第13話 進化への道

 ピート達の子供はまだ孵りそうにない。

 それにしてもこの拠点も大分賑やかになった。


 タイチとチエの痴話喧嘩、リタによる武器を鍛える音、スズカとガイルの料理する音、色々な音が聞こえてくる。


(平和だなぁ)


 よく異世界転生ものの小説なんかは一杯あるけど、ここまでゆったりするのってなかなか無いと思う。


(まあ、戦うだけがRPGじゃないよね)


 実際、この世界で俺たちは生きているんだ。

 まずは生き抜くことを優先しよう。


「まてよ……」


 ふと思った。他の神子たちはどうやって生活しているんだろう?

 タイチ達みたいに冒険しながら旅をしているのだろうか。それとも、俺たちみたいに一箇所に拠点を構えているんだろうか。


「他の人にもあってみたいな」


「他の人って? 」


 後ろからの不意な一言に思わずびっくりしてしまった。


「ごめんね、ソラ」


「大丈夫だよ、スズカ」


「他の人って、他の神子たちのこと?」


「うん、他の神子たちはどうしてるのかなって」


 スズカも考え込んでいるようだ。実際は会ってみないとわからないだろう。


「私たちはたまたまソラが色んな知識を持っていたからこうしてるわけじゃない?」


「うん、タイチ達みたいになにも知らなければやっぱり旅をしているのかなって」


「やっぱりRPGだし色んな所に行きたいじゃない? 実際私もそうだし……」


 スズカもやっぱりそうか。俺もそろそろこの森以外にも行ってみたいと思っていた。

 しかし、色々と不安がある。


「やっぱり、他のところに行くとしてもみんなのレベルアップは必要か……」


「ソラってレベリング頑張る人? 」


「割と好きかな? 」


 なんと言ってもレベルを上げて、ボスに対して無双する。色んなスタイルはあると思うけど、俺はこれが1番だ。


「よし、決めた! まずはみんなのレベルアップだ!」


「だとしたらまずは誰から? 」


「やっぱり、進化していない子達だな」


「進化が目標? 」


「そうだね、進化すると大分強さが上がるみたいだし!」


 進化していないのは、ゴクウ、リタ、ソーカ、サスケ、ライラ、ドリュー、スイムだ。

 ゴクウはこの前のダンジョンのおかげでかなりレベルが高い。リタ達もそこそこ強くなっている。

 ドリューとスイムはまだ戦闘経験がないし、少しずつ育てていこう。



「みんな聞いてくれ」


「どうした? ソラ」


「そろそろこの森以外の所にも行ってみたくてね」


 さっきスズカと話した内容をタイチ達に提案した。 するとタイチ達も賛成してくれた。


「でも具体的にはどうするの?」


「やっぱりまずはこの前のダンジョンかな」


「そういうそろそろ中のモンスターが復活したかもって、リタが言ってた」


 どうやら、ダンジョンの核を壊さない限りダンジョンは無くならないそうだ。この前行った時は核みたいなものは見つけられなかった。

 さらには、放っておくとダンジョンは次第に大きくなるらしい。


「なら、みんなを連れて早速行ってみよう! 」


 今回のメンバーは暴れたいと駄々をこねたチエを連れてくことにした。

 他のメンバーは進化してないメンバーで戦闘経験があるものだ。


「それにしてもソラが拾ってきた本すごかったね! 」


「まさか俺とチエにも魔法が使えるとはね」


 本はチエが読むことができた。どうやら水を操ることが出来るようだ。俺の方はというと電気を操ることが出来るようになった。

 タイチから「人間発電機じゃん!」と笑われた時はむかっとした。

 もちろん、ありったけの電気をお見舞いしてやった。


「ソラ様すごかった」


「サスケも進化すればもしかしたら使えるようになるかもね」


「俺はもう炎を出せるけどね! 」


 そういうとゴクウはまた火の玉でお手玉を始めた。


「危ない、気をつけてゴクウ」


「ごめん、ソーカ……」


「私は色んな糸が出せる! 」


「私はみんなの武器を鍛える! 」


 みんなそれぞれの個性がある。だからこそ助け合っている。


 それにしても、リタが作った武器はすごい。

 チエの手足甲、ゴクウの棍、サスケの小刀どれもすごい物ばかりだ。

 それにスイとライラはそれぞれ自慢の爪と糸がある。


「私はガイルとお揃いのハンマー! 」


 本当にリタはガイルが好きなんだな。ガイルのやつも素直になればいいのに。


