第12話 2人の関係

 ゴブリンの拠点を後にし、湖へと戻る。

 湖に戻ると初日に出会ったあの魚が山積みとなっていた。


「もしかしてこれ全部サスケとライラが? 」


「うん、2人とも凄かったよ」


「今日の夕飯は豪華になりそうだ! 」


 予想外の収穫に驚きつつ大量の魚達を持って、家へと戻る。

 家へ帰ると既にタイチたちが戻って来ていた。


「お帰り、遅かったな!」


「色々あってね、そっちはどうだった?」


「予定通りだよ! ほらお前たち!」


 するとタイチの後ろから小さなモンスターが姿を現した。


「こんにちは、ドリューと言います」


「私はスイムです」


 ドリューとスイムは見た目からして、モグラとスライムそのままだ。

 違うとすればドリューが二足歩行なくらいか……


「こっちはサスケとライラだ。 よろしくな!」


「それと色々見つけてきたぞ!


 タイチが指差す方向をみると大量の石が積み上げられていた。


「これは? 」


「ドリューを探してる時にまた洞窟みたいなのを見つけたな! その中でドリューが掘ってくれたんだ!」


「すごいな……」


「あとはこれだな! 回復薬!」


 そういうと水筒にいっぱいに入った青い液体を差し出してきた。どうやらスイムは材料を取り込めば体の中で色々な薬を作れるみたいだ。


「2人ともすごいな! 」


「それでそっちもなんか見つけたか?」


「こっちも予定通り仲間ができたよ、サスケとライラだ」


 2人を紹介し、挨拶を済ませた。ドリュー達ともすぐに意気投合したみたいで安心した。


「ソラ達は何か見つけなかったのか? 」


「大量の魚と後は何かの本と巻物を見つけたよ」


 そう言いながら先程拾ったものをタイチ達に見せる。


「それってもしかして魔法覚えられるんじゃないか!? 」


「そう思ってね。 まだ中は見てないよ」


「そういえば、チエとフウカは?」


 スズカの声で思い出した。出発前にフウカのことをチエに任せていたんだった。

 俺たちの声に気づいたのか、チエはピート達の家からゆっくりと出てきた。


「スズカ……ちょっとこっちきて」


「どうしたのチエ? 」


 チエの顔はいつになく真剣だ。


「俺たちも……」


「あんた達は来なくていい!」


 チエの一言に圧倒され動けなかった。なんだろう……気になるがここは言う通りにしよう。



 とにかくやれることをやろう。まずは取ってきた魚の調理をしよう。たまには自分でも調理しようと思い、たき火の前へと座り込む。

 大体は焼くとして、他のは天日干しにして日保ちさせよう。網を木にくくり付けその上に魚を切って並べておく。 これで大丈夫だろう。


 次は鉱石だな。


「リタ、居るか?」


 リタの家に入るとそこにはリタに引っ付かれて困っているガイルがいた。その光景はパパに抱きついて困らせてる子供とまんざらでもないパパの光景そのものだった。


「ソラ様、助けてください……」


「ガイルがもっとカッコよくなった!」


 完全に目がハート状態だった。ゲームでいうと魅了と出るだろう。


「それはわかるがリタちょっといいか? 」


「いや!」


「ならガイルも一緒に来てくれ」


 ガイルに引っ付いたリタを連れて鉱石の山へと連れて行く。


「こんなに一杯どうしたの? 」


「新しく仲間になったドリューが集めてくれたんだ。 これで色々なものを作ってみてくれ」


「わかった! 何作ろうかな……」


 ガイルから離れ、リタは鉱石を手に取り考え始めた。


「今のうちに逃げとけ」


「ありがとうございます」


 ガイルは気づかれないようにその場から逃げ出した。ガイルも嫌いなわけじゃなく、ただ照れているだけなんだろう。


 用も済ませて、やることがなくなってしまった。のんびりしようかと思ったがさっきのことが木になる。

 スズカ達の元へと戻るとしよう。


(そろそろ大丈夫か? )

 

 ゆっくりとピート達の家に入りスズカ達に声をかける。


「チエ、スズカ」


「ソラ、あのね……」


「スズカ!」


 スズカが何か喋ろうとした時、チエが焦ってそれを制止した。


「ソラなら大丈夫、あのねどうやらフウカはピートに恋してしまったらしいの」


「このところピートの事ばかり考えてるみたい。 ピートに嫌われたくなくて言えないみたいなの……」


 それで元気がなかったのか……

 詳しく聞いてみると、告白したいけど今の関係が壊れるんじゃないかと心配してどうしようもなくなっているらしい。


(ここは親として一肌脱ぐか!)


