属が混ぜてあるらしく思っているよりも軽いらしい。


 階段を降りた先には上の階層とは違った雰囲気だった。

 壁などは同じくレンガで作られているが所々に岩肌が露出している。そのせいか薄暗くなっていた。

 さらには、どこか冷たい空気が流れている。


「あれが出そうだな」


「ソラ兄、あれって何?」


「それはもちろんオバ……」


 突如として首の周りに何か纏わり付いてきた。まとわりついた何かは次第に俺の首を締めてきた。


(まずい……死ぬ……)


 首には得体の知れないもの、次第に薄れゆく意識、背中には柔らかな感触、鼻からはほのかにいい香りが………ん?


「ソラ、それ以上喋ったら……覚悟しなさい」


「は……はい」


 どうやら首を締めていたのはチエのようだった。怖いのが苦手なのだろう。さっきまでの勢いはなく、ずっと俺の背中にくっついて離れようとしない。


「薄暗いし気味が悪いね」


「足元も暗いし気をつけて進もう」


 サスケとライラが冷静に分析している。サスケは夜目がきくのか辺りの様子が分かるらしい。


「それじゃとりあえず進もうか、先頭はサスケにお願いするよ」


「わかりました、ソラ様」


 サスケに続き、通路を進んでいく。どこかに部屋があるわけではなく、どうやら迷路のようになっているようだ。曲がり角や行き止まりなんかが多い。


「ライラ、糸をだしてくれる? 」


「わかった、でもどうするのかサスケ? 」


「糸を垂らしながら進めば一度来た道がわかると思ってな」


 確かにこれだけの迷路だ。迷ったら一大事だ。


「そんなことしなくても大丈夫! 」


「どういうこと、リタ? 」


 リタの自信満々な様子を見て、ソーカが疑問に思ったようだ。


「迷路はこうやれば良いんだよ! 」


「リタ! 何するんだ!」


 サスケの制止も虚しく、リタは持っていた金槌で脆くなっている壁に大穴を開けた。


「まっすぐ進めばいつかどこかに着くよ! 」


「確かにそうだけど……」


 ソーカは呆れているようだった。しかし確かにこの方が早いことは間違いない。反則のような気もするがルールなんてないありはしないだろう。

 リタに壁を壊してもらいながら突き進む。 するとまた大きな空間へと行き着いた。


「この感じはボスが出てくるかな? 」


「そうかも知れない、ライラ気を引き締めて」


「わかったよ、サスケ」


 サスケとライラは辺りを警戒する。


「ソーカー、正解だったでしょ? 」


「わかったから、リタも周りを警戒して」


「はーい、ってあれは何だろう? 」


 リタが空間の奥の方に何かが落ちていることに気がついて走り出す。どうやら何か落ちているようだ。


「ソラ兄、何か拾っ……た……」


 リタの様子がおかしい。肩の力が抜けた様子で持っていた金槌を落とした。金槌が床に落ちた時鐘がなったような大きな音が響き渡った。


「リタ、何か拾ったのか? 」


「リタ、どうしたの? 」


 チエも心配そうにリタに語りかける。しかしリタは全く応答しない。様子がおかしい。

 すると、リタを中心に凄まじい冷気が部屋全体を駆け巡った。


「寒い! 」


「チエ大丈夫か!? 」


 明らかな異常事態に全員が身構える。

 リタはゆっくりと落ちた金槌を拾い上げこちらに近づいてきた。リタが近づくにつれて、その異常に気がついた。

 リタの真緑の目が真っ赤に変わってた。それにリタの背後に黒い影のようなものが見える。


「何かリタの背後にいるぞ! 」


「みんな気をつけて、くるよ! 」


 ソーカの合図で全員が一度下がる。しかし俺は身動きが取れずにいた。なぜならチエに抱きつかれていたからだ。


「で、で、で、出たぁぁぁぁ」


「チエ落ち着いて! 」


 チエが俺の顔面に着いたせいで、前が見えない。それどころか胸が顔に当たって息が苦しい。


「サスケ、ソーカ、リタを助けよう! 」


「まずはあの影を引き離さなきゃ」


「俺が時間を稼ぐから2人はリタの動きを止めて! 」


 サスケがリタと対峙する。 サスケよりもリタの方がレベルは上だろう。しかしリタがパワー系に対して、サスケはスピード系だ。

 リタの攻撃を難なくかわして、隙を作る。


「今だ、ライラ! 」


「リタ、ごめん! 」


 ライラの手から勢いよく大量の糸が飛び出した。みるみるうちに糸はリタを縛っていく。

 しかしリタは物ともせず、体を思いっきり後ろへと引っ張る。リタの体にまとわりついた糸とつながっていたせいで、ライラは宙へと浮き上がり、そのまま地面へと叩けつけられてしまった。