「よく見るとそれぞれが良い関係に見えるね」


「そうか? 」


「例えばゴクウとソーカ」


「あの2人が? 」


「おっちょこちょいのゴクウをしっかりもののソーカが引っ張ってる感じ」


「たしかに言われてみれば……」


「サスケとライラも落ち着いた感じだけど、どっちもお互いを意識してるみたい」


「確かに2人はたまに目があっては逸らしてるような……」


「それに、ソラとスズカもね!」


 俺とスズカが? 確かにスズカのことは大事だ。

 好きかと聞かれれば確実に好きだ。


 でもまだそういう関係になれるとは思わない。もっと時間をかけてゆっくりと……


「ソラって意外と……いやなんでもない! 」


「それよりもそっちもなんだかんだで良い関係でしょ? 」


「冗談でもやめて! 確かに始めこの世界に来た時怖くて震えてるボクを心配してくれたけど……」


「けど? 」


 チエは少し顔を赤くしていた。 あれ?意外と本気なんじゃないか?


(今からかうのは違うな……)



 そうこうしている間にこの前のダンジョンへと到着した。見た目は何も変わっていないように見えるが中はどうだろう。


「それじゃあみんな俺たちは極力手を出さない。 君たちでダンジョンを攻略するんだ」


「どうして? 」


 ゴクウが不思議そうに質問してきた。今回の目的はあくまでゴクウ達のレベルアップと戦闘訓練だ。


「今回の目的はみんなのレベルアップだ。 だからみんなだけで頑張って欲しいんだ」


「わかった!」


 俺とチエはそこそこ戦闘は経験してきた。

 しかし、ソーカやリタを含め戦闘経験がまだ少ない子もいる。まずはみんなに任せてみよう。

  チエが後ろでブーブー文句を言っているが無視することにしよう。


 まずは1階層だ。部屋は変わらず2つある。

 右の部屋には前と同じモンスターがいるが数が違う。


「三体もいる。 さてみんなどうする?」


「素早さのある俺とサスケで敵を翻弄するから、ライラ動きを封じてくれる?」


「わかった! 任せてゴクウ!」


「ソーカとリタは動かなくなった相手にトドメを刺してくれ。 一体ずつ確実に!」


「任せて!」


 (ゴクウがリーダーなのか……意外だが正確な指示だ)


 まずは作戦通りゴクウ達が三体の注意をひいている。

 2人はとても素早い動きで、動き回っている。


(早いな、モンスター達全然追いつけてないぞ)


 モンスターも爪などで応戦するが全く当たらない。


 少しヒヤヒヤするが、全ての攻撃をかわしている。

 俺とチエは心配そうにみているがリタ達はゴクウ達を信頼しているようだ。


 あれ? ソーカとライラがちょっと前かがりになってる。

 あれじゃゴクウ達の邪魔になってしまう。


(どうしたんだ? )


「やっぱり2人が心配なんじゃない? 」


「確かに、2人はなんか落ち着かないな」


 2人はなんとか堪えているようだ。 ゴクウ達のおかげでモンスターが部屋の真ん中に固まっていった。


 待ってましたと言わんばかりに、ライラが糸で拘束する。すかさず、ソーカとリタでトドメを刺す。


 一か所に固まっていたおかげで同時に動きを拘束することが出来たようだ。残り二体もあっさりと倒してしまった。



「お疲れ様、サスケ」


「ライラもお疲れ様」


「ゴクウ! あんたさっきサスケの邪魔したでしょ! 」


「そんなことないって! あれは……」


「マスター、疲れた」


 みんな本気によくやった。こうしてみると子供の遠足に付き添いする保育士の気分になってくる。遠足先がダンジョンなんてあり得ないけど……


 このまま次の部屋へと進む。スライムなんかいなかったみたいにあっという間に片付けてしまった。


(この下は例のボスがいる部屋か……それとももっと広くなっているのか)


「この下はとりあえず真っ直ぐ進もう、前にタイチ兄たちときた時は他の道にモンスターはいなかった!」


「そうなんだ……わかったよ」


 ゴクウを先頭に前へと進んでいく。度々ソーカからの小言を受けながらもしっかりとリーダーの役割を果たしている。

 サスケとライラも口数は少ないがしっかりとしんがりを務めている。


「あれ? 前と違う」


「本当にこの道で合ってるの?」


「間違いないよ! ねっ、チエ姉ちゃん」


 確かにここがボス部屋でまちがいないはず。しかし大きな扉ではなく普通の木で出来た小さな扉しかない。


(やっぱり、構造が変わっている)