「ソラ! 余計なことはしないでね!」


 チエに心の中を読まれてしまった。チエは意外と勘がいい。


「でも、チエ。 何か出来ないかな?」


「これは私の問題だから……」


 フウカがそっと呟く。

 チエとフウカには止められたがそれでも何かしてあげたい。何かないか。


「そうだ! ならピートがどう思っているか試してみよう!」


「どうやって?」


「フウカとピートでデートするんだよ! もちろんフウカは思いっきりオシャレしてね!」


 完全な思いつきだった。


「でもオシャレって?」


「リタやライラに頼んで服やアクセサリーを作ってもらうんだ」


 2人も女の子だ。少なくとも俺よりはフウカの気持ちがわかるだらう。


「でもピートにわかるかな……」


「ものは試しだよ! それでフウカに見惚れるようならピートもフウカのことが好きだよ!」


 スズカの心配はもっともだ。見た目は成長したが中身は完全に子供のピートだ。正直うまくいく自信はない。

 しかし、何かのキッカケにはなるだろう。このままではいつかフウカが倒れてしまう。


 スズカ達もそこの辺は察してくれたみたいだ。


「フウカ、ピートが好きなら頑張ってみない? 」


「私たちも協力するよ」


「私……頑張ってみる! だからお姉ちゃん達、協力してくれる……?」


 可愛いフウカのためだ! 全力で応援しよう!



 早速、リタとライラもよんで作戦を練る。 デートの場所はもちろんこの前見つけた花畑だ。


 服はどうしよう。正直俺にはそんなセンスがないから女子達に任せる。

 フウカ達は進化した時に身につけている服しか身につけたことがない。


 やはりエルフといえば高貴なイメージだ。

 フウカはスタイルもいいし、どんな服も似合うだろう。


 それにチエのような活発な感じでなくどちらかといえばスズカのクールなイメージが近い。


 しかし、ピートは子供みたいなやつだ。スズカみたいな大人の雰囲気は理解できるだろうか。

 いや、とりあえずやってみよう。



 いくつかの服をライラとスズカで作ってみた。 どれもフウカに似合っている。


「フウカ、綺麗……」


「こんな服、私にはもったいない……」


「そんなことはないよ、フウカ! ほら、ソラも何か言って!」


 正直、言葉に出来ないくらいフウカは綺麗だった。


「あぁ、見惚れるくらい綺麗だよ。 これならピートも間違いなく見惚れるよ」


「ありがとう、ソラお兄ちゃん」


 本当にお世辞抜きでも綺麗だ。

 少しクールな感じだが、どこか少女のような幼い感じがいい。

 リタに作ってもらったネックレスを身につけて準備万端だ。


「よし、これで大丈夫! フウカ綺麗だよ!」


「ありがとう、チエお姉ちゃん」


「頑張ってね、フウカ」


「ありがとう、スズカお姉ちゃん」


  「じゃあ俺はピートを例の場所に呼んでくるよ」


 2人にはうまくいってほしい。



 フウカを例の場所に待たせて俺たちは近くの草むらへと隠れる。


「ちょっと、変なとこ触らないで! 」


「だって狭いんだって」


「ソラ、どこ触ってるの」


「ごめん、スズカ」


 無理に隠れたせいで3人がすし詰め状態だった。


「おい、きたぞ!」



「フウカ! 用ってな……」


 ピートはフウカの姿を見て言葉を無くした。


(うまくいったか……)


「フウカ、なんかいつもと違うね!」


「うん……お姉ちゃん達が作ってくれたの」


「なんかお姉ちゃん達みたいで綺麗だ! 」


「ありがとう……あのね、今日は2人で……」


「どうしたのフウカ? 聞こえないよ?」


(頑張れ、フウカ!)


 横にいる2人もじっとフウカたちを見つめる。


「今日は私と2人で一緒にいてほしいの! 」


「? いーよ! 何して遊ぶ?? 」


(ピートのやつ分かってないな……失敗か?)