「つぅ……」


「ライラ、大丈夫か!? 」


「私に任せて! 」


 一瞬の隙をついて、ソーカがリタの背後へと回り込む。すぐさまリタの体を抑え込む。

 リタとソーカの体型さだ。軽々抑えられると思ったがリタの馬鹿力に立場は逆転していた。


「どうすれば……ソラ様……」


「んー! 」


 俺はチエに抱きつかれて、胸のやらかな感触が押し寄せる煩悩と窒息死するかも知れない恐怖と戦っていた。


(すまん、サスケ……)


 ゴクウも必死にチエを剥がそうとしてくれているが、チエの力が強すぎる。チエは完全に混乱して水の魔法を連発しだした。

 チエの周りに小さな魔法陣が大量に発現し、大量の水が空間全体に降り注いだ。叩きつけるような雨が部屋全体を覆いつくした。


 もちろんリタにも降り注いだが物ともせず、サスケへと向かって歩きだしていた。 しかし、異変が起きた。

 急にリタの動きが鈍くなったのだ。


「ライラ、今のみたか? 」


「うん、リタの腕についてる腕輪に水が当たった時、影が苦しそうにしてた」


「もしかするとあれが本体なのかも……」


 サスケとライラは目を合わせ頷いた。ソーカも気づいた様子だ。


「もう一度さっきの感じで動きを止めよう! 」


「今度は大丈夫! 」


 先程と同じく、サスケがリタを翻弄する。相手は苛立ち出したのか、手当たり次第に金槌を振り回し始めた。


「今だよ、ライラ」


「うん! 」


 一瞬の隙をついて、ライラが糸で拘束する。先程同様に対処しようとしたリタの動きが止まった。

 ソーカがライラの体を抑え込んでいたのだ。


「1人でダメなら2人で抑え込む! 」


「今だよ、サスケ! 」


 サスケの放った鋼鉄の羽はリタが身につけている腕輪を的確に射抜いた。そしてそのまま腕輪は壊れてしまった。

 と、同時にリタの背後にいた影は霧散していった。


「ん……」


「よかった、リタも無事そうだよ」


「ライラとも平気? 」


「大丈夫、ソーカは? 」


「私は平気だよ! 」


 3人は格上であるはずのリタに協力して勝っていた。3人の連携は見事なもので3人とも確かな手応えを感じていた。


「チエ姉、もういなくなったよ! 」


「んーん!」


(頼む! 助けてくれ! )


 俺はサスケたちにアイコンタクトを送り、救援要請をした。しかし、救援は間に合わず、俺は意識を失った。




 どれくらいたっただろうか。冷たい風が吹き付けたせいで目がさめる。


(ここはどこだろう……)


 辺りを見渡すとそこには見慣れない人達がいた。


「ソラ様、大丈夫ですか? 」


 黒髪のイケメンがこちらを見ている。


「チエ姉のせいだよ」


「まあまあ、無事だったからよかったでしょ? 」


 金槌も抱えた大人な女性とくノ一のような姿の美少女が話している。


「ソラ、ごめんなさい」


「ソラさん、チエ姉を許してあげて? 」


 チエと姉御肌を感じさせる女性から話しかけてきた。


「どちら様ですか? 」


「もしかして記憶が! 」


「違うよ、チエ姉。 私たちの姿が変わったから分からないだけだと思う」


「もしかして君はソーカか? 」


 姉御肌を感じさせる目の前の女性はソーカが進化した姿だった。チエに似てすらっとした脚と短い黄色の髪をしている。


「私はわかるかな? 」


「もしかして、ライラ? 」


 ライラは少し小柄な女性だか何と表現すればいいだろう。一言で言えば妖艶な雰囲気を醸し出していた。


「俺はサスケです」


「ああ、イケメンすぎるぞ」


 落ち着いた雰囲気のイケメンは反則だ。メガネをかければたちまち優等生と言った知性があふれ出ていた。


「そうなるとこの大人の女性はリタか!? 」


「そうだよ、何か問題でも? 」


 あんなに幼い見た目だったリタは今や完全なる大人の女性へと成長していた。スーツなんかがとてもよく似合うだろう。


「みんなすごいな……」


「みんないっぺんに変わった時はびっくりしたよ! 」


「そうなのか、ところでチエ。 俺はなんで気絶していたんだ? 」


 この空間に入ってからの記憶が乏しい。何か死ぬような体験をしたのは間違いないのだから微かにしか思い出せない。

 チエに聞いても首を横に振るだけで答えてくれない。みんなに視線を向けても同様の反応が返ってきた。


「何だろう……とても怖い思いをした気がする。 でも同時に幸せだったような……確か柔らかな感触といい香りが……」


「忘れなさい! 」


 チエの鋭い一撃が俺のみぞおちへとめり込んだ。理不尽な一撃に苦しみながら、再び俺は意識を飛ばしてしまった……




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