「とりあえず、慎重に進んでみないか? 」


「サスケの言う通りだね」


 ゴクウ達は扉をゆっくりと開ける。ギィーという音とともに、真っ暗な空間が広がる。

 意外と広い空間のようだ。壁は先程までのレンガ造りではなくただの岩肌が姿をみせている。

 ダンジョンというよりは洞窟のようだ。


「この部屋暗いね、今灯をつけるね」


「待って、ゴクウ! 」


 ソーカの警告は間に合わなかった。

 ゴクウの炎によって照らされた部屋の天井を黒い何かが覆い尽くす。


「コウモリだ! 」


「ライラ、危ない!」


 コウモリはライラ目掛けて何かを吐き出した。サスケが咄嗟にライラに覆い被さりその何かを一身に受ける。

 どうやら毒のようだ。サスケが苦しそうにすている。


「サスケ、大丈夫!? ごめんなさい……私のせいで……」


「ライラ心配は後だ! リタとライラでサスケを守って! 」


「任せて! 」


「ソーカ、いけるよね! 」


「もちろん! 」


 どうやらゴクウとソーカの2人で挑むようだ。


「あの毒にだけは気をつけて!」


「まずはあいつを引きずり落とす!」


 2人とも近距離武器しかない。

 さて、どうする。


「ソラ兄、お願い! 魔法であいつを落として!」


「私からもお願いします! 」


 2人とも、ちゃんと状況判断ができてる。


「ああ! 任せろ!」


 俺も魔法を使ってみたかったし、ちょうどいい。


 手のひらの間で電気を起こすイメージをする。

 そこから腕全体へと電気を纏わせる。すると俺の後ろに魔法陣が現れた。イメージ通りに腕に電気が溜まっていく。

 俺の腕の周りで眩い閃光とバチバチと電気が踊っている。


(サスケの羽を使わせて貰うぞ! )


 サスケの羽は鉄のようなものだ。それを腕の間にセットする。その羽をレールガンの要領で勢いよく撃ち出す。


 部屋中に轟音が響き渡った。肝心の羽はというとコウモリに見事に命中……せずに空を切った。


(やばい……外した!? )


 しかし、轟音のせいかコウモリは羽をバタつかせながら地面へと落ちてきた。どうやら大きな音が効いたみたいだ。


「さすがソラ兄! 後は任せて!」


(違うんだ、違うけどまあいいか)


「途中まではかっこよかったんだけどなー」


 チエの一言に顔が真っ赤になる。

 次こそは!



「ソーカ! 」


「ゴクウ! 」


 ゴクウの棍でモンスターを叩きつけ、すかさずソーカの爪で引っ掻く。 モンスターも負けじと翼で応戦する。


 ゴクウは棍をうまく使い、上へ飛び翼を避ける。ゴクウに気を取られた隙にソーカが一気に距離を詰める。


 ソーカの鋭い一撃が相手の目を潰す。直後、上空からのゴクウの渾身の一撃が突き刺さる。


「トドメだよ、ソーカ!」


 すると、ゴクウとソーカの前に魔法陣が現れる。


「いっけぇぇぇ」


 2人の魔法陣は1つの大きな魔法陣となり、そこから大きな炎が吹き荒れる。

 凄まじい炎によって、部屋全体が真昼のように明るくなる。


「すごっ……」


 2人の炎はあっという間にモンスターを焼き尽くした。

 後には何も残っていない。


「おつかれさん、ソーカ! 」


「ゴクウもね! 」


「2人ともすごい! 」


「ありがとう、リタ! それよりもサスケは?」


「大丈夫。 スイムが作ってくれた薬と私の糸で応急処置はしたから」


 全員無事のようだ。サスケも大した怪我はしていないようだ。


「よし、みんな。 とりあえずここで休憩にしよう!」


 みんなに声をかけて、一度部屋の外へと出た。

 暗い中では何が起こるかわからない。


 扉を開け、さっき進んできた通路へと戻る。すると急にゴクウが苦しみだした。


「体が熱い!」


 これは進化だ! しかし意味でのように光り輝くのではなくゴクウは炎に包まれた。


「これ大丈夫なのか!?」


 心配していると炎の中から背の低い人が出てきた。

 猿の尻尾と上半身は裸で、髪はオレンジ色の派手な格好だ。それは紛れもなくゴクウが進化した姿だった。


「ゴクウ、おめでとう! 」


「かっこいいよ、ゴクウ! 」


「ありがとう! ソラ兄、チエ姉ちゃん!」


 やはり当初の考え通り、レベルが100になると進化するようだ。タイチに事前に聞いていた時は98だった。

 おそらくと思って見ていたが、タイミング的に間違いないだろう。


(100で進化なら他のみんなももう少しか)


 神子のブーストのせいか、それとも最近の強敵との戦闘のせいかみんなレベルが上がるのが早い。


(俺たちなんてまだレベル1だけどね……もしかするとこのスピードが普通なのか? )


 今のが中ボスだとしたら、今回のダンジョンでみんな進化することができるだろう。

 期待を込めながら今はみんなをしっかりと休ませることにした。

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