「ピート……あの子やっぱりまだ子供ね」


「甘やかしすぎたかな…」


 2人が残念そうにボヤいている。どうやら2人も同意見らしい。

 ふとフウカをみると今にも泣き出しそうになっている。


 必死で怖いのを我慢してるんだな。元々内気な子だったんだ。

 そんな子が勇気を出して告白しようとしてるんだ。


(フウカ……)


「じゃあ、…危ない!」


 ピートの声によって全員が身構えた。2人に夢中になっていたせいでモンスターが近づいているのに気づかなかった。

 どうやら花の香りにつられたのか蜂のモンスターが集まってきていた。


「ピート達が危ない! 」


「ソラ待って! 」


 スズカに引き止められた。


「あの2人なら大丈夫。 それよりも……」


 確かにあの2人ならあれくらい大丈夫だろう。

 それにここで出て行ってしまうと、結果的にフウカのじゃまをしてしまう。



「ピート、怖い……」


「大丈夫! フウカのことは僕が絶対に守る! 」


「ピート……」


 ピートは一人でモンスターの大軍へと突っ込んでいった。

 次々とモンスターを倒していくが一向に減らない。


 少しずつ相手の攻撃も食らっているようで、ピートの息もきれはじめた。


「フウカは絶対僕が守るんだ! 」


「ピート……私……」


 フウカは俯いて怯えていた。しかし次第に震えが収まっていく。

 フウカの小さな手が地面の土を握りしめた。


「ピート! 私も一緒に戦う! 」


「フウカ……うん! 」


 2人は協力して蜂のモンスターを撃退し始めた。2人の息はぴったりで瞬く間にモンスターを倒していく。


 かなりの数が減ると、モンスターの群れの奥から大型の蜂か姿を現した。


「あいつがボスみたいだね」


「そうだね」


「フウカ、大丈夫? 」


「ピートと一緒なら大丈夫! 」


「僕もフウカと一緒なら誰にも負けないよ! 」


 すると2人の前に魔法陣が展開される。2人の魔法陣は重なり合い大きな魔法陣へと変わっていった。

 魔法陣から放たれた絶対零度の風が蜂たちに襲いかかる。


 沢山いた蜂たちはあっという間に倒されていった。残ったボスも氷の彫像へと姿を変えていた。



「フウカ、怪我はない? 」


「大丈夫、ピートは? 」


「大丈夫だよ」


「あのね、ピート。 実をいうとね……」


「待って! 」


 そういうとピートは自分の体を探り出した。何かを探しているようだ。


「あった! あのね、フウカ」


 ピートはもじもじしている。


「ピート? 」


「前にお姉ちゃんに聞いたことがあるんだけど……お姉ちゃん達の世界ではずっと一緒にいたいと思う人に指輪を渡すんだって」


「そうなんだ……」


「それでね、本当は指輪を作ろうとしたんだけど、僕不器用だからこれしか作れなくて……」


 そういうとピートは木を彫って作った腕輪を差し出した。


「僕、フウカとずっと一緒にいたいんだ。 だから受け取ってほしい。」


「ピート……私もピートとずっと一緒にいたい! 」


 フウカは涙を流しながら答えた。ピートがその涙を拭ってあげ、抱きしめたい。

 2人の顔はとても幸せそうに笑っている。



「ソラ、チエ。 もう大丈夫そうだよ」


「良かったね……フウカ」


「ピートもカッコよかったな」


「邪魔しちゃ悪いし、帰ろう?」


 2人を残して、俺たちは拠点へと戻った。拠点にはリタとライラが報告を待っていた。


「成功したよ」


「本当に!? 良かったー!」


「色んな服を作った甲斐がありました! 」



 しばらくすると2人が手を繋ぎながら戻ってきた。フウカの顔はとても幸せに満ちていた。


「おかえりなさい」


 2人は照れくさそうにしている。


「何かいいことでもあったか? 」


「ソラ兄、見守ってくれてありがとう! 」


「やっぱり、バレてたか」


「僕の鼻を舐めないでね! 」


 するとピートは鼻を指差した。やっぱりピートには全部バレていたみたいだ。

 それでも勇気を振り絞って告白したのはすごいことだ。


「ピート、フウカのこと頼んだぞ! 」


「当たり前だよ! 」


 ピートはもう一人前の男の顔になっていた。

 小さかったピートがこんなに頼りになるなんて……


「それよりもソラ兄、実はこれなんだけど……」


 そういうとピートは1つのタマゴを差し出した。さっきの蜂達がタマゴになる様子はなかった。なら考えられるのは1つだけだ。


「これってもしかするとピートとフウカの?」


「うん、2人で腕輪をしたら急に現れたんだ」


「ピート、お父さんになったのか……」


 なぜタマゴが生まれたのか、全くの謎だったが2人の子供で間違いないだろう。色々先を越された感はあるが素直に喜ぶことにした。

 それにしても、まさかタマゴができるとは…


 今までのタマゴとは違いすぐに孵る様子はなさそうだ。

 やっぱり神子から生まれたタマゴだからすぐに生まれていたのか。


 ピート達の子供を抱えながら、色々と考えていた。

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